悪夢
私は夢を見た。
なんだか、息苦しい夢だった。
夢の中で、部屋に黒蝶が数匹いて、虫が嫌いな私は父親を呼んで、蝶を殺してくれと願った。
すると父親は、一匹の鮮やかな色の蝶を手に取って羽根をもぎとった。
私に見えていたのは黒蝶で、鮮やかな蝶がもう一匹いるとはわからなかった。
「違う、その蝶じゃない。」と、心の中で何度も言ったのに声には出せない。
私は黒蝶が気味悪かっただけで、あの鮮やかな蝶を殺して欲しかったわけではなかった。
右の羽、そして次に左の羽が失われて、胴体だけとなった蝶からは鮮やかさは感じられなかった。
胴体だけの蝶を見つめていると、父はクリップを曲げて遊ぶかのように蝶の触角を曲げて無邪気な笑みを浮かべていた。
私はその光景が恐ろしくて、しばらく固まっていたが、やがて黒蝶の存在を思い出した。
「その蝶じゃないの、黒い蝶がいるの。」
皮肉にも、声を出せなかったのに、蝶が死んでしまってからようやく声がでた。
父は手にしていた蝶を捨てて、私と共にあたりを見回した。
なのに、黒蝶は見つからない。
「いないぞ。」と父が言って、探すのを諦めた時、数匹の黒蝶が壁にとまっているのが見えた。
「あの壁にいる。」
すると、父はハエたたきで一瞬で仕留めた。
またあの残酷な殺し方を見たかったわけではないが、どうして黒蝶は楽に殺してあげたのだろうと不思議に思った。
次々としとめ、最期の一匹の蝶が殺される番になった。
最期の一匹は祖母の近くにとまっていて、おばあちゃんはそのことに気づいていないようだった。
私には、その黒蝶が祖母を殺しにきた死神かのように思えて、一刻も早く蝶が死ぬことを願った。
そして、最期の一匹も亡くなったところで目が覚めた。
目を覚ました私はひどく震えていた。
あの夢はいったい何だったのだろうか。
夢で良かったと思うと同時に、どうしてあんな残酷な夢を見てしまったのかと、自分が恐ろしかった。
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