【第三部】タイムスリップしたら織田信長の家来になりました!
琳
序章
新しい生活
―――
比叡山は三日三晩燃え続けた。更に浅井・朝倉に味方したと思われる近江の寺院には信長自らが放火し、比叡山と周囲一帯が火の海となった。
その光景は京の町からもよく見え、人々は織田信長という人物の残虐性とこのような大それた事を成し遂げる行動力に恐れおののいた。
山頂にいたほとんどの者は焼け死んだ。しかし一人だけ消息不明の者がいた為光秀らが捜索したが、結局見つかっていない。
そして焼き討ちから一週間後、蘭と蝶子は揃って信長に呼び出された。
―――
一週間後、岐阜城 大広間
「えぇっ!?奇妙丸を宇佐山城の城主に?」
「あぁ。そう考えている。あそこは対浅井の重要拠点だ。可成亡き後で任せられるのはあいつだけだ。俺の跡を継ぐ者として立派にやっていく為に実戦を積んで欲しいからな。」
「そんな……きーちゃんには荷が重いんじゃ……」
蝶子が力なくそう言って項垂れる。蘭は心配そうな顔で蝶子を見た。
可成が亡くなり城主がいなくなった宇佐山城の新しい城主が決まったと信長から聞かされた蘭と蝶子は、それが奇妙丸だと言われて驚きを隠せなかった。蝶子に至っては落ち込んでしまっている。
そんな二人に構わず、信長は続けた。
「あいつも12になった。少し早いが元服させようと思っている。その後は宇佐山城の城主として向こうにやる。」
「この事は奇妙丸には……?」
「もちろん伝えた。返事は……聞かなくてもわかるな。」
「はい……」
ずっと信長の役に立ちたいと言い続けていた奇妙丸の事だから速攻で頷いたのだろう。顔を真っ赤にして首を縦に振る姿を想像して蘭は苦笑した。一方蝶子はまだ落ち込んでいる。蘭は脇腹をつついてみた。
「おい、大丈夫か?」
「……大丈夫な訳ないじゃない。危険だとわかっていて自分の子どもをそこに放り込むなんて何考えてんの!って感じよ……」
「仕方のない事だ。これが今の世の中だ。」
「だからってさぁ……」
いつもなら大迫力で怒鳴る場面だが流石に今日は元気がないようだ。
(しょうがねぇか。奇妙丸と離れ離れになっちゃうんだもんな……)
蘭がそう思っていると信長が不意に言った。
「そこでだ。帰蝶、お前に頼みがある。」
「……何よ?」
「奇妙丸と一緒にお前も宇佐山城へ行ってくれ。」
「あぁ、そう……いいわよ……ってはぁ!?」
思わず蝶子が立ち上がる。蘭はビックリして仰け反った。
「おわっ!……ビックリさせんなよ、もう……」
「一緒にってどういう事?」
「落ち着け。取り敢えず座れ。」
「わかったわよ……」
渋々座る。それでも目線は信長から外さない。
「宇佐山城には可成の子がいるのは知ってるな。」
「えぇ。まだ産まれたばかりだって聞いたけど……」
「名は
「……それってつまり、私にもう一人育てろって事?」
「そこまでは言っていない。あくまで手助けとしてだ。嫌か?嫌ならいいが……」
「まぁ、そこまで言うなら行ってもいいけど。きーちゃんと一緒にいられるって事だしね。」
「どんだけ親バカなんだよ……」
「何か言った?」
「い、いえ、ナニモ。」
奇妙丸と一緒にいられるという事で即決した蝶子に呆れた目を向ける蘭だが、蝶子に鋭く睨まれて目を逸らした。
「まだ0歳だから私も未知の世界だけど何とかなるっしょ。」
「軽いな~……大丈夫かよ。」
「大丈夫、大丈夫。」
蘭に向かってピースをしてくる蝶子。蘭は深い溜め息をついた。
「よし。話はこれで終わりだ。俺はこれから勝家と話があるから行くぞ。」
「あ、はい。行ってらっしゃい。」
「あぁ、大事な事を言うのを忘れていた。」
部屋を出て行きかけて立ち止まる。蘭と蝶子は振り返って信長の方を見た。
「奇妙丸は元服したら名を改める。」
「え?きーちゃんじゃなくなるの?」
「どんな名前ですか?」
二人が同時に聞くと一瞬表情を和らげた後、こう言った。
「『信忠』。織田信忠だ。」
―――
この数ヵ月後、奇妙丸は元服して名を『信忠』と改め、晴れて宇佐山城の城主として正式に城に入城した。
そして蝶子は長可の乳母という名目で共に城に入って、新しい生活をスタートさせた。
一方蘭は引き続き信長の側近として岐阜城に残り、これから起こるであろう浅井・朝倉との戦いに向けて準備に取りかかるのであった。
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