僕はそして、君に出会う

男二九 利九男

時をかけるヤンキー

 ・・・この時期になると私はいつも後悔している。


 あの時、止めていればと・・・。最初は、ただふざけているだけだと思っていた。だから、こんなことになるとは思いもしなかった。でも、後悔してももう遅い。何故ならもう、あなたは帰って来ないのだから―――。





 1990年、俺は今バイクに乗っている。俺の名前は、後藤雄二ごとうゆうじ。地元で有名なヤンキーだ。「先輩、風気持ちいいっすね!」後輩の菊池直也きくちなおやと二人乗りをしている。「そこのバイク止まりなさい!」パトカーに乗っている警官が拡声機ごしに言った。「アハハハ!」楽しんでいると、「え?」突然、車が横から出てきた。(ヤバイ!ぶつかる!?)そのまま、衝突した・・・。


 「は!?」俺は、道路の真ん中で目が覚めた。「うお!?」すると、キキ―!と車が止まった。「な、何してですか!?危ないでしょ!?」眼鏡をかけたガリガリの男が車から顔を出して言った。「ああ?」俺は、立ち上がり男を睨んだ。「な、何ですか?と、飛び出したあなたが悪いでしょ?」男は、ビビりながら言った。「もう、いっぺん言ってみろ!?ああ!?」俺は、男の胸倉を掴んだ。


 「見ろよあれ。今どき、マジのヤンキーだぞ。」そこを少し遠くから、二人の男子高校生が見ていた。「アハハ!やべえ、激レアじゃね。」二人は、四角い携帯のようなもので俺を撮っていた。俺は、髪は金髪で耳にはピアス、※革ジャンに※ボンタンというヤンキーお馴染みの格好をしていた。


 ※革ジャン・・・革製のジャンパー。

 ボンタン・・・昭和の不良が履いていたズボン。


 「何、勝手に撮ってんだ?ああ!?」俺は、また怒鳴った。「うおお!本物だあ。」ビビるどころか感動していた。「・・・はあ?」俺は、キョトンとした。「おい!遅刻するから、早く行こうぜ。」二人は去っていった。「何なんだあいつらは・・・。」俺は、ため息をついた。「そこの君、何をしている!?」すると、警官が近づいてきた。「やべっ!」「待て!」俺は、その場から逃げた。


 「どこ行ったんだ?あの子は?」警官は、去っていった。「はあ・・・、はあ・・・。つ、捕まるかと思った。」俺は、路地裏に何とか逃げ延びた。・・・陸上部入ってて良かったな。「喉乾いたな・・・。コンビニ行こ・・・。」俺は、警官がいないことを確認し目的地へ向かった。


 「えーっと・・・。これは、どういうこった?」コンビニがあった場所には、住居が建っていた。「・・・家に帰るか。」と歩き出した。すると、「え?」サラリーマンのオッサンが俺の顔を見て驚いていた。「何だよ。オッサ・・・ン?」その顔には、見覚えがあった。「直也?」「先輩?」俺と直也?は、同時に言った。「マ、マジかよ!?直也、ど、どうしたその顔!?」俺は、パニックになった。「と、とりあえず、先輩つ、ついて来てください!」直也も動揺していた。そして、俺は言われるがままついて行った。





 「先輩、落ち着いて聞いてください。」俺は、直也の住んでいるアパートに連れてこられた。会社に休みの許可を取ってくれたようだ。「お、おう。」俺は、何か嫌な予感がした。「・・・先輩は、あのバイクの事故で亡くなったことになっているんです。」・・・マジかよ。俺は、頭を抱えた。「・・・今は、平成何年だ?」「・・・30年です。」なるほど、つまり・・・。「・・・映画で言うタイムスリップをしたってことか。」俺は、訳が分からなさ過ぎてため息をついた。


 「そういや、おふくろと理沙は?」理沙とは、俺の5歳下の妹のことだ。おふくろには、女手一つで育ててもらった。「・・・理沙ちゃんは元気です。でも・・・、お母さんの方は・・・。」直也は、口をつぐんだ。「どうした?」俺は、心配になって聞いた。「ガンで・・・病院に・・・。」直也は、強く握りしめた。「そうか・・・。」俺は、ショックでしばらく無言になった。話を聞くと、俺がいなくなったあとは直也が後藤家を支援してくれていたそうだ。


 「これから、どうすっかなあ・・・。」家にも帰れないしなあ・・・。と考え込んでいると・・・。「・・・先輩、提案があるんですけど。」直也は、何かひらめいたようだ。「元の時代に戻る方法、一緒に考えませんか?で、その間、ここに住んでもらって構わないので。」直也の顔が俺の顔につきそうなぐらい近づいてきた。「そ、そうだな。」俺は、あまりの顔の近さに後ろに下がった。


