やっと到着だよ


現在、魔物に馬車を襲撃され戦闘中。


残りは騎士達に任せた数体のオークとゴブリン。そして、俺の目の前に対峙する赤色のオーク。



徐々に自分達が劣勢になっていくのが分かったのか随分と焦っている。

うーん、見かけは強そうだけど、この動揺する姿だと案外大したことなさそうだな。

いっちょ近づくか。

すぐさま大剣を振り下ろしてきた。

大剣の軌道から横に避ける。

そのまま大剣を踏んでやる。

上げることの出来ない大剣にまた動揺してる。

はぁ、もう終わらそ。


目の前で跳躍し、側頭部を蹴る。

お、なんとか立ってる。へぇ、体力は認めよう。

でもおしまい。

ふらふらと立つので精一杯のオークの鳩尾部分に俺の拳を。

まるで突き刺さったかのように拳が埋まる。

そして、力を失ったオークは後ろに倒れた。もう動くことはない。


ふぅ、少しは楽しめたので満足満足。

騎士達の方も終わったようで未だ俺に驚いた様子でこちらを見ている。

エルドさんもいつのまにか馬車から降りてるし。


「あー結構怪我している人もいるですね。治しますね。」


「ありがとうございますって聖女様先ほどの戦闘は?」


「エルドさんから聞いてない?お‥私村から町まで一人で魔物倒しながら来たこと。」


「は、はい聞きましたが、半信半疑でした。」


「私もです。まさか本当にお強いとは‥」


エルドさんも騎士達もまるで夢の中を彷徨っているような表情だ。

うん、まあ12歳の中でも身長低めの女の子が魔物に素手で挑んでたらそうなるのかもしれない。


「とにかくこれでお‥私の実力が分かってもらえた事だし、怪我を治しましょう。」


すぐさま駆け寄り、治療していく。

無理矢理にでも納得してもらって村に行こう。

エルドさん達は現実に戻ってきたけど、エルドさんは俺をキラキラした少年のような目で見つめ、カーラさん達はうっとりと興奮した眼差しでチラチラと見てくる。


あらゆる方向からの視線が熱い。

気にしたら負けだ。

そのうち落ち着くよね。




暗くなり始め、次第に小さな星々が空を彩る。

そして、小さくポツンと建てられた俺の家に到着した。


「ここがお‥私が住んでいる村です。と言っても住んでるの私だけだけど。」


「え、村には他に人はいないのですか?」


エルドさんは目の前に広がる瓦礫と化した廃屋を目にする。


「はい、物心つく頃には爺ちゃんと二人っきりでしたね。」


「そ、そうなんですか…。お爺様は?」


「どっか遠くに行ったと思います。とりあえずみんな家に入ってください。狭いけど、ぎりぎり全員入れるんで‥」


何故か肩を震わせ下を向いてるみんなを我が家に誘導する。

なんでサイルさんの足元濡れてるの?



申し訳ないけど、人数分の椅子は無いので何人かには立ってもらう。

明日以降の確認しよう。


「あのエルドさん、お‥私の荷物は少ないので明日にでも出発出来ますがどうします?」


「すぐに出立が可能ならば明日の朝にでも出たいところですが、聖女様に心残りなどはございませんか?」


「ん?無いですよ。住んでるのお‥私だけなんで、別れを伝える人もいないので大丈夫ですよ。」


「ふぐっ‥そうですか。では、明日の朝出発いたしまじょう。」


なぜか突然涙ぐむエルドさん。

いや、騎士達も小さく嗚咽を漏らしている。

なんで!?



もう分からないので放置してお風呂の用意をしよう。風呂入ったら情緒不安定も直るかもしれない。


準備が整い、未だ涙ぐむ大人達に風呂を勧める。

すると、風呂の存在に驚いたり見張りがあるのでと遠慮して来たり、もう面倒くさい。

なので、多少強引にお風呂に入れる。

ほっこりとした表情で出てくるので落ち着いてくれたんだろう。



騎士達はそのまま交代で見張りをするそうなので就寝用に毛布を渡しておく。


夕飯はここに来るまでに食べたので、あとは寝るだけ。

エルドさんにベッド勧めたけど、必死に断られ最終的に俺が使うことに。

エルドさん客人なのに‥。



そして、見張りの騎士を残して就寝。

おやすみなさい。




鎧の擦れる音を目覚ましに起床。

もう朝だ。

もう騎士達は全員起きている。


起きている人達へ挨拶を済ますと朝食作り。

カーラさんが手伝ってくれることに。

料理が得意らしく、下手くそな俺としては大変助かる。でも、肉と野草ぐらいしかないのが非常に申し訳ない。


人数分の朝食分が出来上がる頃に、お寝坊さんのエルドさんが慌てたように起きた。

別にゆっくり寝てて良かったのに。



ご飯を済ませいよいよ出発。

その前にしばらくお別れなので家の横の石板に念入りに手を合わせて拝む。


「行ってきます、父ちゃん母ちゃん。」


後ろから聴こえるサイルさんの鼻をすする音がうるさいのでもう行こう。



こうして、12年間お世話になった家を後にする。









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