第233話 ソサイティストな後日談

 その後の話を簡単にする。

 マチルダ達や斥候スカウトギルドから要請があったであろう聖職者達は冒険者達の蘇生処置を行ってもらう。


 後から聞いたがマチルダ達は移動に適した魔道具マジックアイテムを持っているらしく挨拶が出来ないまま彼女達が拠点としている魔物の集落へ帰還してしまったらしい。

 タウ達アサバスカ組のワーウルフもマチルダの協力で帰還したそうだ。

 そして、コハルに集落の場所を教えてくれた為、いつかまた必ず行こうと思う。


 コハルは、ロジャースさん達と共にアンジュ達の居るガンテツ屋へ送ってもらう事となった。

 ウィルとサニーが心配である。

 子供達の事は申し訳ないがコハル達にまかせるとして……



 俺と旧ガブリエル教壇大司祭のベノム、そしてロイスと旅を同伴したルド、シャル、そしてソマリの五人と共に騎士団長率いる盾騎士団に連れられていく。



 ネバ王都に戻る。

 そのまま久しぶりに訪れる剣の貴族の館、容体の悪いロイスは別の部屋へ運ばれ、俺達は謁見の間へ通される。

 するとすぐさまロイスの父親であろう当主が現れ騎士団長と共に話し合いを行った。





 ……






 半年ほどが経ち。

 結果が出た。


 意識を取り戻したロイスは……処刑を間逃れた。


 俺達や剣の当主、盾の当主、そしてベノムによる世界情報統制計画。

 それに王も納得し、ロイスの伝記の続編を制作し急ピッチで発行し大国に流していった。

 世間のヘイトを変えるのだ。

 内容は俺が言った、魔王となったイットがロイスに成りすまし悪行の限りをつくし、ロイスに退治される話だった。

 着色に着色を塗りたぐり、最初に登場したクズ野郎の復讐劇として面白い内容となった気がする。

 前回の伝記は賛否分かれていたが、二作目は魔王イットの外道っぷりが大衆に受けたらしく信憑性は二の次に名敵役として面白いと話題になる。

 有名な劇団が、二章の伝記を元にした演劇を公演させたり、あんな大人にはなるんじゃないと子供に言い聞かせる代名詞に俺はなってしまった。

 俺の悪口を言わせたら右に出る者はいないメイドのお陰だ。

 腹立たしいが、奴には文才があったらしい。


 世間は魔王イットの話題で盛り上がり始める中、復帰したロイス。

 彼は目が覚めるとすぐさま俺達へ泣きながら必死に謝罪してきた。

 俺達は魔王に洗脳されていたことはわかっていたが、自分の内側にあった孤独と狂気を相手にぶつけ、取り返しの付かないことをした泣き叫んだ。

 しばらくして彼の情緒が落ち着き、これからのことについて俺や周りの人間と話し合い決まる。


「迷惑をかけた人にお詫びがしたい。もう一度、世界の為に冒険へ出るよ」


 止める者もいたが、彼の意志は固かった。風当たりは未だ強いかもしれないが、彼らしい正義感を取り戻してくれた。


「イット君、今度こそ一緒に冒険へ行かないかい?」


 ああ……

 凄く嬉しい申し出なんだけどな……


 ……


 魔王イットは地下牢に閉じ込められるのだ。

 二度と出られない頑丈な牢に閉じ込められ、シャバの空気を吸うことも出来ず。

 死ぬまで一生……幽閉されることになったのだ……









 っていうのはウソ。


 いわゆるカバーストーリーって奴だ。

 国家間で、俺が悪事を行い王都ネバが捕縛したことになっている。

 大天使の加護により俺は死なない身体になったとか適当な理由をでっち上げて地下牢で管理したということにするそうだ。

 実際は幽閉もされていないが、他国に入国することは出来ず、王都ネバでも住民権を得られず身分を隠して生活することを王命で下ってしまった。


 これが今回の俺へのリスクとなった。


 だが、別にネバへ入国出来ない訳でもなく。元々税金を払わない為に郊外済みだったのであまり変わってはいない。

 唯一大変なのはマイホームを失ってしまったことだ。

 剣の一族から家の再建手配をしようかと言われたが、別からも声が掛かった。

 

