第131話 操りの糸よ
周りを取り囲む狂人女達。
宙では糸で巧みに操っているような動作を見せる異形の女体魔神。
「取り囲まれてますわ! ここから移動しますわよ!」
ルドが声を上げる。
それに対してソマリが問いかける。
「コハルちゃんにイット君があっちの方に! 2人と合流しなきゃ!」
「……ッチ」
舌打ちが聞こえたが気にせず、俺とコハルは離れた3人と合流する。
俺は聞いてもらえるかわからないが、作戦を話す。
「皆聞いてくれ! 今、ロイスと分断しているあまり良くない状況だ!」
「そんなのわかってますわ! 一々言わないで下さらない! 時間の無駄ですわ!」
「……逆に今、吸血鬼のアンセムとか言っていた奴の足止めが出来ている。俺達であの魔神を倒すんだ!」
「倒すって具体的にどうしますの!」
切羽詰まっている状況なのは理解してくれているみたいで、聞く姿勢は見せてくれた。
俺は魔法元素を展開させながら続ける。
「単純だ! シャルの矢でサポートをもらいつつ、俺の魔法かソマリの攻撃する奇跡を奴に当てるぞ! その間前衛組は出来るだけ女達の妨害を!」
もはや相手に聞かれて良いレベル単純明快な内容。
ルドが聞いてくる。
「勝算はありますの?」
「……俺のあくまで勘だが、あの気持ち悪い魔神だが、魔神のセオリーからは外れていないのかもしれない」
横に居るソマリを見るとすでに神への祈りを捧げているが息絶え絶え、緊迫した状況の中絶えず集中して祈りを祈りの言葉を発し続けなければならないことを考えると、よく頑張ってくれていると思う。
皆に伝わるよう簡潔に説明すると魔法を防ぐ動作を行った。つまり有効である可能性が高い。
この目で見たことはないが、魔法だけで無く奇跡にも対魔神用の攻撃があるとソマリから聞いている。
とにかくその攻撃を当てることでしか勝つ方法が見当たらない。
その時だった――
『――
異形の魔神から女性の声が響き、そちらへ振り向く。
すると魔神の手元には俺と同じ魔法元素を持ち、魔法をこちらへ撃ち込んできた。
たまらず、俺も魔法を繰り出す。
「
強力な同じ魔法同士がぶつかり合い爆発する。相殺し合い爆風が過ぎ、俺達は無事だった。更に魔神は魔法元素を展開し始める。
「クソ!! コイツ――」
俺も魔法を展開し、相殺の準備をする。
しかし、その間に裸の女達が襲いかかってきた。
「えいッ! このッ!」
「あーもう! うざったいですわ!」
俺達後衛を囲ってくれたコハルとルドが女達を薙ぎ払っていく。
シャルもナイフで応戦しつつ隙あらばボウガンで魔神へ矢を放つ。少しずつだが、流れがパターン化してきた。
何となく状況が見えてきたが、この女達から何やら無数の細い糸がどこからともなく身体から伸びており、それが魔神の出した糸なのではないかと思い始めてきた。
糸を全て切るのはロイスがいない以上難しいかもしれないが、根本の魔神が断てれば或いは……
俺が魔法を食い止めていることから、後はソマリの奇跡が発動すれば勝機がある。
時間を稼ぐ為、俺も魔法元素の生成を続けていく。
その時だった。
「え?」
俺が魔法を展開し、相手も同じように構築している思っていた。
だが、魔神は魔法元素の展開を途中で止め、1本の直線に伸びる白い糸が俺へ向かってきた。
パターンを見破られた?
魔法を打ち消す役目だった俺に奇襲の直接攻撃。避けなければと身体を傾ける。
「クソッ!!」
傾けるが糸は精密にこちらへ向かってくるのがわかった。
そう言えば入り口でも俺の魔法を避けた動きを思い出す。
盾を構える。
防ぎきれるか……
「ッ! させない!!」
「コハル!?」
女達を捌いていたはずのコハルが、俺の前に飛び出してきた。
何でだ。
先ほどからずっと俺のことを助けに着てくれる。いや、そんなことよりもあの攻撃はマズい。何故だかそんな勘が払拭できない。
「止めろコハル!」
「私がイットを守る!」
言うことを聞かないコハルは自身の肩で糸を受け止めた。
「うっ!!」
糸がコハルの中へ入り込んでいく。
「コハル!」
彼女の身体の中に入ってくる糸を無理矢理手で止めようと、俺は糸を握りしめるが侵入が止められない。
「うぅ……」
コハルは苦しそうに呻き声を上げる。
俺は摩擦の熱さに耐え、皮膚も切れ血が出始める。
片手を開け、魔法元素を展開する。
「コハル、今助ける!」
彼女の横に寄り添い、本体の魔神へ魔法を撃ち込もうと構える。
だが――
「なっ!?」
俺は思わず言葉を上げる。
異形の魔神はメジャーが巻き取られるように、こちらへ突進してきた。
今まで遠距離から仕掛けてきた奴の突然の行動に俺は理解できなかった。
「
俺は叫びに近い声量で魔法を唱えた。
放たれた魔法を魔神に直撃し爆発。
炎が舞い上がるが爆炎の中から頭部の頭蓋骨が半壊した魔神が現れる。
勢いは衰えずこちらへ突っ込んでくる。
視界の端にいるルド達はようやく状況に気づいたようだがもう遅かった。
「ああああああ!?」
コハルが叫ぶ。
腕を押さえ痛みを紛らわすように今まで聞いたことのない声を上げた。
為す術が見当たらず、体当たりしてくる魔神から庇いたいと彼女に抱きつく。
「コハル!!」
魔神が俺達にぶつかった。
ぶつかる寸前に瞼を閉じてしまったが、隙間から魔神は俺の身体をすり抜けコハルにぶつかったのが見えた。コハルに刺さった糸に吸い込まれていくように物質が縮小していくの見て完全に閉じた。
身体にぶつかった感覚は無いが、俺とコハルは後方へ勢いよく吹き飛ばされる。
「うっ!」
抱きしめていた俺は、何とかコハルのクッションになり、ボキッと身体の中から音が響く。勢いが止まり、俺達は身体仰向けに倒れていた。
横に倒れるコハルに話しかける。
「コハル……大丈夫……か?」
「……イット」
彼女の声が聞こえてホッとする。
しかし――
「逃げてイット!!」
突然コハルが叫ぶ。
俺が目を見開き、視界には拳が振り下ろされる。
「ッ!?」
俺はとっさに転がり立ち上がる。
体中が痛すぎてどこが負傷しているのかわからない。
何とか立ち上がり前を見ると、俺のいた地面を拳で陥没させているコハルの立ち姿があった。明らかにコハルが、俺に振りかざしたものだった。
「どうしたんだコハル!」
「イット……身体が勝手に動くの……」
苦痛に歪む彼女の顔。
コハルは大きく叫んだ。
「私から離れて!!」
叫びながらコハルは俺に拳を構え、向かってきた。
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