第19話 定期テスト VS真理亜
「お姉さま!! 次のテストで勝ったほうとデートをしてください!」
その日の生徒会活動も終わり、とりあえず何の問題もなく帰宅をできそうなタイミングでそれは起こった。
「えーと? どういうことなのかな?」
優希先輩が戸惑っている様子を見ると、完全に真理亜の独断のようだ。また迷惑をはじめるのか。
「おい真理亜、ちゃんと順を追って説明しろ。全員意味が分からん」
「……、桂川君に言われなくても、今から説明するつもりだったのよ! 私はお姉さまとお出かけがしたいの!」
「別に行きたきゃ普通に誘って行けばいいじゃん。優希先輩も断りませんよね?」
「うん、予定さえ会えば、勉強の息抜きにいくらでも付き合うよ?」
「それじゃ駄目なんです! 私は桂川君に勝つために、自らを追い込まなければいけないんです」
「俺たちのテストと、優希先輩と出かけることと何の関係があるんだよ」
「実は私お姉さまを2人きりでお出かけをしたことはないの。私はお姉さまと肩を並べられる学年1位になって初めてお誘いしようと思っていたからね」
「そ、そんなこと気にしなくてよかったのに……」
優希先輩完全に苦笑いである。
「それなのに、今年は私の力不足でその資格を失ってしまったの。後期の生徒会では、もうお姉さまはおそらく忙しくなって、余裕がなくなってしまうから、今のうちにお出かけにお誘いしたいの……。だから、次のテストで桂川君を負かして、学年1位をとって、改めてお誘いします!」
「めんどうくさ」
「めんどうくさいな副会長」
「めんどうですね副会長先輩」
「何よ! どうせあなたたちには私の気持ちなんて分からないわよ!」
「またヒステリックか」
「だれがヒステリックよ!」
「ヒス田さんだな」
「私は山田よ! あと山田って呼ばないで!」
「ヒス田テリ亜」
「私の名前は山田真理亜よ!」
「いや翔、俺はヒステリックよりも、ツンデレのほうが合ってると思うぞ。ツン田さんだ」
「誰よ!」
「ツン田デレ亜副会長」
「原型がないじゃない!」
「いえいえ、翔先輩に森先輩。副会長先輩は2つとも満たしてると思います。ツンデレ田ヒステリ亜先輩でいいんじゃないですか?」
「何人よ!?」
「カタカナ表記にして、ちょっと呼び方を変えれば、真理亜の見た目といい具合にマッチする名前になるぞ。よし、今日から真理亜は、『ツンデレーダ=ヒステリア』だ」
「……何よそれ……」
「ちょっと間があったな。実は悪くないかなって思っただろ」
「そ、そんなことないわ! ヒステリアがちょっとかっこいいなんて思ってないからね!」
「もう、皆いじめちゃだめよ」
俺達3人の真理亜への怒涛のいじりに、さすがに優希先輩が止めに入る。
「お、お姉さま」
「まったく、大丈夫テリ亜ちゃん……、あ、ごめんなさい間違えた……」
優希先輩は両手で顔を覆って、その場にしゃがみ込む。悪意が無かった上に、真理亜をかばったのにこのミスは本人は恥ずかしくて仕方ないだろう。ちょっと悪いことをした。
「お、お姉さま! 私は気にしていません! 私はお姉さまに呼ばれるなら、テリ亜でもデレ亜でもヒステリアでも、ナルシ亜でも構いません!」
「ナルシ亜って何だ?」
「多分、ちょっと前のボランティアで、自意識過剰をやらかしたときのナルシストとかけてんだろう」
「副会長先輩、勝手に自分で1個増やしてますね。意味が分からないです」
「聞こえてるわよ!」
結局、落ち込んだ優希先輩と、再びヒステリーに陥った2人が落ち着くまで、30分ほどかかった。この生徒会は、簡単に帰ることもできないのか。
「とにかく! 私は勉強については努力はしているつもりだけど、それを更に追い込むために、今回の話をしたの! それで、お姉さま……、勝手を承知でお聞きします。テスト空けの週末大丈夫ですか……?」
「うん、それは大丈夫だよ。模擬試験は来月だから、勉強はするけどテスト空けだからちょっとのんびりしたいしね」
「ありがとうございます。と、いうわけで、お姉さまとのテスト空けデートの権利をかけて、次のテストで勝負よ!」
「え、俺が勝ったら、俺が優希先輩とデートするのか?」
「ええそのとおりよ! 私はあなたがお姉さまとデートするのは、絶対に許せないけど、それくらい負けたときのリスクをあえて背負っての背水の陣で挑むつもりよ!」
真理亜は俺に指を指してそう宣言する。俺の意思はないのか。
「いや、そうは言っても優希先輩が嫌かもしれないだろ? 女子同士で出かけるのとはわけが違う」
優希先輩と2人きりで過ごすことはあったが、それは生徒会活動の一環がほとんどで、この前星を見に行ったのは、一応デートだろうが、周りに人気が無いので、それを見られることもなかった。
だが、週末に2人で出かけるとなれば、さすがに夜に人気のないところに行くというわけにはいかないだろう。むしろそっちの方が怪しいが。
「翔君と出かけるなら、私はOKだよ♪」
「え!?」
