番外編 ロコルのお仕事



聖女様であられますアリス様…アリスちゃんが巡礼のため出立し、もう何日も経ちました。

これから数カ月もお顔を見れないのはとても辛いです。

もう今日何度目かの溜息がこぼれた。


王都の街並みも心なしか元気が無いように思えます。

アリス教の頂の一人であるミーナちゃんも日に日に生気を失うようにやつれっていってました。その気持ち分かります、アリス欠乏症は禁断症状。

しばらく会えないだけで耐え難い苦しみが胸の奥底から込み上がってきます。

これもアリスちゃんから課せられた修行だと思い耐えましょう。



今日の私の務めは冒険ギルド。

お務めといっても受付嬢としてではなく一冒険者として。

もうそろそろでアリスちゃんの冒険者資格の有効期限が切れる頃です。

失効すれば少しの間は再発行出来ません。

なのでこのままではアリスちゃんの悲しい顔を見ることになってしまいます。


そんなことはさせません。

私の持てる全てを使ってでも阻止してみせます。




ギルドへと到着。

相変わらず昼間から呑んだくれている人がちらほら。

目が合ってしまいましたが気にせず受付に行きますか。

でも、酔っ払いは関係ない。以前もそうですがどうしてこうやたらと絡んできますかね。


「ようよう、そこの可愛い嬢ちゃん。ちょっと俺らに酌をしてくれよ。」


「……申し訳ありませんが、用がございますので他を当たってください。」


「あぁん?俺達の頼みが聞けねえってか?いいから来いよ!」


そう言って手を伸ばす酔っ払い。

私はそれを軽く払い、アリスちゃん直伝の顎へコン。

まだまだあの方のように上手く威力を調整出来ないけれど無事意識昏倒。

そして、何処からか現れたのは前に絡んできた酔っ払い三人組。

でも今ではアリス教冒険ギルド支部の信者。

私に無言で頷いた後、倒れた酔っ払い達を連れて行く。これで彼らもまた信者となっていくでしょう。

これをアリスちゃんが見たらまた頭を抱えるでしょう。でも世界は未だに治安の悪さが満ち溢れている。少しでも私達の偉大で尊き御方の日常を安心安全の世界にするためには必要不可欠な事。


さて新たな信者の誕生予定を見届けていよいよ受付へ。

先程の一連の光景を眺めていた他の冒険者達は私が視線を向けるとサッと目を逸らします。ちょっと悲しいです。

ひそひそ話の中にキングゴブリンと単語が聴こえたのでもしかしたら私達のことを知っている人もいるかもしれませんね。


たどり着いた先の受付嬢も私が目の前まで来てもまじまじと見つめ続けています。


「あの、よろしいでしょうか?」


「あ、はいすみません!本日の御用は何でしょうか?ご依頼ですか?」


「いえ、依頼ではございません。少しお話がございまして…ギルド長はいらっしゃいますか?」


一介の冒険者がギルド長に何の用事。

受付の方も少し不思議そう。


「少々お待ちくださいませ。ギルド長を呼んでまいります。」


そう言って待つこと数分。

受付嬢が赤毛短髪の大きな男性を連れて戻ってきました。

一目でかなりの腕前の持ち主だと察せます。まぁアリスちゃんほどでは無いと思いますが。


「ギルド長、こちらがお客様でございます。」


「んー俺にお客様って……うん?お前は…。」


気怠そうに頭を掻きながらも私に気付くとじーっと見始めた。

そんな見つめられても私にはアリスちゃんがいますから…。


「はぁ、俺について来い。部屋まで案内しよう。」


え、私を密室へ連れて行く?

だ、駄目です私の全てはアリスちゃんに捧げるんですから。

茶番を堪能しつつ個室へ連行。

ギルド長の書斎らしいです。


少しお願いをしに来ただけなのに、こんないたいけな少女に何をするつもりでしょうか。


備え付けのソファで対面し、ギルド長が口を開く。



「で、聖女様の親衛隊の嬢ちゃんが俺に何の用だ?」



あら、私の事を知ってらしたんですね。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る