第91話 新しい仲間よ
「この見習いシスターを私達のパーティーに入れるですってえええ!?」
教会から食料や雑貨品を少し分けてもらい荷馬車に積めている最中、奇跡によって体調が元に戻ったルドが絶叫する。何となく察していた俺はその会話には参加せず聞き耳だけ立ててロイス等の話を聞いておく。
「うん、そうなんだ。僕達のパーティーに回復役っていなかったから彼女をスカウトしようと思う」
ロイスの話によると、神父様にはすでにソマリを冒険へ連れて行くことを相談し、彼が勇者であることを伝えた所、大天使様のお導きだとかで許可しているそうだ。
後は俺達が良しというかだが……
「だ・か・ら! どうして貴方は地位も功績も無いそこら辺の一般人を連れてくるのかしら! 理解出来ませんわ!」
「まあまあ、ルド気持ちは分かるけど落ち着いてくれ」
「落ち着いていられませんわ!」
主にルドが騒がしく抗議しているが、何も言わず横に佇むメイド姿のシャルも、ロイスの横にニコニコと立つソマリを睨んでいた。
ソマリが介入することに俺は不満はないが、前に見た同じパターンに割り込む気力はない。
成り行きを耳で聞いて荷造りをしていると、横からコハルが慌てた様子で来る。
「イ、イット! どうしよう! 何か喧嘩が起きてるよ!」
「知ってる」
「どうしようどうしよう! ロイスとルドちゃん喧嘩してるんだよ!」
「まあ、良いんじゃ無いか? 喧嘩するほど仲が良いって言うし。俺の前いた世界ではだけど」
「もう! どうしたのイット!」
どうしたかって言うと、絶対めんどくさいことになりそうだから。
シャルの加入を認めた結果、精神的疲労が溜まりめんどくさいことになった。
ソマリが入る入らないの話も、たぶん昨日の時点だいたい決まって……
「そんな他人事みたいに言ってちゃダメだよ! 友達なんだからさ!」
「いや……俺が入ってもどうしようもないから……っておい! 襟を掴むな! ちょ、コハル止めろ! 引っ張るなって!」
コハルの腕力に負け喧嘩のど真ん中へと赴いてしまう。
「二人とも喧嘩は止めて!」
俺の襟を握りしめ、コハルは二人を制する。するとルドは負けじと大声を上げた。
「喧嘩ではありませんわ! コハルさん、貴方も考えてみなさい! そこにいる貴方の友人のソマリとか言う女が私達魔王討伐の危険な目に遭うかもしれないのよ!」
「えぇ!? そうだったの!? ソマリちゃんどういうこと!?」
コハルはそもそもの議題の内容が頭に入っていなかったのか……
「うぅ……イットお願い! よく分からないから助けて!」
無理矢理修羅場の真ん中に立たされる。
「……ああもうわかったよ! やれば良いんだろ!」
めんどくさいけれど、可愛いコハルの為にやってやるよ! ちくしょう!
「それで、何でソマリが急についてくる話になった? 俺もそこから聞きたい」
そう聞くと、ありがたいと言わんばかりにホッとしたロイスが話す。
「ああ、イット君助かるよ。まあその……昨日ソマリさんから提案を受けてね。僕達勇者パーティーに着いて行きたいってことなんだ。回復職も居なかったし、何より君やコハルちゃんの友人だってことだからね」
途中で気まずそうな様子を見せるが、言いたいことは分かる。
パーティーバランスを考えるに、確かに傷を癒やせる役職がいない。
すると、何故かルドが俺に問う。
「貴方、転生者の
「何だよ急に……俺は魔法で攻撃しつつ、味方の武器や防具を強化するのが役割だ。回復薬を投げてやることしか出来ない。授業で習わなかったのか?」
「フン、そんなの知ってるわ。ロイス様と同じ転生者なら規格外のことぐらいするかと思ったのだけれど、全然ダメダメじゃない……使えないわね。転生者かも怪しくなってくるわ本当に」
こ、この女……知っていて聞いたのか?
