その24~夢~

 ユリウスは目を覚ました。辺りはまだ薄暗い。どうやら明け方のようだ。斉木先生の言う通り、早く起きることができた。ユリウスはそんなことを思ったが、今の状況に気付いて心臓が高鳴りだした。自分の体の上にリーンハルトの腕がある。眠りに就いた時は離れていたはずなのに、リーンハルトは自分のすぐ真後ろにいて、ユリウスを後ろから抱きしめるような体勢で眠っていた。

《どうしよう……》

 ユリウスはリーンハルトを起こさないように、そっと離れようと試みた。すると、リーンハルトが腕に力を込めてユリウスを逃がすまいと抱き締めてきた。

《起きてる?》

 ユリウスの胸の鼓動が増々高まった。しばらくユリウスがじっとしていると、リーンハルトの手がユリウスの夜着のボタンをはずしはじめた。ユリウスは慌ててリーンハルトの手を掴み、止めさせようとした。すると、リーンハルトがユリウスの首筋に唇を這わせてきた。

「やだ!」

 ユリウスは声を上げて、リーンハルトから離れようとした。しかし、リーンハルトは腕に力を込め、ユリウスを離そうとしなかった。

 リーンハルトがユリウスの耳元で、

「ごめん。本当は一晩一緒にいられるだけでいいと思ってたんだけど……。我慢できそうにない」と言った。そして、ユリウスの夜着をはだけさせると、背中にも唇を這わせてきた。

「やめろよ!」

 ユリウスは逃げようとしたが、リーンハルトにうつ伏せでベッドに押さえ込まれた。リーンハルトはユリウスに馬乗りになり、ユリウスの夜着を引きずり下ろした。

「やだっ!」

 ユリウスはもがいたが、リーンハルトがユリウスに覆いかぶさり、ユリウスの動きを封じた。そして、ユリウスの体に手を這わせ始めた。

「やっ! だめだ!」

 他人に触れられた事のない体が、初めての感覚に異常なまでに反応してしまう。頭は拒否しているはずなのに、生理的な興奮が高まっていくのを抑えることができなかった。

「やめ……」

 ユリウスはやめて欲しいと訴えたかったが、自分の声が思いのほか艶っぽくて、思わず口をつぐんだ。ユリウスはシーツを握りしめ、漏れそうになる声を必死に堪えるだけで精一杯だった。

 その時、下の階で鍵を開ける音とドアが開く音がした。それに気づいたリーンハルトが体を起こした。階段を駆け上がる足音が近づき、寝室のドアが勢いよく開いた。ドアに目をやるとそこにライムントが立っていた。

 ライムントはベッドに歩み寄ると、リーンハルトの腕を掴み、ユリウスから引き離した。二人はユリウスの上で睨み合っている。ユリウスは、腰の辺りまで落ちた夜着を引き上げながら体を起こした。

 ライムントがユリウスに視線を移した。

「私と一緒に帰るな?」

 すると、リーンハルトがユリウスをせつない目で見たから、ユリウスは胸が痛んだ。

 ライムントがユリウスを見据え「ちゃんとここでどちらかを選べ」と言った。すると、リーンハルトがライムントに向かって、

「ずるいです。絶対にご自身が選ばれると分かった上でそんな質問をするなんて」と声を荒げた。すると、ライムントも言い返した。

「おまえこそずるいだろう。ユリウスの鈍感さに付け込んでこんな風に誘い出して」

「仕方ないでしょう? こうでもしないと、ユリウスを奪い返せませんから」

「ユリウスの気持ちは無視か?」

「余裕ですね。ユリウスの気持ちは絶対に自分から動かないってことですか?」

 言い争う二人を前に、ユリウスはどうしていいか分からず、ただ茫然とするしかなかった。

「ユリウス、帰るぞ」

 ライムントがユリウスの手を掴んだ。すると、リーンハルトがユリウスの反対の腕を掴んだ。

「ユリウス、行くな」

 ユリウスは一瞬の間をおき、そして、リーンハルトに頭を下げた。

「ごめん。リーンハルトのことは本当に大切だけど、俺はやっぱりライムント様が好きだ」

「ユリウス……」

「本当に、ごめん」

「そう、か……」

 リーンハルトが目を伏せてユリウスの腕を離した。

 ユリウスは着替えて、ライムントと共に屋敷を出た。日の出前の空は明るんできている。

 馬小屋には、リーンハルトの馬の横にライムントが乗って来た馬もつながれていた。ライムントは先にユリウスを馬に乗せ、後から馬に乗った。ユリウスの後ろから右手で手綱を握り、左腕をユリウスの胴に回すと、馬を走らせ始めた。

「リーンハルトを置いてきてしまって、大丈夫ですか?」

 ユリウスが尋ねると、ライムントが、

「そのうち帰ってくるだろう」と答えた。その声は静かだが、明らかに怒気をはらんでいた。

「あの、ここまで来させてしまって、すみませんでした」

 ユリウスは謝ったが、ライムントは答えずに黙っていた。ライムントは相当怒っているのだとユリウスは思った。

 しばらくして、ライムントが、

「俺が来なかったら、リーンハルトになされるがままになっていたか?」と言った。

「え?」

「あれは、未遂か?」

 ユリウスは顔から火が出そうな思いだった。

「……未遂……です」

「あんな姿で……。あんな姿を見せて……」

 ライムントが急に馬を止めた。

「ライムント様……?」

 ライムントがユリウスの頬に手を添えて、ユリウスの顔を後ろに向かせた。そして、ユリウスの肩越しにキスをしてきた。

 ライムントが一旦離れると、

「もう、文句は言わせない」と言って、再びユリウスの唇を塞いだ。二人は長い時間、深い口づけを交わした。

 ライムントはユリウスから唇を離すと、

「もう絶対、こんなこと許さない」と言ってユリウスを見つめた。

「はい……。ごめんなさい」

 ユリウスは謝りつつも、ライムントの愛を感じ、心が幸せで満たされていた。ユリウスはライムントの胸に頬を寄せ、身を預けた。

 ライムントは再び馬を走らせた。

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