現代部のニステリー

@shingo1878

第1話 プロローグ

 高校生活。これを聞いてどう思うだろうか。青春、部活、輝き、薔薇色、など様々な明るい言葉か浮かぶであろう。


 しかしその一方で、ひっそりと三年間を過ごす人もいるだろう。クラス写真では目立たないように後ろの方のやや端に写っていたり、部活は文化部に入っていたりする。でもそういう青春もあっても良いんじゃないか。


 夕日が差し込む教室で、中学からの旧知の仲である慎吾にそんなことを話した。すると慎吾は笑みを浮かべた。


「いつもの太一がそんな事を言うなんで珍しい!どうしたんだい?」


 俺はやれやれと肩をすぼめながら1枚の紙を差し出した。


「それは?まさか入部届かい?中学の時から色恋沙汰に縁がなかった太一が高校の風に当てられたのかい?」


 確かに入部届なぞ見せられたら、そう考えるだろう。


「部活の欄をよく見ろよ。」


「うん…?現代部?そんな部活あったのかい?」


 慎吾の考えもその通りである。我が高校、白天高校には沢山の部活がある。美術部や演劇部から自然科学部、英会話部、ものづくり部など何をするのかいまいち分からない部まである。しかしそれらは部活紹介の時に新入生に見せられているが、現代部は紹介すらされていないのだ。


「生徒手帳の16ページを見てみろよ。現代部って書いてあるだろう。」


 胸ポケットから生徒手帳を取り出す慎吾。そしてだんだんと目が大きくなっていく。


「現代部…確かに書いてあるとは驚きだ!そして顧問の名前が太一と同じ渡辺だね…これはどういうことだい?」


「そっちの渡辺は義理の姉なんだよ。」


「はっはっはっ!これは傑作だね。頼まれたのかい?」


 なんて嬉しそうなのか。他人事だからであって、あの怖い兄貴が家ではお義姉さんの尻に敷かれているんだぞ。そんな兄貴がおびえるように俺に頼んできたんだ。間接的に入部しなければ男2人家での居場所がなくなること確定なんだぞ。


 そこで俺はずいっと身を乗り出す。


「姉貴からあと部員が2人足りないっていう話なんだ。この入部届けに名前を書いてくれないか?」




 しばしの静寂。俺にはこの2秒が1時間ぐらいに思えた。そして慎吾が口を開く。


「良いよ。面白そうだし。ここに名前を書けばいいのかい?」


 俺は頷く。


 青春の風に当てられたのは俺だけではなく慎吾もなのかもしれない。そう思いながら自分の名前が書かれた入部届を眺めていた。

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