もう終わったの
駄々こね作戦が無事失敗に終わり、目下激しい戦闘中に正座をさせられている。
ノートン今はお説教より戦いに集中しないと…ごめんなさい。
「アリス様が戦うことが好きなのは存じております。しかし、もう少し立場を考えて行動してください。」
「はい。」
「だいたいどんなに強くても周りから見れば幼く守られる見た目。そんな方が飛び出したら周囲の者達が動揺するでしょうが。」
「はい。」
「私もアリス様にもう少し自由にさせてあげたい気持ちはございます。だからといって、地面で転がってバタバタしていい理由などございません。」
「ひぐ…ばい。」
この後もお説教は続きました。
ひぐ…ずびび、ようやく解放。
俺はノートンの装備する鎧の端を掴んで領主様の元まで誘導してもらう。
なぜなら涙で前が見えないからです。
ずっと怒られていたから状況は分からない。
怪我をした人がいればちゃんと治療しようと思います。
泣きながら戻ってきた俺にロンベルト様が驚いている。ノートンくんに泣かされました。
「せ、聖女様、そんなに心配して御心を痛めておられるなんて…。ご安心下さい、もう我らの勝利は近いです。」
違うよ、泣かされたんだよ。
「我が勇猛なる兵士達よ、聖女様がお主達の無事を祈っておられる。その己の剣をふるって聖女様の憂いを晴らすのだ!!」
「「「おぉぉぉぉ!!!」」」
違うよ、泣かされたんだよ。
領主様の勘違いが偶然にも士気を高めた。
すかさずいじめっ子ノートンが指示を出す。
「怪我をした者はすぐ聖女様に治療をして頂いて下さい。聖女様は貴方達が死なない結末を望んでおられます!」
意地悪ノートンは上手く騎士を煽る。
上手く交代しながら俺の所へ治療を求めてやって来る。
ただ来る人皆が俺の泣き顔を見たら雄叫びをあげて戦場へとすぐさま駆けていくのはなんで?
「聖女様が私達にさえも泣いて心配して下さるぞー!!」
「「「うおおおおお!!!」」」
聞いて、泣かされたんだよ。
ハイドンさんが率いる部隊は個々の実力差を上手く連携で補い、筋肉もりもり変態兵を討伐していく。
本当は筋肉達も倒した後は治してあげたい。
でも、斬られても暴走した様に暴れまわる彼らに手加減をすればこちらが大怪我もしくは死が待っている。
敵だけど出来れば生きててほしい。
俺はお願いするように祈る。
そして、またどうしてか士気が高まってしまった。
長い長い戦闘の幕が閉じた。
勝利を勝ち取ったのはアムネス住まいの陽気な兵士さん達。
一切士気が落ちることがなくむしろ勢い良かった。お陰で俺はまたしてもこの拳を振るうことは出来なかった。
もうあれほど咆哮をあげていた変態達は立っていない。
俺は、恐る恐るノートンに近づいても良いかの許可を頂く。
もう大丈夫だと判断したのかノートン達をお供に近づく。
あんなに筋肉もりもりな彼らだったが、今は萎んだように元の姿に。
ううん、元よりもやせ細ったように思える。
それに……もう意識が戻る事はない。
文字通り死ぬまで暴れ回ったんだ。
命だけでも助けたかったけど、護衛や騎士達は俺や住民達の命の為に加減を気にする余裕は無かったんだ。
俺はちょっとの筋力と怪我を治す力があるだけの無力な存在。
神様じゃない。
全てを得ようなんておこがましい。
だから、悔しいけど…自分が情けないけど仕方が無かった。
そう思うことで今は飲み込むしかない。
俺はカッと見開き息絶える彼らの瞼をそっと閉じた。
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