 突然、未来の世界での同居生活が始まることになった。と、言ったものの・・・。「どうしよう・・・?」二人は、腕を組んで考え込んだ。「・・・とりあえず、本屋に行くか。」「・・・そうですね。」本屋に行きタイムスリップ関係の本を沢山買うことにした。


 「さて・・・、始めるか。」買ってきた本を全部読み漁ることにした。・・・道中、顔見知りのオッサンにバレそうになったが、何とか誤魔化すことができた。「・・・結構、時間かかりそうだな。」10冊以上ある本を見て俺は、ため息をついた。





 「はあ・・・。」気がつけば、朝になっていた。・・・こんなにたくさん読んだのは初めてだ。全部読んで分かったことは、重力を使う、光より速く移動する、どこぞの猫型ロボットのようにタイムマシンを使う、などすれば戻れるかも知れない。が、どう考えても不可能だ。


 息抜きに関係しそうな映画も借りてきたが、分かったことと言えば2018年の映像は、綺麗すぎるということだけだった。特に少女と少年の体が入れ替わり、彗星によってある村が滅ぶ未来を変えるという映画が、アニメとは思えないほど綺麗だった。・・・俺、何してたっけ?


 「ふあ・・・、おはようございます・・・。」直也が眠そうに言った。直也には、仕事があるので早く寝てもらっていた。「これ、全部読んだですか?」彼は、山積みの本を見て驚いた顔をした。「朝ごはん作りますね・・・。」直也は、欠伸をしながら台所に向かった。「作っといたよ。」俺は、すました顔で言った。「いただきます。」俺と直也は、一緒に朝ごはんを食べた。


 朝ごはんを済ませて、直也が仕事に行った頃・・・。

「暇だなあ・・・。」暇だったので、テレビ番組を見ていたのだが、90年代に比べるとあまり面白くなかった。「・・・散歩行くかな。」オッサンの件があるので、あまり外に出たくない。・・・でも、暇だしなあ。俺は、置いてあったマスクをつけて外出した。





 生まれ故郷の景色は、ほとんど変わってなかった。・・・てか、ちゃんと見たの初めてだな。俺は、自分の過去を振り返っていた。おふくろと理沙のことを含めて・・・。おふくろは、18歳の時に俺を生んだ。


 周りからは、批判が多かったがおふくろの両親だけは、見捨てなかったそうだ。もちろん、退学になったがそれでも、祖父母の支援もあって何とか仕事につき、俺の親父と幸せに過ごしていた。


 ・・・この幸せは、ずっと続くと思われていた。


 俺がわずか四歳の時、親父は何も言わずに出ていった。おふくろは、夜な夜な一人で静かに泣いていた・・・。それでも、俺の前では笑っていた。それを聞いた祖父母は、さらに手厚く支援してくれた。


 それから、一年後・・・。二人目の再婚相手との間に、妹の理沙が生まれた。今度こそ、あの幸せな時間を過ごせると思っていた。だが、それも長くは続かなかった。その男は、よく暴力を振るっていた。余りにも、暴力を振るうため祖父母に相談し、祖父母の近くに住むことにした。そして、何も告げずに俺と理沙を連れて、男の家を出た。


 その一年後・・・。俺が小学生になり、楽しい小学校生活が始まると思っていた。だが、それは最初だけだった。いつしか、虐められるようになっていった。虐められ始めた頃は、俺は耐えていた。おふくろにも泣きついたが、絶対に手は出したくなかった。のようには、なりたくなかったからだ。


 しかし、中学一年生の頃、事件は起きた。


 ある日、いつものように虐められていた。教師は、その様子を相変わらず冷たい目で見つめていた。そんな中、虐めっ子のリーダーが俺を踏みつけながら、おふくろの悪口を言い放った。それを聞いた瞬間、憎悪に近い激しい怒りが湧いた。気づけば、虐めっ子のグループは床に倒れ込み、俺はリーダーに馬乗りになり、気を失うほど殴りかかっていた。その時、俺は始めて反抗した。


 その後、おふくろに怒られ、教師は俺が一方的に殴ったと言っていた。俺は、その時におふくろに見放されたように感じ、孤独感と怒り、悲しみが湧いた。その日から、俺は人間不信になり、反抗的な態度を取るようになっていた。髪を染めたのは、中学二年の頃からだ。


