”それ” は劣化チートおじさん

第130話 堕落の剣よ

「皆……武器を構えろ！」

　息を切らせるロイスの号令。

　だが、コハルやルド、主に前衛のメンツは全員と言っても良いほどの疲労具合であることが目に見えてわかる。

　正直俺も若干怠い。

　重装のルドも息を整え異変に気づく。

「何なんですの……たいしたことはしていませんのに、身体が重い……」

「わ、私も……何だか身体がダルくて」

　コハルも同様に息絶え絶えだ。

　やはりそうか、死闘の中だとしてもこんなに息が切れてしまう。

　この疲れは明らかに異常だ。

「どうやら利いてきたようだな」

　宙に浮かぶアンセムが呟きいつの間にか回収していた自身の剣を輝かせた。

「我が一族より受け継がれた堕落の剣により活力を奪い取ったのだ」

「堕落の……剣？」

　俺の言葉に、アンセムはニヤリと笑うと同時に赤い閃光が伸び、俺の目の前へ現れ剣を振りかざした。

「イット君危ない!!」

　こちらも凄まじい反射速度ロイスが反応し、剣で受け止めてくれる。

「すまないロイス！」

「イット君、早く魔法の準備を！」

　わかったと俺は頷き魔法元素を展開する。

　その最中、押されている様子で鍔迫り合いのロイスの剣が少しずつ押される。そんな中アンセムは楽しそうに話し出した。

「敬意を払い教えてやるぞ魔法使い（ウィザード）よ。この剣は物質だけでは無く精神を切り裂くことが出来るのだ！」

　そう言うと、打楽器で遊ぶ子供かの如くロイスに複数の斬撃を打ち込む。

　ロイスも何とかいなしていくが、押されているのがわかる。

　アンセムは続ける。

「剣に接触したものの活力を奪い取る力だ！　獲物を弱らせ逃げる気力すらも奪わせる！」

　アンセムの猛襲をロイスは受け止め続けるが、汗ばんでいるロイスの表情と今の話を聞いたら長くはもたないことがわかる。

　しかし変だ。

　剣に接触した者の活力を奪うと言うのなら、剣で攻撃を受け止めているロイスが何故防戦一方なのだ。

「ロイス様！　今たすけますわ！」

　ルドはサブで用意していた小楯を彼らの間へ挟み込む。

　猛襲は収まらず

「ワタクシが盾になりますわ！　その間に攻撃――」

　レイピアと盾、そして鎧で防いでいたルドが突然片膝を突く。

「え？」

　自身も驚いた声を出すルド。

　そこへ肉眼でも視認できる速度でアンセムの剣が彼女めがけて振り下ろされる。

「ルド!!」

　今度は彼女を守るようにロイスが切り上げるように剣でいなし、ツバメが戻るような斬影を残しアンセムの首を狙う。

　だが、首の手前半分を切断しただけで切り落とすことは出来なかった。

「ルドちゃん！　ロイス！」

　一瞬の隙を突き、人型に戻ったコハルがアンセムの腹に蹴りを入れ、ボールのように水平方向へ吹き飛ばす。

　アンセムは、きりもみしながら飛ばされるが両足片手を地面に押しつけ砂埃を上げつつ着地した。

　首を押さえていた彼は未だ笑みを浮かべている。

　剣を下ろすロイスが発する。

「アイツの剣の効果は……剣同士が当たっただけでも効果があるみたいだ」

「……え」

「さっきの打ち合いで、異常な程身体と……怠さを感じるんだ」

　前を向き気丈な立ち振る舞いのロイス。表情は当然ながら見えないが、今まで見たこと無いほど消耗しているのがわかる。

　彼は俺達に指令を出す。

「僕はあのアンセムを止める……皆は浮いている……魔神を頼む！」

　そう言うと、ロイスは残像が伸びる速さで前へ飛び出した。

「お、おいロイス!!」

　俺の制止の届かない距離へ彼は行ってしまう。すると、アンセムがこちらを指さす。

「姉上！　人形をけしかけろ！」

　奴の号令で女体の魔神が両手を広げる。

　人間と同じ10本の指から白い糸が勢いよく闇に向けて放出されていく。

　嫌な予感が止まらない。

　俺は完成させた魔法を打ち込む。

「混沌弾（カオス・ブラスト）!!」

　紫の炎が圧縮され、魔神へ向かう。

　すると、暗闇の四方八方から黒い影が魔神の前へ集められる。

　その正体はすぐさまわかる。

　10人程の生気のない裸の女達だ。

　彼女らは肉の盾となり魔法に直撃する。

　肉片が飛び散り爆発する。

　魔神に攻撃は届かなかった。

「――くそ!!」

　俺がもう一度魔法元素を用意する。

　そんな時、突然声がする。

「イ……イタイ……タスケ……テ……」

「え？」

　魔神が集めた女達から声がする。

　四散しても頭が残っていた1人の頭が口を動かしていた。

「カエリタイ……オウチニカエリ……タイ」

「タスケテ……シニタクナ……イ」

「ユルシテ……シンジャウ……イタイ」

　……生きているのか？

　まさか、今俺の魔法で人間を？

　ぐちゃぐちゃと音を立てながら、盾となった肉塊を魔神が糸を振り下ろし俺達に向けて叩き付ける。

「イット危ない！」

「コハル!?」

　女達の声に気を取られていた俺に勢いよくコハルが抱きつき後方へ飛ぶ。

　肉片がまた飛び散り埃と共に生臭さが立ちこめる。倒れ込む俺達は痛みを堪えながら立ち上がる。

「イット大丈夫？」

「ああ……ありがとうコハル。コハルは大丈夫か？」

「うん、私は平気。それよりも皆は！」

　俺達が居た場所に解死体とクレーターが広がる。クレーターの真横にルドが無理矢理抱えて避けたのであろうシャルとソマリが居た。彼女らも何とか無事の様だ。

「……!?　イット気をつけて！」

　耳をピンと立てるコハル。

　彼女の辺りを確認する動作に俺も構える。

「ウ……アア……」

　ヒタリヒタリと地面を踏む無数の音が、周りから聞こえてくる。

　暗闇から無数の人影が出てくる。

「タスケテ……コワ……イ」

「オ……ネ……ガイ……ユル……シテ」

　またも、沢山の生気の無い裸の女達が俺達を囲んでいた。