 マチルダ達からだ。

 魔物の集落を近々移転するらしく、凄い近い訳ではないが王都ネバに新しい拠点が近づくらしい。

 ベノムから俺達が今アンジュ達のいるガンテツ屋に住まわせてもらっていること聞き、ウィルやサニーが人間の文化に馴染めない可能性も踏まえての申し出だった。


 そう言われるとそうだと思ってしまう。

 つい意識しなくなってしまうがコハルは魔物だ。

 そして、ウィルとサニーは人間と魔物のハーフ。

 世の中ではハーフリンクっていう枠組みとして扱われる。

 ソマリの様なハーフだが、人間と魔物のハーフは更に立ち位置が微妙だ。

 王都ネバは魔物に関しては寛容な少し特殊な国で、以前訪れたイダンセ国はコハルに対する検問が非常に時間が掛かるほど厳しい。

 いや、厳しい国の方が断然多かった。

 きっとこれから俺達の子供は魔物として扱われる機会が多くなる。

 それならいっそ過酷だが、魔物世界の感性を学ぶためにもマチルダ達の元で教育をすることも後々のことを考えるとありかもしれない。

 それに俺の子供という事は世間的にも、俺の名前を出さずに生きた方が良くなる。

 本当にそれは申し訳ないと子供達に思う。もっと普通の生活をさせてやりたかった。


 結構悩んだ結果、俺達家族はマチルダ達と合流しネバから少し離れて暮らすことになった。

 ガンテツさん達と距離が離れるのは悲しいし、アンジュはウィルとサニーが離ればなれになることに号泣。

 まあ、離れはするが、会えない距離ではない。

 ネバにも入国出来るしな。


 こうして、俺達はロイス暴走事件を終えて、真実を偽装工作した。


 俺が5代目魔王の名を付けられてしまったが……まあ、悪いことはしないしおとなしく暮らすつもりだ。


 こうして、世界にまた平和が訪れる。


 誰もが望む幸せな世界が。


 長い長い……安寧あんねいがな。

 めでたし、めでたし。



「めでたくない!」

「え!?」


 マチルダ達と合流するために馬車の中で話していた俺とコハル。

 そしてコハルが何故か怒り始めてしまった。


「な、なんで怒ってるんだよ?」

「当然でしょ!」


 先ほどまで変に黙っていると思ったが……どこか気に障ることでも言ってしまったか?


「かなり良い落とし所に収まったと思うんだけど……」

「そういうことじゃないでしょ!」


 やはりあれか……

 子供達を馴れ親しんだ人達から離し、魔物の集落という安全の確保がされていない所へ移住をすることにさせてしまったことか。


「すまないなコハル……安定した生活をさせてやれなくて。でもガンテツ屋には定期的に仕事へ行くし、金銭面に関しては剣と盾の人達から援助をしてくれるって話になってるから、子供を育てるだけの生活水準は――」

「もう、違うってば! イットのことだよ!」


 俺?

 今更俺に何かあるのか?


「イット……あれだけがんばったのに、世の中の人は全部イットが悪いってなっちゃったんだよ!」

「それはまあ……コハル達には申し訳ないと思ってる。ウィルとサニーも魔王の子供ってレッテルが付くかもしれないし、世間体は最悪になってしまったのは……」


 いくら、王都ネバの重鎮や関係者が真実を知っていたとしても、世の中の多くは俺を魔王だと思っている。

 それは本当に申し訳ない。


「それもそうだけど……イット自身のことだよ」


 コハルは俺の目を見る。


「ロイス君を助けるためとは言っても、イットが悪者になるのは、私納得できないよ!」

「仕方ないだろ。俺もそんなに頭良くないし、それしか現実的に救う方法がなかったんだ」

「イットは悔しくないの?」


 徐々に怒っていた表情のコハルに涙がにじみ出ていた。


「コハル……」

「今までイットは頑張ってきたのにさ! それなのに世の中から酷い扱いをされてさ! 私は悔しいし悲しいよ!」


 ここまで我慢していたのかもしれない。

 そんな感じで彼女は泣いた。


「もし、イットを倒しに来たって奴が来たら私がひねり潰すよ。家族に手を出したら人間でも絶対許さない」


 確かに、俺等はこの世界で最強の力を持っていると言っても良い。

 正直生活を脅かす敵が現れても俺達で対処できる自身はある。


「私はイットのことを大切に思ってるからさ……沢山の人から悪者だって思われるのがイヤ! そうじゃないのにって凄く悔しい!」

「あ、ありがとう」

「イットはもっと……自分を大切にしてほしい。自分のことを傷つけないでほしい……」

「……」


 自分のことを大切に……

 ……


「約束して……もう自分のことを傷つけないで。イットが傷つくってことは、私も傷つくってことなの。それぐらい、貴方のことを私は大切な存在だって……思ってるんだよ」


 ……ありがとう。

 こんなに、俺のことを思ってくれてたんだな。


「ごめん、コハル……」

「ちゃんと約束してね」

「わかった約束するよ。もう悲しませない」


 俺は、家族の事が。

 コハルの事が、とても大切だ。

 だから……

 もう悲しませない。

 だから!




 計画は 必ず実行する


 あの時から 俺は


 そう誓い 


 不遇と言われた


 付加魔法使いエンチャンターになったんだ






ーーーーーーーーーーーーーーー







 ここまでが、ほんの一握りの人達が知る魔王となった勇者イットの物語。




 そして、ここからは……


 イットの存在意義を証明する。


 私の……最後の物語。







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