ヤルタに蔓延る悪



大量に信者を増やしてしまう形で2つ目の町であるヤルタに到着した。

ここでもやっぱり俺の訪問を喜ぶように盛大に歓迎をしてくれる。

けれど、少し違う部分もある。

沢山の好意の中に紛れるように敵意や悪意がちらほらと散りばめられている。

この民衆の中から割り出すのは難しい。


ノートン達が居るから大丈夫だと思うけど警戒は怠らないようにしよう。



ここの町長も友好的で簡単に挨拶を済ましてお家にご招待される。

珍獣兵士共は馬を置いたらこそこそとどこかへ行ってしまった。ノートンももう呆れの極みまで来ているので放置を決め込んでいた。

俺もそれでいいと思う、気にするだけ無駄だよ。



この町では約10日間ほどの滞在を予定している。

最後の町まで距離があるので6日の聖女活動の後に残りの日にちで準備と観光って感じ。

治療は早速今日から。

ここは重患者が多いようだ。


町長がご用意してくれた昼食を済ませて、直ぐ様案内された先で治療を施していく。

ここからは今までの作業と同じ。頑張ったねと声を掛けつつ次々と治す。



治せば治すほど信者は生まれる。出来る事なら信者誕生はして欲しくないが俺に治療をしないという選択肢はない。

この俺だけへの悪循環をどうにかしたいよ。




そして一気に時間を進めて、ヤルタ治療最終日。

この町には教会兼孤児院がある。

孤児院で暮らす子供達の健康診断という名の治療を行なったら、明日からは観光だい。

子供達一人一人に光を包んでいく。

くすぐったそうにもじもじして可愛い。思わず撫でちゃったよ。



皆の診断を終えて折角なので教会の聖堂にある像にお祈りをしておく。

聖女の力ありがとうございますと。


うん、やっぱり天から光が降り注ぐ演出が起こる。

他の聖女もこんな感じなんかな。

興奮する子供達に照れつつ、この町での治療活動は終了を迎えた。


明日の観光が俺を待っている。



チュンチュン

さて今日の観光がやってまいりました。

もちろん準備が一番の優先事項。でも、息抜きも大事だから、大事だから。


シーナさんと護衛の半分が出発準備のため別行動。

俺はノートン達を引き連れて屋台巡り。


新たな屋台料理ウルフ肉の香草焼きと出会い、食欲を刺激するピリリと来る辛味の味付けに舌鼓を打つ。

どんどん行こう。


ノートンも呆れる馬鹿食いを披露し近くの噴水でお腹をポンポンと休める。

ふー、どうしようかな。



そう思っていたら、トトトとこちらへ駆けてくる可愛いらしい足音達。

ノートンが一瞬剣に手を掛けたが正体が分かればすぐに止める。

昨日の孤児院で出会った子達だ。

一休みする俺を見て無邪気にやってきたようだ。

今まで悪意に巻き込まれることが多々あったから、こういう純粋な存在は本当に癒やされる。



はぁ、動き出したかぁ。


俺は可愛い子達の頭を撫でる手を止めて後ろを振り向く。

俺達を逃さないよう囲む男共。

こんな町の往来で剣や短剣を構えるなんて常識の無いおっさん達だ。

ざっと見渡した感じ二十人ちょっとかな。



「へっへ、情報通り護衛が少なくて助かるぜ。お前が聖女ってガキだな?」


「そうですが、何かご用でしょうか?」


怯える子供達を近くに引き寄せ問う。

わざわざ護衛の少ない時を選んだみたいだから禄な用事ではないでしょう。

でも、どうしてこんな人目が多いところで?


「なーに大した用事じゃねえ。お前さんに死んでもらいたいだけさ。」


突然武器を構えた男達に側にいた子供達だけでなく通りすがりの住人達もざわつき始める。


「それはそれは。ですが、私はまだやるべきことがありますので残念ですが死ぬ気はありません。」


「けっそんな事知ったことじゃねぇよ。おい、お前らやるぞ。」


リーダーらしき男の合図で他の奴らがより殺気立ち始めた。


「ノートン、今回は私も参加していいですよね?」


「いえ、我々だけで頑張ります。」


ぶー。


おい、お前らどうか俺へ一直線にかかってこい!



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