あめつちの子

キリキ

 ――あめ、つち、ほし、そら、やま、かは、みね、たに――


 うたを口ずさみ、娘が一人。

 濡れ光る岩の上を渡ってゆく。

 鐘の中で鈴が鳴いているような、柔く、清廉な声音。

 山谷の深い霧が包む。


 ――くも、きり、むろ、こけ、ひと、いぬ、うへ、すゑ――


 虚空を漂うかのように、その歩みは一つ一つ浮いていた。

 おぼつかず、頼りなく。

 されど惑わず、九天をく桂の巨木に辿り着く。


 ――ゆわ、さる――


 白き指が、枝垂しだれの葉を挟み、朱鷺とき色の唇へ導く。

 一葉から広がる波紋が、巨木を揺るがした。


 ――おふせよ、えのえを、なれゐて――


 さざめきは瞬く間に天へ伝い、陰陽の気が、地に降り注ぐ。

 光あれ、闇よあれ。

 あめつちの霊よ、そこに在れと。

 それは赦しに他ならない。

 人として生まれ、妖物となり果て、やがて神格を得た娘の、寿ぎの詞だった。

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