第191話 新しい人生

 王都ネバの剣の一族と言われている上流階級貴族、俺達も見覚えがある館。

 そこで一人の男の子が産まれた。

 時期的に間違いなくロイスだ。

 ロイスが誕生すると同時に映像の皆は喜んでいた。

 過去の世界とは打って変わり、周りの皆が彼を祝福してくれている。

 お家柄だからかもしれないが、両親や彼の姉妹達から可愛がられ手厚く丁寧に丁寧に育てられていった。

 一年もしないうちに魔法元素キューブを取り出せるようになっており周りを驚かせ、立ち上がる頃には流暢そうに何かを話して、周りを更に驚かせていた。

 そう言えば、前世と同じ名前を自身の両親に話して同じ名前を付けたと言っていたけどどのタイミングだったのだろう。

 途中で改名したのだろうか?

 音声が聞こえないので想像するしか無い。


 ロイスはすくすくと成長していき、やがて十代に差し掛かる。

 そこまで何不自由なく暮らしていき、親からも周りからも愛されていることが伝わる生活だった。

 何も彼の過去を知らなければ、羨ましいや妬ましいなどの嫉妬の念を抱くかもしれない。昔の俺がそうだった。あまりにも転生後の落差が激しくてベノムに少しだけ愚痴を漏らしたのは覚えている。

 だが、寧ろこれで良かった。

 彼には前世で苦しんだ分を取り戻してほしいと思う。


 進むにつれてロイスは一人の少女と仲良くなっていく。間違いなく、それは幼いときのルドラー……ルドだった。

 ルドはネバ王家直属の護衛貴族の一つで剣の一族と対を成す盾の一族の……確か末の娘だと自分で話していた。

 彼と出会う直前のルドは何やら元気がない様子で豪邸の裏庭の隅でしゃがみ俯いていた。そこへロイスが現れ彼女に声をかけたのが初めての出会いだった。

 元気のない彼女へロイスが話しかけていく。最初はルドの反応が得られない様子だったが、時間が進むにつれて徐々に打ち解け合ってあっていることがわかる。

 二人が騎士育成所へ入る頃には、明らかにルドがロイスに好意を抱いていることがわかる程ではあった。


 育成所は昔の世界で言う学校のような所で、剣技だけでなく礼儀作法や勉学なども学ぶ富裕層の学校といった感じだった。その中で彼は優秀な成績を収め周りから賞賛され、その中には彼に嫉妬する者もいた。


 そして彼は自由な時間、友人と遊んだりせず変装して街を飛び出していった。いつぞやに見た銀色の仮面を付け、建物の屋根を飛び移りネバ王国を巡っていた。

 最初は自分の産まれた国をお忍びで廻っているように見えたが、少しずつ人助けを初めて行く。



・天使様に頂いたせっかくの力ですからね。善行に使いたかった。

・生前は、勇者とかに憧れていたのもあるかもしれませんね……



 そう言えば彼は、この世界に着たとき目的を言っていた。

 昔憧れていた勇者なりたい。

 そして、彼は夢を叶えた。

 この世界で勇者になった。

 なのにどうして今は……

 そんなことを考えながら時間を進めていくと、ふとロイスが育成所である建物の屋上で街を見下ろし黄昏れているシーンが目に入って止めた。

 特に何でもない光景であるが、何故だか街を見る彼の表情からどこなく

 止めていたシーンを動かすと彼の後ろからルドが現れ、少なくとも俺は見たことがないような楽しげな表情で彼に話しかけていた。

 それにロイスは、表情を変えず何か返答している様子だった。


「何かを話してるみたいだ」

「くそ……音声が聞こえればな……」


 俺とベノムが改めて映像だけであるこの魔法に惜しい気持ちを隠せなくなる。

 確かに過去の光景を場所問わず見ることが出来るのはとてつもない力で悪いことが沢山出来る。それどころか国一つ壊滅出来る程には今の魔法はとんでもない。

 過去に何をやっていていたのかまではわかるのだが、音声が無い以上その場の人間達の心境までは想像で保管するしか無かった。今はロイスの真意を探りたいので、肝心の部分が想像するしかないのが辛い。

 ここは諦めて先に進もうと魔法を動かした時だった。


「ねぇ、イット」


 コハルが制止する。

 耳をピンと立てた彼女は続ける。


「なんか……さっきから……揺れてるのを感じるんだよね」

「揺れてる……」


 コハルがそう話すと、周りのスカウトギルドは武器を構え辺りを警戒し始める。

 俺とベノムも無言になり、辺りを伺うが振動は感じず、虫の音色と風で葉が擦れる音だけしか聞こえないように思える。だが、静かになったことでコハルの耳は更にその振動を捉えたらしくそれを指さした。


「なんか、あそこにあるやつ」


 彼女が指した物は俺が展開した、光の線で形成された立体映像から離れた所に謎の光る球体が何故か形成されていた。


「皆そのまま静かにしてて、ちょっと魔法を動かしてみて」


 彼女の言うまま、皆は静まり俺は映像を動かす。

 特に何も感じないが、コハルは目を閉じて意識を集中させる。そして一つ頷いた。


「やっぱり魔法を動かしていると、あの光の振動が大きくなってる気がする。触ってみるね」

「あ、おいコハル!」


 コハルが俺の魔法に触れようとした時だった。


「やめな」


 手を伸ばすコハルをベノムが制止する。


「さがっておきな」


 コハルを自身の後ろへ来させ、ナイフを取り出し刃先を魔法に触れ指した。


『――もう?』

「「「!?」」」


 突然話し声のような音が聞こえた。

 この場にいる全員が驚き、かすかではあるが光に指しているベノムのナイフから音が漏れているように思える。


「これは、音声なのか?」

「間違いなくそうだろ。しっかり聞こえているじゃないか」


 俺が言葉を漏らすと、ベノムがそう言ってくる。


「聞こえるって言っても、みたいなものしか聞こえないぞ?」

「……」


 ベノムが一瞬静かになりナイフを軽く振る。


「もしかしたら、聞こえてるのは私だけか?」

「ベノムだけに?」

「ああ、この光に刺したナイフを握る私だけに、ロイス達の会話が聞こえているみたいだ」



 ――カチッ



 俺は振動と触れただけで聞こえるというワードであることを思い出した。


「……骨伝導なのか」


 生前の世界で一時期はやっていた。

 音は空気の振動により作り出され、我々人間はその振動を鼓膜で受け取り認識される。空気だけで無く骨の振動によって鼓膜へ伝える機器が生み出されたのが骨伝導スピーカーだ。

 あの光の球は音声を再生する振動の役割を果たしていたのか。つまり今までの映像達も聞こえないだけで音声再生されていたのか。

 魔法をイジるがみたいな項目はなく、俺から光まで手が微妙に届かない距離にある。


「俺も聞きたいのだけど、誰か棒か剣なんかを貸してくれないか?」

「いいや、それより皿みたいな奴が良いかもしれん。音を反響させて触れていなくても全員に聞かせられる気がする」


 上手くいくかはわからないがベノムの案を試してみる価値があると思い頷く。

 彼女は部下に向けて問う。


「コップと皿、誰か持ってないか?」

「い、いや、さすがに持ってきてないっすよ……」


 と言いつつ皆で荷物の確認をし、丸い鉄の盾が角度によって音を響かせた為それを採用した。

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