第46話 路地裏よ
「匂い……いや、何もしないけど?」
「何か変な甘い匂いと……凄く変な匂い」
改めて匂いを嗅ぐが、先ほどまで同じ街の匂いしかしない。
しかし、言われてみれば確かに甘い匂いはするかもしれない。
手に持ったアイスのせいか?
「イットこっち!」
すぐにコハルは動き出す。
「お、おい!」
俺はアイスを口に頬張り追い掛ける。
コハルの後を追い、人気の無い路地裏にやってきた。匂いを追うコハルは、ある場所で立ち止まる。
「イット……」
立ち止まったと思いきや、突然息を荒らげる甘い声を漏らした。
ふらっと俺の方へ向き直ると、いきなり抱きついてきた。
「コ、コハル!?」
「イット……なんか、変な気分に……」
コハルは言っている間に、またいつもの如く俺に向かってマウンティングを始めてしまった。
「バ、バカ! こんな時に何をやって……」
「へ、変なの……この匂いを嗅いでたら」
予め買っておいた薬品を取りだそうとする。そのついでに、匂いを改めて嗅いだ時だった。
「うっ!」
甘酸っぱい花のような匂いを嗅いだと認識した途端、くらっと目眩を覚える。
鼓動も早くなり、声を抑えながら腰を振るコハルが……妙に魅力的に感じる気がした。
「何だこれ……早くここから離れ……」
ここから離れようと思考を巡らせた時。
「……助け……て」
微かに少女の呻く声が路地の曲がり角から聞こえてきた。それと共に男達の罵声と下卑た笑いと共に――
「イット……」
俺に抱きつき続けるコハルも聞き取ったらしく、路地先に目線を送った。
どうする?
このまま立ち去って憲兵を呼んだ方が良い。いや、しかし何て話せば良い?
……それよりも、俺は勇者なんだ。
誰か困っている人がいたら助けに行かなくて良いのか?
・治安はそこまで良くは無いんだから、アンタ達が少し戦えたとしても憲兵を呼んだ方が良いからね!
アンジュの言っていた言葉を思い出す。
実際その通りだ。俺達はまだ身体が10歳程度の子供、大人しく憲兵を――
・お前何をしたああああ! こんなの! こんなのありえない! ガキに魔神が負けるわけがああああああ!!
久しぶりに、6年前の城主の叫びを思い出す。俺が、皆の苦戦した魔神を亡き者にした時の事を……
俺はあのベノムさえ敵わなかった魔神を一撃で殺める力を持っている。
人間如き、何人掛かってこようと10秒稼げれば一瞬で――
「……」
何を俺は考えているんだ?
そんなことして良い訳ないだろ。
そもそも、憲兵がいる様な街中で攻撃魔法を普通に考えて撃って良い訳が無い。
ここは考えていてもしかたがない。様子だけ見て憲兵に報告しよう。
俺はコハルを抱え、ソッと曲がり角から様子を覗き込む。
「止めて……助け……」
「へへへ、奴隷の分際で命令してんじゃねぇぞ!」
「ほら、どうだ? 媚薬入りのお香で気持ち良くなってるんだろ? 鳴け! もっと鳴け!」
そこには柄の悪い男達数人に囲まれたボロ布を纏い首輪を付けられた金髪色白の少女の姿。そして、その奴隷と言われた少女は壁に押して付けられ、男達に嬲られていた。
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