第20話 まぁこうなるよね

「というわけで、勝者は翔だ」




「ま、また負けた」




真理亜は OTZ のポーズで落ち込んでいた。いや、ツインテールが一緒にしなだれてるから、QTZ のポーズか。どっちでもいいが。




「いや……、どうして負けてんだよ。100点を真理亜が何枚も取ったって聞いてたから、普通に負けたと思ったぞ」




この学校では、成績はおのおのに渡され、それで順位が分かるようになってはいるが、100点が出ると、それは公表される。取った人だけは教師がみんなの前で褒める。本来教師は、生徒が100点を取れるテストは作ってはいけないものだというのが、この学校のルールで、基本的には100点を取れないテストを作る。それが、この学校における教師の癖というわけだ。それを乗り越えて100点を取った生徒は、教師が褒めるのが伝統である。




俺は他のクラスにいる友人から、真理亜が複数の教科で100点を取っていることを聞いていたので、これは負けたかと思っていたのだ。




ちなみに内訳。




現文:俺 94点 真理亜 100点


古文:俺 96点 真理亜 90点


数Ⅱ:俺 88点 真理亜 95点 (孝之100点)


数B:俺 89点 真理亜 92点 (孝之98点)


英語:俺 95点 真理亜 100点


世史:俺 97点 真理亜 80点


日史:俺 96点 真理亜 82点


化学:俺 89点 真理亜 91点


物理:俺 89点 真理亜 100点


地学:俺 93点 真理亜 94点




合計 :俺 926点 真理亜 924点




というわけで、俺の勝利である。俺古文と、日本史と世界史以外負けてんだけど、合計点では勝っているというなんとも複雑な勝利である。




「た、たった2点差だなんて……、私が少しでも歴史が得意だったら……」




真理亜は大体こなせるのだが、唯一暦史は苦手だったようだ。




いや、性格には、日本史と世界史の教師との相性が良くないのだ。




真理亜はいろいろ面倒な性格をしているが、基本的にはまっすぐな性格をしている。




それに対して、この学校の2年生の暦史の教師は、2人ともかなりの歴史マニアで、教科書で太字にならないような、ささいな人物や出来事、そして、授業中のちょっとした雑談で口走ったようなことを平気でテストに出してくる。しかも、それはテストに出るようなそぶりを全く見せずにだ。




俺がこの暦史で点が取れるのは、俺が社会が得意で、暦史はその中でもかなり好きだからである。なんとなくその癖が俺には分かるというだけのことだ。




もともとそれを抜きにしても、真理亜はただ単に暗記だけをすること、そして、過去を振り返るのが好きではない真理亜は暦史が好きではなかったのだが。他の教科で十分カバーできていたこともあり、そこまでは気にしていなかったらしい。事実、俺と真理亜以外は、誰も90点平均は出せていない。俺が1問2問ケアレスミスをすれば、俺は真理亜に負けていた。




「ここも、ここも、古文も数学Bも化学も……、ケアレスミスだわ……、なんてこと……」




訂正、真理亜の方にケアレスミスがたくさんあったようだ。




「副会長先輩気負いすぎたんですね。実力テストのときは、負けたことは悔しがっててもケアレスミスを嘆いてはいなかったですからね」




そして、その真理亜におなじみの幸助の毒が炸裂。




「幸助はどうだった?」




「はい、合計902点で学年3位でした!」




「おお、さすがだな」




幸助は笑顔で俺に成績表を見せてくる。この幸助より上の2人は、いずれ生徒会に関係してくるのか、それとも生徒会に興味はないのか。




「もっと文系はなんとかしたほうがいいだろうか?」




「お前は数学コンビが学年1位だろ。理系を伸ばしてきゃいいだろう」




孝之も学年10位以内。文系科目の平均がそこまで高くないのにこの成績は恐ろしい。理系科目の平均だけなら、俺と真理亜よりも高いのである。




「じゃあ、私とデートをするのは、翔君だね。よろしくね」




そして、その様子を見て、優希先輩が俺にそう言ってくる。




「は、はい」




「どこに行こうか?」




「お、俺が考えときます、今回の企画は、俺と真理亜の勝ったほうが、優希先輩を誘うって話でしたから、俺がプランを決めていきます」




「ふ~ん、楽しみにしてるね♪」




その社交辞令感のない、本当に楽しみにしている表情は、俺にはとてもまぶしかった。




「ああ、お姉さま……、力の及ばなかった私をお許しください」




「で、その後は真理亜ちゃんだね。今週は忙しいから、2週間後でいいかな?」




「え?」




ずっと俯いたままだった(生徒会室は綺麗にしてるが、ずっと手を突きっぱなしにしているのはどうかと思う。ツインテールも地面につきっぱなしだし)真理亜が顔を上げて優希先輩を見る。




