第80話 出発よ
次の日。
ロイス筆頭の冒険者パーティーが王城から城門まで盛大に見送られる予定となっている。勇者際もこれで終わりだ。
今現在俺達は旅立ちの為、王城の馬車の荷造りを行い最終確認もしていた。
だが突然、ロイスが大きな声を上げた。
「シャル!? 君も一緒に来るのかい!?」
何事かと思い、皆が声の元へと目を向ける。そこには姿勢を整えいつものメイド服とは違うソフトレザーが合成されたメイドをもした軽装備、巷でコアなファンがいるコンバットメイド装備を身につけたシャルが居た。
「はい、シャルもロイス様や皆様の身の回りのお世話をさせて頂くこととなりました」
「い、いや、そんなのダメだシャル! 危険な旅になるから君を連れて行く訳には……」
「国王様からの命を受けております。それに旦那様の意向もあります。若き冒険者達が快適に生活出来るように、また使いの者が居れば他国でもシバ・ネバカアの貴族である口実も出来るかと」
「いや、それは――」
何やら二人で言い争っている様子だった。
コハル、ルドと見合わせた。
とりあえず、俺が二人の間に入る。
「シャルちゃんが着いていきたいって言ってるのか?」
俺が声を掛けると二人はこちらを向く。
シャルは俺が近づくと、そっとロイスの後ろへ隠れるように移動した。
ロイスは俺の言葉に頷く。
「そうなんだ。僕の父や王様の命令だとしても、シャルは戦闘なんて――」
「戦闘なら出来ます」
後ろに隠れていたシャルが、背負っていたクロスボウ。そしてスカートをたくし上げ、
色白の太股に取り付けていたレースバンドからナイフを見せた。
「護身術に射撃術も、ロイス様に仕えると決めた時から精進して参りました。全てはこの日の為、どうかお願いしますロイス様」
頭を下げる彼女に、ロイスは困った表情を見せていた。俺が話を続ける。
「俺は別に構わないぞ。たぶん、他の皆も同じ意見だと思う」
「え?」
見ると、ルドが「フン」と鼻を鳴らす。
「確かに身の回りの世話をする給仕がいるのなら旅も幾分楽になるでしょうね。護身も出来るというのなら、ワタクシの手を煩わせないということよね?」
意外にも、シャルが着いて来ることに肯定的なルド。
俺を見下していたのは何だったのか?
「はい……ルドラー様や他の皆様方の足を引っ張らないことはお約束致します。もし、このシャルに危険が迫ったとしても切り捨てて頂ければ」
「シャル!」
シャルの言葉をロイスが遮る。
危険な目に遭わせたくない彼と、彼の役に立ちたい彼女の押し問答を永遠と見させられそうなので、俺は提案することにした。
「こうなったら多数決を取ろう。シャルちゃんを連れて行くか否か、旅に出る俺達が決めよう」
「そんな……」
不服そうなロイスだが、一番皆が納得すると論じて決めることにした。
俺とロイス、ルドとコハルの四人で手を上げ決める。
半々にも成り得る構成だが、結果は三対一でシャルの同伴を認める事となった。
それでも納得いっていないロイスに、コハルが話す。
「シャルちゃん来てくれるなら嬉しいし大丈夫! もしピンチな時は、私は見捨てたりしないよ! それにシャルちゃんがしっかり鍛えたって言ってのだから信じてあげようよ、ロイス!」
「信じる……か。そうだよね、わかったよ」
コハルの言葉に、ロイスは納得した。
そんな感情論で納得して良いのかと思ったが、話が拗れて時間を取られるよりかは良いだろう。
それに後方と最低限の前衛もこなせる中衛が出来るとのこと。
後衛職は実質俺だけだったので負担もある程度減る。
シャルは戦闘要員として入れないと考えても料理や身支度などを担当してくれる仲間というのは凄い有り難い。
そう考えると、戦いに関してだけ考えていた自分の盲点だったと思う。
非戦闘外のリカバリー要因が彼女の役目となる訳だ。
「改めまして、ロイス様に仕えているメイドのシャルです。ふつつか者ですが、誠心誠意皆様のお役に立つことを誓います」
スカートの裾を摘まみ彼女は頭を下げた。
荷造りを終え城を跡にする。
街道を馬車で進むと街の人々から歓声が上がる。
まるでパレードのようだ。
歓声と応援そして紙吹雪、俺達を乗せた積み荷の馬車がその中進んでいく。
「イット見て!」
コハルが俺の肩を叩き外を指さす。
そちらを向くと、人混みの中で何とか見えるドワーフ二人、そして彼等が見えるように人混みをさく甲冑の大男がいた。
アンジュとガンテツ、更にロジャースさんだった。
俺も思わず身体を乗り出すと、駆けてきたアンジュが声を上げた。
「アンタ達! いつでも帰って来なさい! 帰る場所はここよ!」
俺は何故だか胸を締め付けられる。
何を言えば良いのかわからない。
しかし、何か彼等に伝えたかった。
グチャグチャになりそうな思いを俺はとにかく伝えた。
「ありがとうございました!」
こんな言葉で良いのかわからない。
しかし、今の俺が思い付く最大の感謝の言葉がそれしか無かった。
馬車が城門を出ていくと徐々に歓声は遠のき荷馬車の車輪と風で擦れる木々の音が俺達を覆った。
気を張っていたのか、ロイスが一つ溜め息を吐くと俺達に話した。
「ここからが本番だ。皆、これから宜しくお願いするよ」
すると、俺も含めた皆が笑みを浮かべて頷いた。
そう、ここからがようやく始まりなのだ。
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