だが、優希先輩はにっこりとした笑顔で俺にそう言う。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。2人きりなんて今更だよ」
「で、ですが、生徒会活動でもない、デートですよ!」
「あれあれ~? もう真理亜ちゃんは眼中になし? 私とのデートがもう楽しみなんだ~」
「い、いえ、そういうわけでは」
「キィー! 1年生のときは私の方が成績良かったんだから、通算成績ではまだ私の方が勝ち越してるんだからね! いつまでも勝った気でいるなんて!」
真理亜が両手を挙げて(><)の顔で怒る。真理亜はよくこの顔になるな。
「明日からしばらくはテスト週間で生徒会活動も少なくなるし、皆、模範になるようにちゃんと勉強してね」
その優希先輩の声で、テスト前最後の本格的な生徒会活動は終わった。
「さ~て、どうしようか」
次の日のお昼休み、いつもどおり孝之の弁当を少しつまみながら、孝之と話す。
「チャンスじゃん。九十九パイセンと出かけられるなら全力でやれよ。多分勝てるだろ?」
「どうだろうな。真理亜は本物だろうからな。俺の努力だけで太刀打ちできるかは分からん」
真理亜は前回の実力テストは俺がわずかに制してはいるが、もともと1年生の間のテストで、俺が真理亜を上回ったことは無い。
真理亜の性格上絶対に認めないだろうが、間違いなく真理亜には前回のテストに対して、ほんのわずかだろうが、油断はあったと思う。
もちろん真理亜は本気で挑んだとは思う。だからこれは本人にも分からないほどのわずかな油断。1年生の間、1度も1年生で2位以下になっていなければ、よほどのことがないかぎり次も1位だと思うことを誰が攻められるか。
俺が前回勝てたのは、そこの油断をついたところもある。元々自分を磨いてきた期間が俺と真理亜では違うのだから、真理亜が油断をせずに努力をしてくれば、単純に俺が努力をするだけでは普通に負ける可能性の方が高かった。
「でもよ、勝っても面倒だろうが、負けてももっと面倒だぞ」
「それなんだよな……。だから全力を尽くさないわけにはいかない」
勝ったらおそらく真理亜は不機嫌になる。だが、負けたら、今後の真理亜の態度が悪くなる可能性もある。会長へのこだわりが強い真理亜だが、現在は成績での敗北を受け入れている分大人しい。
優希先輩がいるから横暴なことはしないだろうが、成績で真理亜が上になると、会長のような振る舞いをされる危険性がある。もちろんこれは推測の域だが、真理亜の機嫌が少し悪くなるよりは、面倒な展開になるというか、真理亜が機嫌が良すぎると、ある意味機嫌が悪いより面倒になる。
「まぁいいんじゃね。どっちにしても真面目にやりゃいいんだ。それに勝てばデートだぞ。あの人気者のパイセンを1日好きにできる権利だぞ」
「そんな権利じゃないだろ」
間違ってはいないが言い方が大概過ぎる。
「どっちにしてもちゃんとやるさ。真理亜に勝つか負けるかとかそういうことは別にしても、前回のテストで1位を取っている以上は、それと同じが、それに順ずるくらいの成績は出しとかないと良くないしな」
それから、テストを向かえるまで俺は勉強を続けた。
とは言ってもそこまで多くをやる必要は無い。
実力テストはと定期テストの違いは、テスト範囲と教師の癖の2点で大きな違いがある。
実力テストは、これまで学んできたこと、あるいはそれを応用したことを全て使って問題を解くため、過去の知識を全て使うことになり、テスト範囲はこれまでのこと全てになる。
そして、実力テストは学校がテストを作る機関に依頼してテストを作るので、問題の癖も出にくい。
それに対して、定期テストは、テスト範囲はその期間に学んだことが中心になり範囲は狭い。加えて、そのテストは担当した教師が作るため、やや癖が出る。
要は、実力テストはこれまでの勉強の積み重ねの純粋な実力、定期テストは要点を理解する能力と暗記力が問われる。
個人差はあるだろうが、実力テストは多く勉強をして、積み重ねを増やすことが必要だが、定期テストはいかに効率よく勉強できるかが勝負になる。範囲が狭い分、内容も深くなったりしやすいからである。
なので、定期テストは、直前に勉強するよりも、授業をきちんと聞いて、ノートをまとめ、教師が教科書に無い発言をしたら、さっとメモしておき、その教師の性格や癖も理解しておき、後は、それをもう1度復習しておく。
俺の理論だが、予習は必要ない。授業で理解できないことは、すぐに教師に聞き、それを復習すればいい。
とは言っても、俺は定期テストではまだ学年3位が最高で、1位を取ったことはない。高校における効率のよう勉強のコツを掴むまで、なかなか悪戦苦闘したためだ。
「よし、やれることはやった。後は野となれ山となれ」
そしてテストは終わり、その次の週をかけて、現代文、古文、数学Ⅱ、数学B、英語、世界史、日本史、化学、物理、地学のテストが返却された。
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