別に忘れてないんだからね街中編



「おぉ女神様ぁ…ありがとうございます。これからもこの身全てを捧げる所存です。」


知ってるかい。

これ教会に治療を求めてやって来た全員が治療後に述べていくんだぜ。子供から老人まで老若男女の問わず息を合わせたように告げていくから参ってしまう。


俺に捧げんでいいから自分の人生に捧げて欲しい。


気苦労の絶えない治療はお昼頃まで進んだ。

この後は楽しみな昼食も兼ねた屋台巡り。


もう出番はこれで終わり?と愕然とするアンジェリカさんと終始ここにいるよと視界の端々で主張していたトーラスさんとお別れをして、ロコルお姉ちゃんと一緒に外へ出ていく。


もう何回も通えば屋台は目新しいものは無く、何処でも常連さんになっている。

両手に濃い味付けがされた肉串を携えて巡っていけば至る屋台からお声を掛けてくれる。


食休めに使う広場に来る頃にはもうお腹パンパンだ。ここで少しゆっくりしましょう。



お腹をさすりつつロコルお姉ちゃんから水を受け取り飲んでいると、前方からこちらへ突撃してくるミーナちゃん。

見知ってた顔だから拒まなかったけどちょっと後悔、満腹後のお腹に一切衰えていない勢いで飛び込んでくる。食べたお肉がまた喉からこんにちわする所だった。


「はぁーはぁーお姉様お姉様お姉様ぁぁ!!」


ミーナちゃんは俺のお腹へ擦り付けるように顔を埋め込んでくる。

しかも、そこで深呼吸するから質悪い。


「ひ、久しぶりミーナちゃん。とりあえず落ち着こうね。ほら落ち着こ…力強いな!?」


「お姉様の匂いお姉様の匂いお姉様の匂い。たまらんたまらんたまらんです!!」


この娘は何処で道を外してしまったのか。

引き剥がそうにも吸い付いたように離れない。この小さな身体でなんて力だよ。


「お、お姉ちゃん剥がすの手伝って!」


何故か微笑ましく見ていたロコルお姉ちゃんへ救難信号を送り、二人がかりで無理矢理剥がす。

ミーナちゃん、物足りなさそうに指を咥えるんじゃありません。

でも、どうにか正気もとい理性を生み出してくれた。


「お姉様、この後はどちらへ行く予定ですか?」


「ん?うーん特に予定は決めていないよ。またのんびりと散策でもしようかなってね。」


「で、では私もお供しても良いですか?良いですか?良いですか!!」


「う、うん良いよ。良いよ良いから鼻息荒く迫らないでね。」


少し背中を押されれば唇と唇がくっつきそう。

そんな距離で鼻息をフンガフンガと迫ってくる、それはもう恐怖でしかない。


こうして、新たに変態なお供を加えて散策を再始動した。



道行く人達は必ず一度は聖女様バンザーイと声を掛けてくれる。困った笑みを浮かべつつ歩く。



そしてもう夕方。

教会の前でローブにしがみつきお別れを拒むミーナちゃんを手刀で堕として強引にお別れを済ます。


後はお風呂に入ってご飯を食べたらお休みだ。



俺の日常が帰って来た。










とある酒場。

一人の男と男の子が酒とジュースで酔っぱらいながら愚痴っていた。

それを酒場の主人で妻と二人の子供を持つパパさんなアルゴは黙って見守る。


「ひっく、なんだよなんだよ。あれだけ出たいと主張したのに一切出番無しだよ。今回はあの懐かしの人は今特集じゃねぇのかよチクショー。」


裏社会を牛耳る男性は頬を真っ赤にさせながら愚痴り続ける。それに便乗すように男の子も愚痴る。


「ひっぐ、まだマシじゃん。俺なんか教会前で気絶した妹を回収したのに、その描写すら無いんだよ。幾ら何でも酷いよ。」


「そうか、お前も辛いなぁ…うぅ。出番が…出番が欲しい。」


男と男の子は互いに身を寄せ合い、自身の立ち位置について泣き続けるのであった。


その二人の姿を酒場の主人で毎年結婚記念日と妻子供の誕生日に欠かさず花束とご馳走を用意する良きパパなアルゴは黙って見守った。


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