第160話 その後の世界よ

「魔王討伐の伝記、読んだか?」

「いいや、本なんて高くて買わねぇだろ」

「いや、何でも新聞の号外で冒頭の話は配ってたらしくてな。その冒頭がここ王都ネバから出発した話から書いてあったって話だぜ」


 そう、ここは王都シバ・ネバカア。

 そこのとある安い軽食屋だ。

 近くに居た声の大きな男二人の世間話が聞こえてくる。


「そうか、確か今回の勇者がどんな冒険をしてきたのか気になるよな」

「ああ、気になるよな? で、その本を買った奴の感想が今話題になっててな」

「何だ? 面白かったのか?」

「いいや、結構賛否が分かれてるんだよ」

「ん? どういうことだ?」


 俺は定食を食べながら聞き耳を立てる。


「最初に仲間になった付加魔法使いエンチャンターの性格が悪い奴でな、勇者達の足を引っ張り続けてたんだが、最後に自爆特攻して強敵を倒しそのままパーティー離脱したって話があるんだけどよ……」

「へー……中々熱くなる展開じゃねぇか」

「ああ、だがその最初の付加魔法使いエンチャンターのことを知ってる奴らから今回の伝記がもの凄く批判を受けてるんだ」

「そりゃなんでだ?」

「何でもその付加魔法使いっていうのが――」

「ごちそう様」


 俺はお勘定を済ませ席を離れる。





 曇り空の下、王都ネバの歓楽街を歩く。

 ここ数年でよりこの王都は盛んになった。いや、世界的にも人族の動きに活気がついたと思う。

 勇者が魔王を倒した。

 三年前の戦いで、この国出身の勇者ロイスパーティーが魔王討伐を達成したと全世界へすぐに伝わった。

 魔王という大きなバックを失った魔物達は人族の勢いに飲まれ数を減らし貿易が盛んになったのだろう。

 そして、商業にも変化が起きていた。


「おばさん、ケーキ3つ」

「はい、どーも! 12Gだよ!」

「カード使える?」


 俺は懐からクレジットカードサイズの板を出した。

 俺達が旅立っている間に支払い方法が進化していたのだ。

 ガンテツ屋のポイントカードシステムが商業ギルドに広まり、実用的な段階まで発展。今や国の銀行が絡み直接お金のやり取りが出来るように進化していた。

 魔王がいなくなったのも追い風となったのかここ5年の間に通過の重量問題が一気に解消されていた。


「ごめんね、うちまだカード使えないのよ」

「あれ?」


 まだカード支払いが浸透しきっている訳ではない。

 設備の導入やら店側にとってまだまだ敷居が高いものなのだ。


「しまったな……小銭をもう少し用意しておけば……」

「まったく! 何もたもたしてるのよ!」


 ポケットをまさぐっていると、横から女の子の声がかかる。

 視線を向けると背の低い赤い髪の少女が俺の横に並びケーキ棚を指さした。


「今言ったケーキじゃなくて、そこのフルーツたっぷりのやつに3つとも変えて! お金は私が立て替えるわ!」


 彼女を見ると見た目はあまり変わらないが少し大人びた雰囲気を出すドワーフのアンジュがいた。


「アンジュ……いや、それは俺が払うから大丈夫……」

「アンタお金持って無いんでしょ!」

「うっ……」


 その通りなので申し訳ないが、後で払うので立て替えてもらった。

 続けて彼女は上機嫌に話す。


「全くどこほっつき歩いてるのよ! アンタの昼食が長いから探したわよ!」

「いや……まだ出発の時間じゃないだろ」


 俺とアンジュは待ち合わせをしていた。

 お土産用にとケーキを用意しようと思っていたのだがまさかこんな所で鉢合わせるとは……

 アンジュは続ける。


「この日を楽しみにしてたんだからしょうがないでしょ! 凄いスケジュール調整したんだからね! さて、どうしようかしら? の為に何か買ってあげようかしら? おもちゃとか?」

「いや、アンジュが来てくれるだけで喜んでくれるよ」

「フフーン! 嬉しいじゃない! お留守番でおじいちゃんは悪いけど、今日はアンタの家で休ませてもらおうかしら!」


 そう、今日は郊外の林にある俺達の家へアンジュを招待する約束だったのだ。

 時間が早いが彼女の意向で早めに帰宅することとなった。

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