出会いは最悪3



ただいま俺は指を指して馬鹿にするような目つきで見下ろす大馬鹿の挨拶を聞いている。



「貴様、聖女だからと良い気になるなよ。所詮卑しい平民だ。父上達が多少甘くてもこのフリード様がお前の好き勝手にはさせぬぞ!平民は平民らしく私達に媚びを振って大人しく犬になってるがいい。」


余りにも出だしからの酷い言い様に他の王族方もポカーンと口を開けている。

おいおい、あの豚並みに最初から飛ばしてくるなぁ。


俺もこんないきなり捲し立てられるとは思わなかったから、物珍しくこの珍獣を見つめる。

俺がまじまじと見つめるから珍獣が勘違いしたみたい。


「ふ、自分の立場を理解したか?まぁ貴様、見目はそこまで悪くないからこの俺が下僕として、飼ってふぅぐんっ!?」


俺が殴ろうか考えてる間に、四方向から見事な鉄拳が飛んできた。珍獣以外の王族が俺の下僕宣言を遮ってくれた。


スゥ様の顔面への飛び膝蹴りは、妖精が宙を舞うように綺麗で見とれてしまった。

王妃様も実の息子相手に顎目掛けて拳を振り上げる姿は、先ほどの優美に微笑む貴婦人の鑑とは全くの別人だ。


王様とアルフもそれぞれ腹に見事な一撃あげていた。

家族相手に容赦なさ過ぎじゃない?


もう珍獣はピクピクとするだけで気絶している。口からは吐瀉物、鼻からは血。

王子と言われるそれはもう見る影も無くなった。


ちょっとだけ可哀想って思ったよ。


「この馬鹿息子め!聖女殿に対してなんたる言い草か。まだあの豚野郎の影響が残っているのか!」


王様が豚野郎って‥。


「そうですわ。アリスお姉様を下僕ですって?ふざけるんじゃないですわ、この糞下衆畜生お兄様がぁ!」


ちょ、ちょっとスゥ様?

お姫様が糞や下衆って駄目だよ。


あと、未だに腹を蹴るのはやめてあげたら?


みんな、俺の為に怒ってくれるのは嬉しいけど、流石に可哀想が大きくなってきたよ。


「あ、あの皆様、私の為に怒って下さりありがとうございます。でも、私は気にしていませんからもう大丈夫ですよ。私が平民であるのは事実ですし、ね?」


「お、お姉様ぁ‥」


気絶した相手に尚も腹蹴りをかましてたスゥ様が抱きついてくる。


「聖女殿、息子の失礼な言葉の数々大変申し訳無かった。どうか許して頂けないだろうか?」


もう一度頭を下げ真摯に謝罪してくる。


「私は本当に気にしてませんし大丈夫です。許してますので、その方をそのまま放置するのは‥」


俺を想って丁寧な対応は嬉しいけど、あそこで潰された蛙みたいになったまま放置されるあれは見てて忍びない。



アルフが周りで控えているメイドや執事に指示を出し、撤去していく。

仕えてる王子が無様な状態なのに一切顔色一つ変えず淡々と片付けている。


もしかしたら、この人達もあれに何か言われて来たのかもしれない。



痕跡が残るものの、無事お掃除完了。



王子がそれで良いのかと思うけど、皆さん何処かすっきりとした表情を浮かべている。

悪い膿でも取り除いたのかな。



王族方の自己紹介も一応無事に終わり、聖女である俺が今後国とどう関わっていくかについて説明してもらった。



トーラスさんが教えてくれた聖女活動の一つである数ヶ月に一度の巡礼。この国に所属する町や村をまわり治療を行なう。

その活動の際に、国から騎士を出してくれるらしい。道中は、魔物やら盗賊やらと色々危険。俺には必要ないと思うけど、普通の聖女には必要。

アルフも必要ないだろうなと遠い目をしてるけど、一応俺は12歳の女の子。



また近いうちに派遣してくれる騎士達との顔合わせもするらしい。

強い人が居たらぜひ手合わせ願いたいね。


あとは、一番気が重くなる内容。

貴族達が集う晩餐会といったパーティーへの参加。

毎回の列席はしなくていいらしいけど、王族が主催だったり列席する場合はなるべく参加して欲しいそうだ。


じゃないと、ブーブー言ってくるあれらみたいな貴族がいるだって。



なるべく貴族の相手をしないで済むよう配慮はしてくれるみたい。平民がいきなり貴族の相手なんて、どだい無理な話だもんね。

ここは王族方の配慮に甘えておきます。



これで本日の対談は終了。

また定期的にこういった対談が開かれることになったけど、もうあの珍獣は呼ばないって王様が強く誓ってくれたので一安心。


何故かスゥ様と別れの抱擁を済ませて王城を去る。




これから、本格的な聖女としての務めが始まる。


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