第133話 音速の世界よ
イット(人間) 推定15歳
<役割:
<攻撃力:80>
<防御力:8000>
<俊敏性:15000>
<魔法適正:23046>
<幸運:2>
音が重々しくもゆっくり振動する。
ゆっくりと本当にゆっくりと世界が動く。
裸の女達は止まったようにそこで制止し、コハルは泣きながら俺に向かって駆けてくる様子だがゆっくりと足を着く。
世界が遅い。
スローモーに時は流れ、静止画の中にでも迷い込んでしまったのかと錯覚してしまいそうだ。
「……」
俺が手を動かすと普通に動く。
俺だけが正常な速度で身体を動かせる。
いや、本当はそうではない。
「俺の動きが……加速しているんだな」
世界が遅いのではない。
俺のスピード。
俺の感覚全てが速くなったのだ。
これが禁忌の一端、音速の世界か。
いや、正確に言うと俺の身体は今音速よりも遅くしている。
実際の音速に身体をしてしまったら、俺だけで無く周りも被害を受けかねない。
自身を守るために防御力を上げ、身体を簡単に動かしてみていけると判断した。
「……よし!」
俺はスローモーの世界の中、魔法を展開する。コハルとはまだ距離があった。
まずは敵に囲まれているソマリを助けなければ。
魔法をいつも通り完成させる。
「
魔法が完成し、魔法元素が空中へ浮かぶ。この魔法は空中から無数の雷を落とす、いわゆる範囲魔法なのだが、雷の形状が変化していき、無数の円錐型ランスの変貌する。稲妻の塊であるランスは遅くなった世界でも炸裂した様にソマリを取り巻く女達へ全て突き刺さった。
「何だ? 何が起きている?」
あんな魔法見たことない。
試しにルド達を追う女の一部に向けて魔法を使う。
「
炎は縮小されトマホークのような形状へ変化。すぐさま動き出し女の身体を切断し魔法が地面に突き刺さる。
すると、徐々に地面と女の切断面が光り出しゆっくりと燃え始めた。
同じだ。
今までの魔法がおかしくなっている。
「……まさか」
魔法は完成速度に比例して強化される。 この音速の手前の速さで
そして音速に手が届きそうなスピード。
皆が動いていないようにも見える加速した自分。
つまり俺は、
人類……いや、元居た世界のロボットが叩き出した六面立体パズルの最速記録――
「0.38秒の壁を越えたのか?」
身体と感覚では今自分がどれぐらいの速さで動いているかわからないが、加速した相乗効果で魔法も強化されたのか?
何にせよ思わぬ副産物だった。
「これなら……解けるかもしれない!」
俺はコハルに駆け寄る。
彼女は制止しているように見えるが、近づくと少しずつ動いているのがわかる。
俺はコハルの
本当は心臓に近くないと効果が薄まるのだが、触れた衝撃派でコハルを殺してしまうかもしれない。
腕を犠牲にしてしまうがそうするしかないのだ。
彼女の腕に触れ魔法元素を浮かび上がらせ展開する。
「
青白い光の線でコハルの情報が開示されていく。
腕からの展開にも関わらず、とてつもない情報量が俺を取り囲むのではないか思えるほど一気に開示された。
「ク、クソ! 逆にコレは探しづら――」
言いながら目線を動かしていると、一つの項目に目が留まる。
青白い線の中に一つ黒いモヤの様なものがかかった項目だ。
そこには、<魔法適正>と書いてある。
「コレだ!」
俺はコハルの魔法適正の項目に触れると、本来能力数値が表示される項目に黒いモヤと赤い数字が壊れているかのようにランダムで切り替わっている。
仕組みはわからないが、感覚的に間違いなくコレが悪さをしている原因だ。
どうすれば良いかわからないが考える暇もない。
とにかく、いつもの
指が触れた途端ジュッっと焼けるような音がする。
熱さは感じない。
指をスライドするが何故か摩擦力が強くゆっくりとしか進まない。
『ギヤアァァァァァァァァ!!』
それと同時にスライドしていった場所の黒いモヤが綺麗に消えていく。感覚的に上手くいっているのだけがわかる。
「よし! このまま――」
一気に指を振り払おうとしたその時……
「ッ!?」
突如、
「この……やろう……」
これ以上動かさないように
俺は今高速で動いているはずなのに干渉してくるのは、もはやコイツの能力は物理的なものではなく、概念そのものなのだろう。
本当にコイツは規格外の魔神だ。
だが――
「俺は……助けるんだ……」
硬く拘束された腕を無理矢理動かす。
「俺の……一番大切なものを……」
力を込め、
「守るんだああああああ!!」
コハルの魔法適正の項目は正常な表示に戻る。すると、
完全に身体が抜けきると、空中で止まった。つまり、この世界の速さに戻り具現化したということかもしれない。
水を失った魚のようにピクピクと痙攣している魔神を視認する。
「お前は絶対許さない」
俺はすかさず魔法を撃ち込む。
「
対魔神魔法を叩き込む。
魔法が着弾するが……
「……え」
魔法が魔神に当たるといつもなら紫の炎と共に爆発するのだが、消えてしまった。
時間が遅くなっている影響下かと思ったその矢先、動かぬ魔神の身体をどこからともなく現れた紫色の炎をまとった黒い両腕が押さえつけた。
動物の骨を模した巨大な頭も現れる。
「な、なんだあれは……」
他のように強化された魔法なのか?
禍々しく無機質な悪魔のようなそれに俺は呆然としていると、自身の右手にも紫の炎をまとっていることに気づく。
熱さを感じることはなく、簡単に手を動かしてみる。
すると、巨大な頭は俺の手の動きに反応して動いて見せる。
「連動している? それなら!」
感覚的にどうやって頭を動かせるのかわかった。
手を開き、そして思いっきり握りしめた。
「砕けろおおお!!」
痛くなるほど拳を強く握りしめる。
すると巨大な頭は魔神を氷のように噛み砕き闇の中へと消え去った。
下半身だけとなった魔神は宙に浮いたまま動かなくなった。
「これで……コハルは……」
助かったのか?
一応に安堵した時だった。
「姉……上……?」
減速した世界の中でまともな少年の声が聞こえた。
そちらを振り向くと、吸血鬼少年のアンセムが立っていた。
「貴様が……貴様が姉上を殺したのか!!」
「……」
吸血鬼少年は遅くなった周りと違い通常の速度で話し、動いている。
「どうして貴様は……我の速度領域にいる! 貴様は本当に人間なのか!?」
「……」
「答えろ貴様!!」
アンセムは剣を振り回し襲いかかる。
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