 そんな中、高校二年の時、直也に出会った。


 最初は、舐めた態度に腹が立ち、よく喧嘩をしていた。俺は、また一人になるのかと思っていた。ある時、直也は俺に「舐めた態度を取ってすみませんでした!!」と突然、謝ってきた。俺は、突然だったことと、初めて他人に話しかけられたことでかなり動揺した。


 だけど、「尊敬してます!ダチにしてください!」と初めて他人に嬉しいことを言われた。友達は、俺には一生できないと思っていた。その時、俺は久しぶりに孤独感が満たされた。そして、初めて友達ができた―――。





 「・・・帰るか。」と帰ろうとした時、通り過ぎた女性と目が合った。 「え!?あ、あの・・・。」女性は、目が合った瞬間、驚いた顔をした。・・・どう見ても、理沙だったので俺は目をそらした。「す、すみません。マスク取ってもらっていいですか?」・・・ばれたなこれ。


 「な、何ですか?突然、話しかけて・・・。」俺は、下手くそな誤魔化しをした。「お願いします。」理沙の真剣な表情に押し負けて、俺はしぶしぶマスクを外した。「やっぱり・・・。」理沙は、驚いてはいたが何処か冷静だった。気まずい空気が辺りに流れた。





 「・・・おふくろは、元気か?」周りの目が気になるので、一人暮らしをしている理沙のマンションに移動した。「・・・一応ね。」相変わらず、気まずい空気が流れている。この状況について説明したが、すぐに受け止められるものではない。


 「直也から聞いたよ。あいつのおかげで生活できたって・・・。」俺は、止まりそうな口を無理やり動かした。「そう・・・、あの人のおかげで大学まで行けたわ。」理沙は、笑顔でそう言ったが、その笑顔は何処か困惑していた。そりゃそうだよなあ・・・。死んだ兄貴が目の前に、しかも、死んだ当時のままいるのだから無理もない。


 「俺が死んだあと、おふくろどうだった?」俺は、未来に来てからずっとそれが気になっていた。「・・・あの日、お兄ちゃんとお母さん、喧嘩したもんね。」俺が事故で死んだあの日、いつものようにおふくろと喧嘩していた。反抗期のよくある些細な喧嘩だ。


 だが、その日は違った。俺が小さい頃、おふくろからもらったお守りを誤って破いてしまった。それで、おふくろは見たこともない形相で激怒した。あまりの気迫に少しビビったが、それを誤魔化すように怒鳴り散らし、家を後にした。


 「・・・ずっと、自分を責めてたわ。あの時、止めていればって・・・。」理沙は、悲しそうな表情で言った。「そうか・・・。」俺は、何も言葉が出なくなった。「ねえ、お兄ちゃん。お母さんに会ってみない?」理沙は、そう提案してきた。「そう・・・だな。うん、少し考えさせてくれ・・・。」そう言って、理沙のマンションを後にした。ついでに、電話番号も聞いておいた。





 理沙のマンションから帰ってきて数時間後・・・。「ただいまー。」直也が帰ってきた。「ああ・・・、お帰り・・・。」気づけば、夕方になっていた。「どうしたんですか?電気もつけずに・・・。」直也は、電気をつけた。「何かあったんですか?」直也は、心配そうに聞いてきた。


 「・・・理沙に会った。」俺は、重い口を開いた。「え!?」直也は、驚いた顔をした。「おふくろに合わないか聞かれたよ・・・。」俺は、静かにそう言った。「・・・会えばいいじゃないですか。」直也は、意外なことを言った。「俺のせいで苦しんでるのに、会いに行ける訳ねえだろ・・・。」俺は、ため息をついた。「・・・ちゃんと、謝った方がいいと思うけどなあ。」直也は、そう言った。「そりゃそうだけどさあ・・・。」すると、俺のガラケーが鳴った。





 理沙からだった。「もしもし?どうした?」すると、「お兄ちゃん!お母さんが・・・!」切羽詰まっているように言った。「おふくろが!?おふくろがどうした?」俺は、そう真剣に言った。「急変を起こして・・・。とりあえず、早く来て!」俺は、電話を切った。


 「どうしたんですか?」直也は、聞いてきた。「・・・おふくろが急変を起こしたって・・・。」俺は、心配して言った。「え!?だ、だったら早く行かないと・・・。」直也は、慌てて外に出ようとした。「先輩、早く!・・・先輩?」俺は、動かなかった。


 「何してるんですか?」直也は、驚いたように言った。「俺のせいで・・・。」まだ、戸惑っていた。「まだ、そんなこと言ってるんですか!?」直也は、呆れたように言った。「お母さんが一大事なんですよ!?ほら、早く行きますよ!」直也は、俺の腕をつかんだ。


