ノート
僕は君の隣の席だった。
この席から見える君の横顔は退屈を物語っていた。
毎週、決まってこの時間になると、君はノートに絵を描く。
君が何を描いているのか僕にはわからないけど、絵を描くときの君の表情が好きだった。
下唇を少しかんで、眉に力が入っている。
いったい何をそんなに真剣に描いているのか、僕は知りたかった。
ある日、君の近くにわざと消しゴムを落としてノートを覗いてみた。
そうしたら、君のノートには先生が描かれていた。
君の描く先生は艶めかしくて、どことなく愁いを含んでいる。
確かに先生は綺麗な顔をしていたが、僕の目には、君が描いた先生の美しさは映らなかった。
僕の目に映ったのは、絵を描いている君の頬がうっすらと赤みを帯びていることだった。
瞬時に僕は理解した。
君は先生に恋をしていて、僕もまた君に恋をしていると。
気づいてしまうと、君を見るだけで苦しくなった。
あれほど好きだった君の表情を見ることが、今では怖かった。
僕が君を見なくなってからしばらくして、君は絵を描かなくなった。
君が描いた先生は辞職したらしく、君が絵を描くことはもう無かった。
これでやっと君の顔をまた見られる。そう思って僕は恐る恐る君の顔を覗くと、君は満足した表情だった。
君が描いた先生はいなくなってしまったのに、どうしてそんなに満ち足りているのだろうか。
きっと僕には理解することはできない。
それでも僕は、今日も君を想う。
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