俺は絶対ルドに加勢しないと決めた。
そのままルドは、標的をソマリに変える。
「ということなの。ロイス様と私は剣と盾の血筋で、しかも彼は転生者。相当の実力者であることに間違いないわ。でもね、後はただのメイドと下町育ちの最弱職、そしてペットの雌犬」
「ルドちゃん! 私ペットじゃなよ!」
「お黙り! 雌犬は黙ってなさい! まあ、魔物だってことだし、そこそこ貴方は使えるかもしれないわね。でも。どちらにしろお荷物だらけのパーティーなの。そんな中でまた支援職が一人増えたら庇いきれないわ! 子守を増やされるのはゴメンよ!」
相変わらずルドの言い方に腹が立つが、言いたいことは分かる。
先程のパーティーバランスを考えるに回復支援があれば完璧な布陣のように思えるが、それは俺の世界で言うターン性バトルのロールプレイングゲームの理屈だ。
例えるなら敵がテレビ画面の真ん中に描かれ、俺達のようなプレイヤーキャラクターがテキストとして下に体力や魔力が描かれているあれみたいなもの。スライムとかが有名な某ゲームみたいなやつ。
あれの戦闘形式はリアルで言い表すと対面式の戦い、いわゆる総力戦である。
前衛後衛いろいろな役職が多いほど有利になるが、現実は正面から敵がくるのはとても運が良いかちゃんと裏取り出来ているかどうかだ。
幼い頃にベノムから学んだのはとにかく不意打ちがもっとも強い戦術であるということだ。
そして、俺達も不意打ちを受けるかもしれないということだ。
後衛が増えれば増える程、後ろからの奇襲に負担を強いられる。
ルドの考えや不満は防御を主体に考える彼女ならではだとわかる。当然の不満だ。
だが、今回仲間になる役職はそんな事情を覆せる。
「でもルド……今回ソマリを入れる話は、俺やコハルやシャルと違って、君に最もメリットがある話だぞ」
俺の話を聞くか分からないが、ルドに提案する。すると「どこがよ?」と返事が来たので話を続ける。
「君は敵の攻撃を引きつける盾職で、被弾率が高い。最も怪我をしやすい君には回復の手段が多いに越したことはないだろ?」
「失礼ね! ワタクシが敵に当たるヘマはしないわ!」
「そんなの100%じゃないだろ。今後の相手が回避や防御を出来る魔物や魔神だとは限らない。回復薬より即効性があり、下手したら欠損も治せる人類最強の武器と言われた大天使の奇跡が必要な場面が必ず出てくるはずだ」
大天使の奇跡。
それは神父やシスターなど、あのチンチクリン幼女の大天使を信仰する者達に与えられる力……だったと思う。確か……
即座に人体の傷や病気、毒などを取り除く力があり街にある教会はいわゆる病院のような扱いにもなっている。
いや、この世界において正直身体を治すことに関して言うなら、俺がいた世界よりも凄いかもしれない。
それはともかくだ。
「盾職と回復職は鉄板のコンビネーションがある。回復職だけを盾職が集中して守れれば、パーティー回復量の維持が出来る」
よくこの世界の冒険者界隈でも話され、俺の世界のゲームでもある誰もが思い付く鉄板戦略だ。
ソマリの様な回復職は、俺達とは全く別枠の特出点であり誰もその役を出来ない。
彼女が加わることで戦いの安定性と戦略の幅が増えるのは明白で、更に守る対象が増えるという彼女の不安もソマリだけを守れば最悪壊滅だけは逃れられることを力説した。
ルドは律儀に黙って話を聞き終えると、一つ大きな溜め息を漏らした後に、ガン! っと地面を蹴った。
「そんなの言われなくてもわかってますわ!! 知らないっと思っているならワタクシのことを相当なめているってことね! 騎士育成教育機関でそんなこと初歩の初歩の初歩で教わるわ! 首に風穴あけますわよ!」
腹から出ているであろうルドの大声が俺に直撃する。
そりゃあ知ってるよな。
しかし、ちゃんと確認しないといけないだろう……だから参加したくなかったんだ。
俺が彼女の覇気にやられていると、ロイスが訪ねる。
「わかっているならソマリちゃんが、着いてきても良いじゃないか」
「いいえ、不満ですわ!」
「何がそんなに不満なんだい?」
ああもう! っとルドは、怒りを露わにしながらロイスを指差す。
「大天使の奇跡ならロイス、貴方も使えるのではなくって!」
……え?
マジ?
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