 「お前に何が分かるんだよ・・・。」俺は、うつむいたままそう言った。「なに言って・・・。」直也は、そう言った。「・・・生まれた時から、親のいなかったお前に何が分かるんだよ。」俺は、直也を睨んで言った。すると、「なっ・・・!?」パシン!という音と共に頬に痛みが走った。


 「ああ、そうですよ!」直也は、俺の胸倉を掴んだ。「確かに僕は、ただの他人かもしれない。でも、京子さんは僕を自分の息子のように接してくれた・・・。」直也は、悲しそうに言った。「あの事故にあった日、京子さん何て言ったと思います?」直也は、俺の胸倉から手を離した。「生きてて良かった、心配かけてって、泣きながら自分の子供のように抱きしめてくれたんですよ?」直也は、目に涙を浮かべて言った。


 「そんな人を先輩は、見殺しにしようとしているんですよ?」俺は、はっとした。「それでもいいんですか!?」俺は、直也に揺さぶられた。「ごめん・・・、俺が馬鹿だった。」俺は、自分の馬鹿さに嫌気がさした。「おふくろのところ行くよ。行って、ちゃんと謝るよ。」俺たちは、急いでおふくろの病院に向かった。





 「はあ・・・、はあ・・・。つ、着いた・・・。」俺は、直也に道を教えてもらいながら、何とか病院にたどり着いた。「あ、あの後藤京子さんの関係者なのですが・・・。」俺は、息を整えて受付にそう言った。「・・・分かりました。どうぞ。」俺は、受付を済ませた。


 「あ、お兄ちゃん・・・。」理沙は、元気のない声で言った。その頬には、涙の跡があった。「ごめん・・・、遅れた。」俺は、そう言った。すると、病室のドアが開いた。「先生・・・。」理沙は、立ち上がった。「そちらの二人は、ご家族ですか?」医者は、そう聞いてきた。「はい。そうです。」俺は、そう返した。「申し上げにくいのですが・・・。恐らく、長くもって今夜まででしょう・・・。」医者は、悔しそうに言った。「そうですか・・・。」理沙は、泣き出した。俺は、理沙の背中をさすった。


 理沙が少し泣き止んだ頃・・・。「お母さん。お兄ちゃん来たよ。」理沙は、笑顔でそう言った。「おふくろ・・・、俺だよ、雄二。」俺も笑顔でそう言った。「雄二・・・?本当に・・・?どうして・・・?」おふくろは、か細い声でそう言った。「会いに来たんだよ。」俺は、そう言った。


 「そう・・・。雄二・・・、あの時はごめんね・・・。」おふくろは、涙を浮かべて言った。「会ってすぐ言うことじゃねえよ・・・。それに、謝んないといけないのはこっちだよ・・・。」俺も笑顔で涙を流して言った。「ごめんな・・・。育ててくれたのに・・・。」おふくろの手を握った。


 「でも、今更謝っても遅いよな・・・。迷惑をかけてばっかだったし・・・。」握ってない手を強く握りしめた。「そんなことないよ・・・。」俺は、顔を上げた。「いいんだよ・・・。次、迷惑かけなければ・・・。」おふくろは、笑顔でそう言った。


 「俺・・・、やり直せるかな・・・?」俺は、大粒の涙を落として言った。「大丈夫よ・・・。自慢の息子だもの・・・。」おふくろは、変わらず笑顔でそう言った。・・・俺は、何て馬鹿なんだ。こんな、意地を張ることよりも大切なことに、当たり前のことに気付かないなんて・・・。


 おふくろは、昔からそうだった。どんなに失敗しても、どんなに迷惑かけても、どんなに俺を叱っても、今度は気を付ければいいと、笑顔でそう言ってくれた。そんな、おふくろが死に際の時まで、俺に言ってくれている。俺の心は、感謝でいっぱいになった。


 「これ・・・。」おふくろは、何か取り出した。「これは・・・。」小さい頃にもらったお守りだった。「まだ、持ってたのか?」おふくろは頷いた。お守りには、縫付けた跡があった。「ごめんな・・・。」俺は、こらえきれず涙を流した。


 「ずっと・・・、渡したいと思ってた・・・。」おふくろは、満足したように言った。「そうか・・・。ありがとう・・・。」俺は、泣き声でそう言った。「私がちゃんとしてたら・・・。」おふくろは、心の底から申し訳なさそうに言った。「もう、いいよ・・・。ありがとう・・・。」俺は、笑顔で言った。


 「最後・・・に・・・会えて・・・良か・・・った・・・。」おふくろの様子がおかしくなった。「おふくろ・・・?」脈が一気に下がり、嫌な高い音が響いた。「おふくろ!?おふくろ!!」医者と看護士が入ってきた。その後、おふくろは俺たちに、みとられながら息を引き取った―――。





