第17話 休みでも生徒会

「アルバイトが無くなってしまった」




おととい、平日に1日だけアルバイトを代わった大学生の人が、代わりに今日出るとのこと。




別に俺は普通に出てもいいのだが、大学生の人は苦学生。アルバイトが減ることはよろしいことではないのだろう。俺も別に1日多く出て、1日出勤が減るだけなので、損はしていない。時間も、今日俺が15時から21時だったのを、おととい16時から22時に代わったので、何も変わらないし。




かといって、元々アルバイトをする日だったので、午後は何も予定を入れなかった。




「生徒会にでも行くか」




考えた結果こうなった。まだまだやれることは多い。おととい早めに学校から帰宅したこともあって、遣り残しがないかと、気になってしまい、学校に来てしまうのであった。




「あ、翔先輩、今日は何か用事ですか?」




校門まで行くと、幸助がいた。




「幸助? 何してんだ?」




「茶道部のお手伝いですよ。ちょっと相談を受けたので」




「土曜日なんだから休めよ。普段から、学校生活と店で大変なんだから」




「別に対したことありませんよ。それに、翔先輩も生徒会に行くんですか?」




「ああ、おととい休んでるしな」




「同じじゃないですか。元会長先輩も言ってましたよ。休むのも大事だって」




「まぁ分かってんだけどな」




「後で、お茶とお菓子をお持ちしますから、あまり無理しないでくださいね」




「了解了解、後でな」




そして、幸助と分かれた。




「ん? 孝之?」




校内に入ると、今度は孝之がいた。




「おお、翔。何しに来たんだ?」




「孝之こそ何を?」




「俺は会計だからな。ちょっとだけ教師と話し合いだ」




「ああ、俺がいろいろ頼んだからか。悪かったな」




先日の俺がこっそりいろいろやっていたことを、孝之だけに話していたのは、彼が会計だからである。お金に関わる問題だけは、孝之も状況を共有していないと、急に話が来てしまい、孝之が混乱してしまうからである。




こういう急な仕事が入らないように孝之には先に事情を伝えておいたのだが、結局手間をかけてしまったのか。




「そんな顔すんな。俺が自分で今日でもいいって言ったんだ。そろそろ修学旅行の予定もあるし、早めはやめに整理しとかないと追いつかなくなるからな」




「孝之……」




「お前は会長で、俺は会計。だから気にしなくていい。そうじゃなくても、長い付き合いなんだ。気なんか使うな。そういう気を使いあわない関係だったから、長い付き合いになってんだろ」




孝之とは長い付き合いだが、誕生日とかの記念日を祝いあったことはないし、金を使う遊びも全然しない。


そういう適当な付き合いだからこそ、友人をやれているのだと思う。それを抜きにしても、俺のほうが明らかに孝之の世話になっているのである。それなのに、孝之のほうが、そう言ってくれるだけで、ずいぶんと気持ちが楽になる。




「またうまいこと九十九パイセンを調子に乗せて、胸を揺らすのを見せてくれ。あの日以来、どうも俺に対して隙を見せてくれなくなったんだ。あの人、スリーサイズについては、結構気にしてたんだな」




「孝之は評価をプラスにしたら、それ以上のマイナスを得ないと死ぬ病気かなんかなのか?」




とは言っても、断らなかった。俺が意図的にやらなければいいのだ。偶然ならいい。




「お前も生徒会か?」




「ああ」




「お前が休めりゃいいと思って、こっそりやってたのにな。まぁいいや、また後で行くから、そんとき報告するぜ」




そして、孝之も去っていった。




「皆真面目だな。ちょくちょく残念なところはあるが。と、いうことは多分あいつもいるんだろうな」




俺は生徒会室のドアを開ける。




「きゃっ、か、桂川君?」




やっぱりいた。真理亜が。もう予想通りすぎて驚きもしない。




「ちょっと! 何でそんなに呆れ顔なのよ! ちゃんと気配も消してたのに、背後にいきなり立っておいて!」




どっかの殺し屋か。




「今日は学校がお休みなんだから、お家でゆっくりしてる日のはずでしょ! それにもうすぐあなたはアルバイトの時間でしょ?」




「いや、真理亜も学校にいるし……、というか。俺がアルバイトしてる時間帯知ってんのか。割とちゃんと見ててくれてるんだな」




「か、勘違いしないでよね。何かあったときに、桂川君に連絡しなくちゃいけないときに、もし桂川君がアルバイト中だったら迷惑だと思ってるから、森君や堀田君に聞いただけなんだからね」




