第192話 ゲームであれ
角度によるが盾を使った音声変換は上手くいった。耳を澄ませば全員に映像内のロイス達の会話が聞き取れる。
『ねぇ……ルド』
前回止めた育成所である建物の屋上でロイスが街を見下ろし黄昏れているシーンから再生させる。再生と同時にロイスの後ろから現れ、彼に返事する。
『な、何かしらロイス。貴方からこんな所に呼び出して来るなんて珍しいじゃない。つ、つまらないことだったら承知しませんわ!』
ぼーっとしたロイスに対して、明らかに緊張しているルド。彼女は髪をイジったりとソワソワしながら彼の回答を待っていた。
『そしたらゴメン……君にとってはつまらないかもしれない』
ルドとは対象的に落ち着いた様子のロイス。彼は話を続ける。
『僕は気づいたんだ……ここがゲームの中の世界だって』
『……え?』
困惑するルド、そしてここにいる皆は彼の言葉を黙って聞く。
『皆、決まった台詞がインプットされていて、何かと僕を褒めるように仕組まれているんじゃないかって……』
『何を言って――』
『僕の前世はそんな人間じゃなかった。皆僕を馬鹿にし蔑んでいた。この世界の人達は優しすぎる。何で皆、僕に優しいのか……時々わからなくなるんだ』
・この世界の皆はことある毎に僕のことを賞賛してくれる。褒めてくれるし女の子達は好意を持ってくれる。最初は嬉しかった
・けど、ずっとそればかりが続くと本当に皆がそう思ってくれているのか疑わしくなってきたんだ。
・あまりにも都合が良すぎて信じられないんだよ
二人の映像を観ていた俺は思い出した。
彼は自分に優しいこの世界にずっと違和感を覚えていた。
やはり俺に会う前からずっと……そのことを悩んでいたのか。
映像に戻るとルドが話し出す。
『……よくわからないのだけれど確かにそうね。周りの人々が少々貴方に甘いという所はありますわね。それは貴方が自分で転生者であるとふれ回っているのが少々原因な所があるのじゃないかしらと思いますわ』
『……そんなに誰かに転生者だって、話していないけど』
『あら、そうだったかしら? まあ、貴方じゃなくても、主に貴方のお父様が言いふらしている節はあるわね。今じゃ貴族階級……いえ、この王都で貴方のことを知らない程は居ないですわ』
よく聞いたルドの嫌みも彼に対しては優しく感じる。
彼女は続ける。
『ゲームかどうかという話は良くわかりませんけど、貴方に優しくするのは必然ですわ。貴方はワタクシと同じく貴族として産まれ、おべっかを使われる立場なのですから。確かにそこには実力なんてありませんわね。ワタクシ達は恵まれた所に産まれたことは紛れもない事実ですもの』
『……』
『そして剣舞の才能まで持ち合わせていれば周りが持ち上げるのも当然ですわ。ワタクシも貴方と比較されて本当にうんざりしてますもの』
『……ごめん』
『謝らないでくださらない』
ルドの言葉にロイスはまたも謝る。
どことなくロイスの口元が緩んだようにも見えた。
彼女は溜息で返しつつ続ける。
『ただロイス、多くの人から賞賛されていたとしても、そうやって疑問を持てるという所……ワタクシは尊敬していますわ』
『え……』
『自惚れず、日々鍛錬に励み、そして夜な夜な抜け出して王都の治安を守っている』
『……知ってたのか』
『何年の付き合いだと思っているの? でも安心しなさい。そのことは誰にも話していませんわ』
見たことの無い笑顔のルドに新鮮味を感じつつ、彼女は普通の女の子のように彼へ接する。
『とにかく、地位や名誉、転生者であるお陰で周りの皆が貴方を賞賛している訳では無いとワタクシは思いますわ。貴方の優しい人間性、そっちに周りの皆は惹かれているように思えますわ』
『……』
『だから考えすぎよ。あまり陰気くさくなるのは良くありませんわ。ワタクシはそういう殿方は好きではありませんもの』
少年少女時代の青春ドラマを観ているような錯覚を覚えるが、それよりもロイスを注目し続ける。
彼女の元気づける言葉を聞き『ありがとう』と笑顔を返すが向き直った途端、浮かない表情を浮かべていた。
……彼にとってはやはりここがゲームの世界でルドの励ましもNPCに仕込まれた台詞だと思っているのだろうか?
・この世界がゲームなのだとしたら、この世界の住民達は中身の無いプログラムの存在なんじゃないかってずっと心の中でモヤモヤしているんだ。
・皆僕を褒めるためのNPCじゃないかって。
・本物は転生者である僕達だけ、僕とイット君だけが本物なんだよ。
……きっとそうだ。
この時のロイスはきっと慰めてほしい訳じゃないのだ。
・だが、一つだけ俺は違うとお前に言いたいことが出来た。
・俺は……この世界がゲームの中なんて思えない。
・少なくともここに住む人達は皆生きる。そう思うんだ。
・皆いろいろなことを思い、思い合い、一生懸命生きている。
・ここの人々は決して偽物なんかでは無い。
・だからロイス、この世界に君が褒められたり愛されたのなら、それは君の成果だ。
・紛れもない君の力だ。
俺もルドと同じ事を言っていた。
・そっか、やっぱり僕達境遇が違うからかな
・見てきた物が違うのかもしれない
もしかしたらあの時、俺はロイスのことを無自覚で追い詰めたのか?
もしかしたらロイスにとって……
ここがゲームの世界である方が良いのか?
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