第19話 魔物? 魔者?
脅威度の低い魔物たちが根城としている洞穴に着いた。
そこにいる魔物たちはどれもかれもそれほど強くなく、素人でも棒切れを振り回していれば倒せるような雑魚しかいない。しかし、そこは低級の勇者やハンターはおろか、貴族を護衛する親衛隊さえ近づくのを躊躇する土地である。それは、そのエリアで発生する魔物の脅威度
人は目に見える恐怖より、目に見えない不確かさを恐れる。その洞穴には、ある伝説があった。
日付を丁度跨ぐ頃にその付近を通った者は人間の背丈の二倍はある巨大な白い棒がゆさゆさ揺れるのを見た、とか。
洞穴から十三歩歩いたときに立ち止まると一房の女の髪がはらはらと降ってくるとか。
実はその髪の持ち主は男であって、髪が長く伸びるほどの年月を洞穴の上で過ごし、洞穴に入る者どもを
それらの不気味な伝説のせいで、昼間でもあまり人が寄り付くことはない。しかし、逃避行のさなかにあるアーサーたち一行にとって、それは都合がよかった。
——しかしそれは、昼でも薄暗い洞穴の中で恐怖に耐えて夜を過ごせたら、の話である。
「いっ、嫌……別に怖くはないんだけど、いやっ……いやぁ、ここは寒いね!」
メトリスがガチビビっている。強気で勝ち気な彼女が、一番なビビリだということが発覚し、その意外さから肩の力が抜けたことでむしろ他の面々は緊張がほぐれてさえいた。
「めちゃくちゃ怖がってますよねー?」
「大丈夫だから、みんないるし。変なの出たら私の魔法でやっつけるから」
「トモダチノタメ……」
「私にも祖国で学んだ武芸の心得がありますので」
「敵モ……トモダチ」
たわいもない会話をそつなくこなした上で、全員が「ん?」という顔をした。
「友達ですかー? みんな友達ではありますけどー?」
「さっきの『トモダチ』って言ったの誰? なんかぞわぞわするんだけど!」
ポポロが肩を抱いて、恐怖のあまり叫んだ。その叫びの問いに答えようとして、誰も謎の声に聞き覚えがないことに思い当たり、フルフルと震えているポポロを慰めることもなく場は静寂へと移行した。
「嫌……嫌……とうとう出たんだ、幽霊……もうおしまい……みんな噛まれてウイルス移されて生きた肉にしか反応示さなくなるんだ……」
「……ポポロ、幽霊とゾンビを混同してない? 雑多にエンタメを消費しすぎだよ?」
ポツリとマーリンが突っ込みをするも、そこから話題が広がることはない。
(アーサーのやつ、普段は頼りにならないし弱すぎるけど、こういうときに気を利かせて冗談言って場を和ませる甲斐性くらいはあると思ったんだけど)
「へぇ、それで? 君は人を襲いたい衝動に五年も耐えてたの?」
「ソウ……! 敵モトモダチ、ダカラ襲ワナイ! 学校デ習ッタカラ…………!」
「そうなの、偉いね! それで、その衝動に悩むようになったキッカケは覚えてる?」
凍りつくような静寂に一行が慣れてしまったころ、遠くから話し声が、うっすらと聞こえだした。
「アーサー……?」
マーリンはその話し声の聞こえる方向に、一目散に駆け出した。
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