アルフ、交渉に行く



怖かった。

年下の女の子に脅された。情けないくらい声がうわずってしまった。でも、自分の腰が再起不能にされそうになったら誰だって悲鳴をあげてしまう。


どうして交流会の為に訪れた国で俺がこんな目に遭う。大体あいつは俺を一国の王子と思っていない節がある。ここ最近は妹か聖女に脅されてばかりだ。二人とも大人しく黙っててくれれば可愛いのに。

こ、今度年上のお兄さんとして強く注意してやろう、今度な。



俺はまだズキズキ痛む腰を伸ばしてあの元凶である糞勇者野郎に会いに行く。お城で働くメイドの一人に声を掛けて勇者野郎の居る場所を教えてもらう。


どうやら他所の聖女様とお茶を楽しんでいるらしい。


メイドの案内の元、お茶会が開かれている外庭へとやって来た。

着いた先に映った光景は、大糞勇者野郎を囲むように談笑する聖女達の姿だった。

あの野郎の周りにいる聖女の中には何人か外交の際に見掛けたことがある。


あっちの人は第2王子と婚約していたよな。

こっちの人は結婚して出産をしていたよな。


俺達の国の聖女様が最年少で珍しくその他の人達は俺が知っている限りだとだいたい二十代が多く、最年長が50代後半。

少なくとも俺が今まで関わって来た聖女達は全員婚約なり結婚なりしていたはず。

なのに、目の前で勇者野郎を囲む聖女達はなんというか媚を振りまいているように見える。彼女達の目はよく社交界などで纏わり付いてくる令嬢方に似て純粋な欲にまみれている。

う、鳥肌が…。


勇者野郎はそんな欲まみれの彼女達に気づく事なくチヤホヤされて頬がゆっるゆるだ。

上機嫌そうな今なら交渉に応じてくれるかもしれない。



俺が近寄ると奴は少し怪訝そうに、聖女方は品定めするように見てくる。やめて、そいつを標的にしてくれ。


「少し宜しいだろうか?」


「あん、何の用だ?いや、何の用か知らねえがこっちは見ての通り楽しんでんだ。どっか行けよ。」


こいつ最低限の礼儀とか知らないのか?俺らの聖女様ですらお腹を殴打してきても礼儀はちゃんとしているぞ。


「勇者様、あの方はシェアローズ王国の第2王子であらせられるアルフ殿下でございますわ。」


「へぇ、王子様ねぇ…。ちっマジでアニメみたいなイケメン王子かよ。」


何か吐き捨てるように呟き、心底不快そうに俺を睨めつけてきた。まだ一言二言の会話しかしていないのにこの嫌われよう、どうして?


まずい、交渉が難しいかもしれない。


「いつまで突っ立ってんだよ、どっか行けよ。王子だろうがこっちは勇者様だ。分かってんのか?」


すこぶる殴りたい。

アリスの代わりに俺が殴りたい。後ろで控えるノートンもぷるぷるしている。

でも、俺は王子で頼れるお兄さん。


軽く深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


「楽しいひと時を邪魔して申し訳ない。少し貴殿にお願いがあり参ったのだ。」


「お願い?」


「今日、貴殿も謁見の場でお会いしたと思うが、我が国の聖女殿が貴殿の勇姿をお聞きし是非ともご教授願いたいとおっしゃっているのだ。」


「へぇ、ご教授ね。でも、まだ餓鬼だからなぁ手を出すには…」


「もちろん武術に関してのご教授を願っていらっしゃるのだ。」


それ以上、不快な言葉を聞きたくない。不愉快な台詞は遮る。


「ん、武術?」


「あぁ、貴殿の強さに尊敬しており是非とも手合わせをしたいと。どうかまだまだ幼い我が国の聖女殿の願いを叶えて頂けないだろうか?」


嘘をパパっと並べてどこまでも軽く頭を下げる。決して頭を下げたくはないが妹や聖女様に部位を破壊されたくない。


「なるほど俺に憧れているのか。そうかそうか分かった…………だが、断る。」


俺の血管と腰がピキッて鳴った気がする。




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