第103話 夢よ
生前、俺の両親は物心ついた頃から喧嘩が絶えず。父親の浮気が切っ掛けで離婚したらしい。
・それじゃあこれでお別れだけど、ちゃんとおじさんの言うこと聞くのよ。
しかし、母親もすでに浮気相手がいたそうで、早々に親権を捨てて俺を近所の名も知らなかったおじさんの家へ預けて消えた。
その人は母親だった女のパチンコ仲間だったらしく、俺の養育費に目がくらんで了承したらしい。
・コイツの親、どっちもいないんだってよ!
・捨て子だ捨て子! キャハハハ!
学校には行かせてもらったが、見窄らしい格好に両親のいない子供はすぐさま虐めの標的になる。
世の中薄情な人間がほとんどで、子供のサンドバッグになる俺を助ける大人なんていなかった。
・やーい捨て子捨て子! アッハハハ!
・お前はいらない子なんだよ!
言い返すことが出来なかった。
その通りだったから。
変えられない事実は、俺の反撃する気力を奪っていった。
自分は望まれていない存在だと幼い頃から自覚したのだ。
・ッチ、また汚れてきたのかよ……金もらったはいいけど、これだから子供は預かりたくなかったんだ。
・ほら、これやるから一生大人しくしてろ。いいな?
俺に与えてくれたのは、どこかの景品だったらしい六面立体パズルのみ。
俺に家事全般をやらせ男は遊び呆け、気分が悪ければ暴力も振るってきた。
早くここを出て行きたかったが、唯一俺をここに繋ぎ止める存在が居た。
・あとそうだ、コハルに餌やっといて。
痩せ細った黒柴犬を飼っていた。
コハルという名前だった。
あの男がどういう家庭事情だったかは知らないが、昔からを飼っていたらしい。
いたたまれなかった俺は、わからないなりに一生懸命世話をした。
すると、怯えて警戒していたコハルも懐いてくれた。
◇ほらコハル、召し上がれ……
・ワン!
これが、あっちに居た唯一の家族だった。
中学卒業後、男の家から離れた。
コハルも一緒に連れて行こうとしたがその頃に死んでしまった。
まともな餌もあげられなかったからだと思う。長生きさせてやれなかった。コハルが幸せに生きられたのかは分からない。
俺は孤独になった。
心のより所を知ってしまい、尚更孤独を感じた。
俺に残る物は、この先にある未知数の未来とボロボロの六面立体パズルだけ。
大富豪、冒険家、宇宙飛行士、発明家、アーティスト、漫画家……
この生活を終えた先にはきっと幸せな未来が待っている。自分の進む未来がキラキラと光り瞬いていた。
……そう思わないと、生きていけなかった。自分を騙さないと、立ってもいられない程怖くて……自分の存在意義を自分で見出さなければ、本当に意味がなくなってしまう。
臆病風に吹かれて死ねない。
生きている意味を見出せなくて苦しい。俺はその狭間で何も考えられないまま、選べないままただ無意味な一生を過ごしていた。
でも……
どうでもいいってことがわかった。
俺には存在価値、存在意義なんて無い。
俺が俺自身に「存在」を求めなければそれで良かった。
ただそれだけだった。
このまま死んでも良い。
死ねないなら生きれば良い。
誰もそんな物を求めていないのだ。
ロイスも、ルドもシャルもソマリも、
アンジュもガンテツもベノムもマチルダも
そして、コハルも
そう……コハルも
俺に存在意義はない。
あるのは誰かの劣化。
人間の劣化。
比較して蔑むだけの存在。
そんな存在……俺もいらない。
「……」
俺は目を覚ました。
木目の並ぶ天井が見え、朝の日差しが顔を照らしていた。
起き上がるとベッドの上で、酒場の前にとっていた宿舎であることがわかった。
気配を感じ横を向くと、大きな柴犬が絨毯で寝ていた。
「コハルか……」
まだ寝ている様子の彼女の頭を軽く撫で、起こさぬようゆっくりと移動し着替える。
とりあえず、どれぐらい寝ていたのか分からないが腹がもの凄く減った。
頭もクラクラするし水がほしい。
俺はフラフラと食堂へ向かった。
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