逃げ場を失い珍獣と化す
愉快そうにアムネスにある宿屋の一室で笑い合う男達。
お慕いするフリード王子の指令を見事に成し遂げ、心の中は沢山のお花が咲き誇っていることだろう。
自分の将来がこれから鰻登りだと思い、だらしなく緩みきっている。
彼等は、まさかヤルタの人達が上位の魔物達相手に圧倒的な力を持って蹴散らしたなんて夢にも思うまい。
しかし、影と呼ばれる者達が何処からともなく現れ夢から現実へと引き戻してくれる。
「…お前達、随分と楽しそうなことだ。」
「うおっ、また貴様らか。任務なら無事遂行したぞ。殿下にでも朗報を伝えて来てくれるのか?」
「朗報か…残念ながら今のところ悲報届けることになるだろうな。任務は失敗しましたと。」
「な、どういうことだ!あの香水を使って魔物をおびき寄せただろうが!」
影達の愚か者への目つきは冷たい。
嘲笑するように鼻で笑う。
「…ふ、逃げることに精一杯でちゃんと確認を怠るとは…愚かだな。聖女は生きているぞ、もちろんヤルタの連中も。嘘ではないぞ、もう少しでアムネスに到着する予定だ。」
「なっな…な。」
信じられないとでも言うようにわなわなと震えている。
影も被害が全く無いとは思って無かったようだけど。
「…さて失敗は許されないと言ったはずだが、よもやこのまま王都に帰ろうなんて思っていないだろうな?」
男達を見つめる闇はより鋭さを増す。
もう兵士達の顔は青白く、おめおめと帰ればどうなるか予想がついている様子。
待っているのは死。
あれほど王都への帰還を待ち侘びていたのに、今は絶望で打ちひしがれている。
「ま、待ってくれ!必ずあの小娘は我々が始末する。どうか待ってほしい!」
命を賭けた交渉。
護衛にすら歯が立たなそうな連中がその先の聖女様本人へ刃が届くとは到底思えない。
しかし、影達は機会と力を与えた。
「……分かった、もう少しだけお前達の寿命は延ばしてやろう。ただ実力が心もとない、これを使うといい。」
暗闇からぬっと瓶を差し出す。
真っ赤に染まり血のようでどことなく不気味。
魔物を引き寄せた緑色の液体と同じように危険な代物だろう。
「こ、これは何だ?あの香水と同じ効果か?」
「…違う。それを飲めばお前達の力が格段と強くなる。聖女の護衛など取るに足らない存在になるぞ。」
「そ、それは真か!」
「あぁ、人数分やろう。なに遠慮しなくていい、フリード様が期待しているお前達に素晴らしき栄誉を与えたいだけだ。」
死への恐怖一色だった馬鹿共に蜂蜜のように甘い言葉が徐々に染みていく。
「ふっふっふ、栄誉か…。我々に任せるが良い。この薬を使って今度こそ聖女を亡き者としてやる。そして、栄光を我らが手中に…。」
薬に対して強くなれる以外に何も疑問に思わない本当にお馬鹿さん達はまた笑い合う。
影達も今度は楽しそうに笑う。
目の前で踊り始めた道化共に。
次の日、聖女の泊まっている屋敷の近くで轟音が鳴り響いた。
その音の発生源は壊れたお店の瓦礫を担ぐ化け物。
瞳は充血なんて生易しくないほど赤く、身体は岩石のようにゴツゴツと普通の人間の姿から遠い存在へと変貌していた。
もうげらげらと笑っていた彼等の面影は無い。
もう理性を失った彼らに残されたものは、聖女を殺せの一つだけ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます