第155話 三兄弟よ
同じ言語で話しかける。
コハルが元々俺等と言葉が通じ合っていたので、ここのワーウルフ達も同じなのではないかと考えていた。
皆はその場で立ち止まり、警戒しつつも全員俺の言葉に耳を傾ける状況になった。
言葉が通じたのかどうかわからないが、
コハルの方も、斧を持った狼少年とにらみ合い硬直する。
俺も拘束していた狼少女を解放する。
そして、落ちていた弓を拾おうとすると彼女はすぐさま奪い取り、逃げるように仲間達の元へ向かう。
それを見て俺は続ける。
「俺達は、お前達の仲間を連れてきたのだ! コハル、こっちに来てくれ!」
彼女を呼ぶと、ワーウルフ達に警戒しながら獣の姿へ変身し俺の元へと来てくれた。そして、俺と並ぶように人の姿へと戻る。
「見ての通り彼女は、君達と同じワーウルフだ! 15年前ぐらいに冒険者の襲撃にあってさらわれた!」
俺の言葉に彼等は耳を傾けてくれている。
俺が説得を続けようとしたとき、コハルが前に出た。
「私はずっとここに戻ってみたかった! 私の故郷に! お願い、攻撃を止めて! 私は……私とこの人は危害を加えない! だからッ――!」
彼女が言い終わる前に、斧を持っていた狼少年が武器をしまい近づいてくる。仲間達も彼を制止するが、大丈夫だと言わんばかりに堂々とこちらへ来た。俺達の前まで近づくと、獣の姿に変わりコハルの匂いを確認するように鼻をひくつかせた。
しばらくコハルはされるがままに匂いを確認されると、そのまま獣の狼少年は仲間達の元へと戻り何か話し合いを行う。
少しの間を置いて、3人のワーウルフ達が人間の姿でこちらに歩み寄る。
そして、どうやらリーダー格であろう狼少年が口を開いた。
「確かに、人間の匂いの中にオレ達と同じに匂いした。何者? お前達の目的、何だ?」
カタコトだがしっかりと言葉が通じる。
少年は真っすぐコハルを見ており彼女も答える。
「私の生まれ故郷に来たかった。そして、生きている内に血の繋がった家族にあってみたかったの……」
俺も今まで彼女があまり話さなかった思いを聞き黙る。
狼少年は問い始める。
「お前達の名は?」
「私の名前はコハル。そして、私をここに連れてきてくれた人間のイット」
コハルに紹介されたので俺は様子を窺う。少年は頷き答えた。
「オレの名はシグマ。オレ達は兄妹。デケェのがロー、雌のパイだ」
斧使いでリーダー格のシグマ。
剣使いで巨漢なロー。
弓使いの紅一点パイ。
皆血の繋がった兄弟で人間を自身の集落へ接近するのを阻止しており、特に冒険者の風貌の者達は問答無用で攻撃するように防衛しているとのこと。
「だが、オレ達と同じ種族、敵意がないなら違う。確認せず襲ったことを詫びる」
シグマが軽く頭を下げると兄弟達も無言で頭を下げた。
急に襲われたが話が通じて良かったと安堵する。
シグマが提案する。
「コハル、昔オレ達の集落にいた、それは本当か?」
「う、うん、多分そうだと思う。私が小さい頃だから記憶はあやふやだけど、ここの風景も、匂いも覚えてる気がする」
コハルが大切にしていた本を出す。
俺も補足で彼等に説明する。
「俺達が使っている薬の原料にアサバスカ、ここの薬草が使われていることを調べて知ったんだ。薬の匂いがコハルにとって懐かしいって話だったからな。ここに君達ワーウルフがいることも知って遠くから来たんだ」
そう言うと若いであろうワーウルフ達は顔を見合わせ、やがてシグマが頷く。
「確かに昔、冒険者の襲撃あった。オレ達が小さい頃、オレ達の兄弟達、さらわれたと聞かされてる」
シグマ達は見た目年齢はコハルや俺等に近いと思う。この世界で年齢の概念ほどあてにできないが、何となく頭の中で繋がっていく感覚を覚える。
コハルとシグマの話が互いに結びついているとしたら、もしかして……
そこでシグマが言う。
「わかった。同胞のコハル、お前を集落に招く。だが――」
その刹那、長女のパイが目にも止まらぬ速さで俺の後ろに回る。
「え?」
俺が間の抜けた声を上げるとともに、先ほど俺にされたように腕を後手に回され拘束された。
「いててて!?」
「イット!? ちょっとイットに何するの!」
コハルが制止しようとパイに飛びかかるが、俺をポールのようにくるりと避ける。
シグマが続ける。
「人間は信用できない。イット、お前は拘束する。コハルの人質だ、それで良いな?」
「そんな! イットは私のことずっと守ってくれた人なんだから――」
「待てコハル!」
俺はコハルの言葉を制止させる。
「俺はそれで良い。このままでいいから連れて行ってくれ」
「で、でも……」
「寧ろシグマ達が交渉に応じてくれたことに感謝するべきだ。彼等が心変わりしない内に案内してもらおう」
「うぅ……」
「ここまで頑張って来たんだ。2人の目標だっただろ? だから俺のことは気にしなくて良い」
コハルが握りこぶしを作り、
「……わかった」
頷く。
それを確認したシグマは人間の姿のまま歩き出す。
「こっちだ。案内する」
シグマを先頭に仲間達が動き出す。
先に俺を拘束するパイが俺が歩くように腕を掴みながら促してきた。
「いてて! わかってる歩くから強く掴むなって」
「ちょっとイットに何するの!!」
俺の雑な扱いにコハルが注意する。だが、注意されたパイを横目で見ると舌を出して反省した様子は全く見られなかった。
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