壁を背にドンし返した話
ムカつく謁見を終えて侍女のお姉さんに案内されること少々、案内された部屋は小さめのお部屋。ちょっと物が置かれて寝る場所が狭いけど、色々と小さい俺には丁度いい。
ちゃんと庶民派の俺に配慮してくれたようだ。
どうしてか部屋を見た姫様がまた荒ぶっていたけど、落ち着かせるため抱きしめたら夢の中へと鼻血を垂らしながら堕ちていった。どうして?
悦に浸る通称お姫様をシーナさんに返却して俺は軽く掃除。
まず備え置かれたベッドのホコリを拳圧で飛ばす。
お次はこちらの机に置かれた瓶、中身は水。お手拭き用に持っていた布を濡らして乱雑に置かれた家具を拭いていく。
お掃除は慣れているからさっさと終了。
一心不乱にスッキリさせたらすっかり外出の件とか忘れてた。さてアルフを脅しに行くか。
幸いアルフはすぐ見つかった。シーナさんやノートンとお話中。シーナさんが何か報告しているみたいだ。
「アルフ様、少々よろしいでしょうか?」
一応、他所のお城だし聖女っぽく行動しないとね。なんで皆があり得ない様なものを目撃した顔したのか深く問いただしたいけど今はいい。
「アルフ様、少し宜しいでしょうか?」
「あ、あぁそうか、ここは他国だもんな。はは、びっくりした。」
そこはかとなく馬鹿にされてる?
ちょっと可愛らしい威圧を込めて再度問う。
ジリジリと壁際に追い込むのも忘れない。察しのいいノートンとシーナさんはそこらに転がる石や漂う空気のように存在を薄めていく。置き土産は王子への同情の眼差し。
「アルフ様、少し宜しいでしょうか?」
「お、おぅはい!なんでしょうか?」
「あら、なんで敬語になられましたの?王子様なのですからもう少し気楽にしてくださいませ。」
「うぇ…。」
「あぁん?」
やだ、ほんの少し荒ぶる乙女が出ちゃった。
「わ、悪いごめんなさい。そ、それで用件はなんだ?」
「こほん、実はアルフ様にお願いがございまして…。」
「お、お願い…なんだ?あの勇者を殺すのは駄目だぞ。」
こいつ俺をなんだと思ってんだ?
思わずアルフの腰の両側を逃がさないよう壁につけていた両腕に力が入っちゃう。お城の耐久値が少し下がった気がするけどご愛嬌。
「もう殺しなんてしませんよ、失礼です。お願いはたったの2つだけです。外出の許可とあの勇者様との試合です。お願いします。」
手は壁につけたまま、お願いしますと頭を下げる。
アルフはか弱い年下の女の子のお願いにガチガチと鳴らしていた歯を抑えて長考に入る。
やがて、恐る恐る口を開く。
「が、外出に関しては許可を出そう。正直、さっきの謁見でのことを思えば外の方が気楽だろう。もちろん護衛は付けさせてもらうぞ。」
「はい、ありがとうございます!」
「でも、勇者との試合は駄目だ。」
「あぁん、なんでだよ。」
また荒ぶる乙女が凄みを出しちゃった、いけないいけない。
「ど、どう交渉すれば聖女と勇者を戦わせることが出来る?ましてや、片方はちっちゃな女の子。お願いしたところで断られるに決まっている。」
「むー。」
確かに一理ある。見た目は貧弱か弱そうな乙女。それに聖女は後方支援。
そもそも交流会なのに試合を申し込むのもおかしい。
でも、あいつのニヤけた面を拳で陥没させたい。
俺は駄々をこねる女の子ように壁からアルフの腰へと両腕をまわす。
いきなりの行動に驚くアルフ。
「な、なんだ!?」
「お願いしますアルフ様。せめて、交渉だけでもして頂けませんか?じゃないと、私…。」
少しずつ腕に力を込めていく。俺の懸命な想いも一緒に添えて。
「や、やめろ!」
ミシ。
「お、おいやめろって!」
ミシミシ。
「の、ノートン、シーナ!そこの花瓶を眺めてないで助けてくれ!おい、聞こえてんだろおい!」
ミシミシミシミシミシミシ。
「お願いします、アルフ様。」
「はい、喜んで!」
俺の想いが通じた。とても気持ちの良い返事を頂いた。
でも、申し出てみるけど断られたら諦めるようにと言われた。
うん、交渉してもらえるだけ有り難い。
ありがとうアルフ、頑張ってアルフ。
俺は外で遊んで来ます。
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