洗礼式



洗礼式の日がやってきた。


朝飯食ったら早速行こう。

俺が行くのは、教会のあるトーテルという町だ。

家から西に真っ直ぐ進んだところにある。その間にも、村がいくつかあるのでトーテルを訪れる人はそこそこに多い。

俺も指で数えられる程度だけど行ったことある。

通りには朝から晩まで人が歩いていたのが印象的だった。

俺と爺ちゃんしかいなくなったこの場所とは、雲泥の差だな。



持って行く荷物をまとめる。

お金に食糧、調理用ナイフ。

あとは、2着しかないけど服と薬草と包帯用の布も持っていこう。


子供用の鞄に綺麗に収まった。


用意万端に整い家を出る。

横に置かれた石板に両手を合わせていざ出発。


「行ってくるわ!」


今回は道中にある村は素通りしてそのままトーテルに行こう。


俺は両足に力と気合を込めて走る。

身体強化を使ったら何の特訓にもならないので、己の身体能力のみで走り続ける。

途中、休憩の際にゴブリンやウルフが出てきたけど、特訓に出くわす魔物に比べたら全く大したことないので軽くあしらう。

家から走り始めておよそ二時間。


トーテルの町に到着。

ここまでで人に出会うことは無かった。

おそらく洗礼式に出る子たちは前日までに来ていたんだろう。


辺境の地からなので身分証はない。

だから、滞在金として銀貨1枚を払い、3日間滞在する権利を得た。

洗礼式終わったら、そこの冒険者ギルドで身分証作るのも良いかもな。



今日は聖女だろうと無かろうと一泊する予定だから、まず宿屋を探す。

といっても、さっき門番のおっさんに聞いたからそこに行けばいい。


この宿屋、食事は注文制だが、3日で銀貨1枚と安い。

俺にはこれで充分満足出来る。


そろそろ洗礼式の時間だな。お金以外の荷物は部屋に置いて、教会に向かう。

教会の位置は以前訪れた時にもう把握済みだ。

迷う事なく到着。


教会の門に守門の人が居る。

簡単に会釈して前を通る。


おー、そこそこいるなー。


教会内に入ると、侍祭であるシスター以外に俺と同い年ぐらいの女の子が十数人いる。

それぞれ友達と談笑しながら座っている。

うん、ちゃんと間に合ったみたいだな。


俺は近くの席に座る。


正面にどっしりと構えられたオーロラル神の銅像をボーッと眺めて時間を潰す。



早く始まらねーかなと思っていると、右隅の扉から祭服をまとった男が現れた。

おそらく司祭。

シスターを引き連れてるし。


「これより洗礼式を執り行います。皆さまお静かに。」


壇上に上がった司祭のおっさんの言葉に楽しく喋っていた子達は静かになっていく。

少しずつ緊張感漂う雰囲気にもなっている。

この中からもしかしたら聖女が生まれるかもしれない。

それが自分かもと思ったら仕方ないかもね。



まずはおっさんからのこの世界の神オーロラルの有難いお話を聞く。

小難しい言葉の羅列に前の席の女の子がこくりこくりと船を漕いでいる。


うん、これは眠くなる。

まさか聖女になるための試練‥?



やっとこさお話が終わって、いよいよ本命。

1人ずつ壇上に上がり、銅像の前で祈りを捧げる。

爺ちゃんは聖女なら祈りを捧げた時にすぐ分かると言っていた。

どうなるんだろう。


今のところ祈りを捧げてる女の子達に何か起きた様子はない。


そうこうしているうちに俺の番になった。近くに居たシスターに案内され、壇上へと続く階段を上る。


そして、司祭のおっさんの横まで来た。

祈りを捧げるよう促される。


そのまま銅像の前で跪き、オーロラル神に瞳を閉じて祈りを捧げる。



すると、俺の中に温かい何かが流れ込んでくる感じがした。不思議と不快ではない。むしろ心地いい安心感がある。


「おぉ‥聖女様が誕生なされた‥。」


どうも外野が騒がしい。

目を開けて、ざわざわしている方に顔を向ける。


ん?

みんな俺を見てねーか?

もしかして、もしかしてだけど俺が聖女?


「おぉ、神々しく光るお姿、そして額にある聖女の証。この場に立ち会えるとはなんと光栄な‥」


司祭のおっさんが涙を薄っすらと浮かべ、やたら感動している。

他の人達も同様の状態。


神々しい?

え、今俺光ってんの!

自分では分からない。


額にも聖女の証があるらしいけど、確認出来ねぇ。


でも、周りの人達の視線が俺に向いている。

ほぼ間違いなく聖女決定か。



はぁ‥この後、どうなるんだろう‥。

溜息と共に久しぶりの不安感が襲う。



この日、シェアローズ王国におよそ50年ぶりの聖女が誕生した。







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