 俺たちは、医者に礼を言って病院の外に出た。直也は、先に帰り俺と理沙は一緒に帰ることにした。途中、ある公園で休憩することにした。「ふう・・・。」俺と理沙は、ブランコに腰かけた。その公園は、俺と理沙がおふくろとよく一緒に遊んでいた場所だ。


 「懐かしいね・・・。」理沙は、周りを見渡して言った。「・・・ああ。」俺は、静かにそう返した。「一緒によく遊んでたよね・・・。」理沙は、涙をこらえながらそう言った。「・・・ああ。」俺は、変わらずそう返した。「楽しかったよね・・・。」理沙は、こらえきれずに涙をこぼした。


 「お前って昔から泣き虫だったよな。」俺は、ニヤついて言った。「う、うるさいなあ・・・。もう!」理沙は、涙を拭って言った。「お兄ちゃんだって小さい頃、お母さんの前では泣いてたじゃない・・・。」理沙は、そう言い返した。「そ、それは言わなくていいだろ・・・。」俺は、困った声で言った。





 「・・・ありがとな。」俺は、小さな声でそう言った。「え?お、お兄ちゃん!?」俺の体は、光を放ちながら少しずつ消え始めた。「・・・多分、元の時間に帰るんだと思う。」俺は、そう言った。「そんな・・・!お兄ちゃんまでいなくなったら・・・私・・・!」理沙は、涙をこぼした。


 「・・・俺きっとさ、お前やおふくろにありがとうって言うために来たんだよ。」俺は、笑顔でそう言った。「だからさ、そんな悲しそうな顔をするなよ。」理沙の顔の横をさすりながらそう言った。「うん、うん・・・!」理沙は、泣きながら微笑んだ。


 「・・・私、一人で生きていけるかな?」理沙は、俺の手を握って言った。「大丈夫だよ。お前には、俺とおふくろとの思い出がある。」あっちに戻ったら、やり直そう。今度は、後悔しないように・・・誰も悲しまないように―――。





 「そろそろだな・・・。」俺は、ため息交じりにつぶやいた。・・・誰かに聞いた訳ではないが、俺はそんな気がした。「・・・そうみたいね。」理沙もそう思っていたようだ。「やっぱり、私・・・寂しいよ・・・。」理沙は、涙をこらえながら笑顔でそう言った。


 「あ、そうだ。これを・・・。」俺は、あのお守りを取り出した。「お前にやるよ。」俺は、笑顔でそう言った。「でも、これ・・・お兄ちゃんの・・・。」理沙は、困ったように言った。「いいよ。お前に持ってて欲しいんだよ。」「・・・分かった。」理沙も笑顔でそう返した。


 「・・・あっちに戻ったらさ、俺やり直すよ。」俺の目には、涙が浮かんでいた。「・・・うん。」理沙は、頷いた。「そしたらさ、あっちのお前とおふくろを絶対悲しませねえから・・・。」涙ぐんでそう言った。。「だから・・・、だから・・・!」俺は、言葉が出なくなった。「・・・お兄ちゃんの言いたいことは分かってるよ。だから・・・、安心して!」理沙は、笑顔でそう言った。「・・・そうか。・・・じゃあな!」俺は、光と共に静かに消えていった―――。





 「は!」俺は、目を覚ました。「雄二!?良かったあああああ・・・。」おふくろが涙を流して抱きついてきた。どうやら、90年に戻ってきたようだ。「もう!心配かけて・・・!ううう・・・。」おふくろは、泣きながらそう言った。「ごめん・・・。」俺は、そう言った。


 「俺、頑張るよ。やり直せるように、勉強して・・・。」照れくささもあって、上手く言葉が出てこないがそう誓った。「え?そ、そう。」おふくろは、キョトンとしていた。おふくろによると、俺と直也は事故にあったが、運良く頭を軽く打った程度で済んだらしい。


 翌日から俺は、猛勉強を始めた。最初の頃の直也は、賛同していなかったが徐々に頑張り始めた。一年後には、クラスの中でトップになっていた。その間に色々な奴に嫌がらせをされたり、嫌味を言われたりすることが多かったが、それでもくじけることなく努力を続けた。


 その数年後・・・。俺と直也は、ある会社の社員になっていた。俺は、まだだが直也は結婚して嫁のお腹には子供もいる。色々あったが、充実した仕事に就き、今では恋人もいる。・・・俺は、後悔しないように日々を送っている。あの未来のように、誰も傷つかないように生きていこう―――。

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