「真理亜ちゃんも一緒におでかけしよ?」




「え、でも私は桂川君に……」




「それは真理亜ちゃんが私を誘う場合のルールでしょ? 私が真理亜ちゃんを誘うのは問題ないはずだよ。それともイヤ?」




「め、滅相もないです! お姉さま、ああ、お姉さま、ありがとうございます。この日を一生忘れません!」




「大げさだな」




「デジャブだな」




「大げさ田デジャブ亜先輩ですね」




「ああ、嬉しくて涙が止まりません」




いつもの暴走に加え、感極まって俺達の突っ込みも聞こえないようだ。




だが、元気になった様子だから、いいか。それにしても優希先輩はやっぱり優しいな。今回の結果において、1番いい収まり方をする行動をしてくれた。




……、俺が負けてても、優希先輩は俺を誘ってくれたかな? 




そんなことをちょっとだけ思ってしまった。




「いいこと? 今回は私の負けだったけど、まだ通算成績では勝ち越しているんだからね。たった2点差なんだから、すぐに覆して見せるわよ!」




真理亜も本調子に戻ったようで何よりである。






「何とか片付いたな」




そしてその日の生徒会。テスト週間とテスト期間は生徒会活動はほとんど行えなかったので、この1週間5人で精一杯作業をして、ようやく整理が済んだところである。




「はい、お茶とお菓子です」




「ああ、ありがとな」




いつもどおり幸助からお茶とお菓子をもらう。




この生徒会が円滑に進んでいるのも、この休憩時間になったときの幸助の差し入れはかなり大きい。




リラックスの意味でも、俺の胃袋的な意味でもである。




「にがぁい……」




そして毎回飲んでいても、相変わらずなれない真理亜。




「副会長先輩、本当に駄目でしたら、普通のお茶をお出ししますよ?」




「だ、大丈夫よ……、この苦さが癖になるのよ……」




本人はこう言うが、これだけ回数をこなしても、いまだ涙目では、飲めるようになる未来は俺には見えてこない。




「そろそろ2年生の3人は修学旅行になるわね。今年はどこに行くことになるのかしら?」




まとめている資料のうちの1つに修学旅行についての飼料があり、それを眺めて優希先輩が言う。




「優希先輩は去年どちらに行かれたんでしたっけ?」




「私は北海道だよ。北海道の食べ物は美味しかったなぁ……。3人はどこなの?」




「どうでしょうね。俺の友人を聞く限りは半々ですね」




星野高校では、北海道か沖縄のどちらかが修学旅行の行き先になる。




昔は海外も行っていたらしいが、手続きの問題や、安全面の問題で無くなったと昔のデータに書いてあった。




皆がどう思っているかは知らないが、俺としては、海外に行くのは面倒くさいし、金銭面でも厳しくなるし、都合は良かった。




国内旅行になった代わりに、生徒は北海道か沖縄を選ぶことができる。どこに行くかを選べるのは楽しいが、それをまとめる手間はなかなか大変である。




「私は北海道ね。沖縄はもう何度か行ったことがあるもの」




「俺も北海道だな。何か時期的に沖縄は天気が悪い


「俺も北海道です。北海道のほうが、積立金が少ないので」




「翔君の理由はなんだか悲しい気もするね……」




「いえいえ、俺は値段が一緒なら北海道を選びますよ。飯が美味いほうがいいです」




「どちらにしても、理由が生活感があるよね……。でも皆北海道なんだ」




「お姉さまと一緒で嬉しいです。帰ってきたら思い出を共有しましょうね」




「一緒に行くわけじゃないですから、同じ思い出にはならないんじゃないですか?」




「とりあえず、そろそろ皆の志望がわかるはずだから、また少しまとめに忙しくなりますね」




「それも皆が楽しく修学旅行を過ごすために必要なことだよ。がんばろっ」




仕事が終わってもまた仕事が増える。社会の荒波のようである。


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