「いや、それでも俺に気を使ってくれてんだろ」




「違うわ! 桂川君が、連絡に気を取られて、他の人が迷惑になるかどうか心配なだけで、桂川君に気を使っているわけじゃないわ!」




その論理でも、俺に気を使っていることには変わりはないのだが、それを指摘したら、また違う形で反論されそうだし、論破できても、それはそれで、機嫌が悪くなるだろうから面倒くさい。この辺で折れとこう。




「まぁいいや。それよりも、真理亜は何してんだ?」




「わ、私は……、そう、残ってる仕事があってここに来たんだけど、お姉さまに休みなさいって言われたのを思い出して、帰るところだったの。いい? 今日のことは、お姉さまには内緒よ」




「ああ、お互い様だな」




といいつつも、書類をいくつかカバンにまとめて入れている。家でやるつもりだな。




「それじゃあね。私は、必要なものを買出しに行く用事もあるから、これで失礼するわ。もしかしたら、また来るかもしれないけど、それは、忘れ物を取りに来るだけだからね」




最後まで騒がしくしたまま、真理亜は生徒会室を出て行き、俺は1人になった。




「真理亜……。俺が告げ口するとでも思ってんのか? そんなことをしても優希先輩が喜ぶはずもないのに。まぁいいや。俺もさっさとはじめよう」




「何を始めるのかな?」




「何って……、生徒会活動に決まってるじゃないですか、何当たり前のことを優希先輩?」




俺の後ろに優希先輩が立っていた。めちゃくちゃ驚いた。




「何してるの? 今日は学校お休みなのに」




「わわ、忘れ物を取りに来ましたです」




真理亜と同じ言い訳をする。




「それは、この予算管理の書類かな? それとも修学旅行の事前監査の予定表? それとも、この作りかけの広報書類?」




俺が机の前に出していたものを、全部指して言われる。ばればれのご様子だ。




「いいえ、どれも俺の忘れ物じゃないです」




とぼける。




「それじゃあ、この今度やる予定の募金箱を作成するためのダンボール?」




「いいえ」




はいと言ったら負けだ。




「じゃあこのカツサンド?」




「それです」




「残念。これは私の昼食です。あなたは嘘つきです。だから、全部没収~」




女神様に全部取られてしまった。ちゃんと正直に言うべきだった。だって、貧乏人にカツサンドは魅力的過ぎるんだもの。




ぺシッ!




「いたっ」




俺は軽く頭を優希先輩に叩かれる。別に痛くはないすごく優しい叩き方だったが、つい声が出てしまった。




「も~、ちゃんと休んでって言ったじゃない。4月と5月は大変なんだよ。学年も変わって環境の変化で体がストレスを感じやすいから、休むときは休んでって説明したでしょ」




「べ、別に生徒会室に来たからと言って、仕事をしにくるとは限らないでしょう?」




「生徒会室に遊びに来たとか、眠りに来たとかいう言い訳は聞かないからね」




残念。回り込まれてしまった。




「まったくもー。真理亜ちゃんも森君も、堀田君も誰もお姉さんの言うこと聞いてくれないんだから~」




「知ってたんですか」




「分かるよ~。だってみんなの先輩だし、私もそうだったからね」




「そうなんですか?」




「だから、私はこっちの書類整理するから、翔君はそっちやっちゃお♪」




「え、いいんですか?」




「私も気持ちは分かるからね。でも、去年それで私が苦労したから、皆には苦労して欲しくなかったんだけどな~。やっぱり気になるよね。やることがたくさんあると。来ちゃったなら、このまま帰すのも悪いし、一緒にやって、すぐに片付けて、ゆっくりしよ?」




「は、はい」






その後、用事を済ませた孝之と幸助も合流し、気の毒なので、真理亜にも連絡して生徒会室に呼んだ。




結局5人で活動を行い、15時くらいにはきりがついた。




「はい、どうぞ、お茶とお菓子です」




そしていつものメニューが幸助から振舞われる。




「お、お菓子がいつもと違うな」




「今日は茶道部からお菓子をもらいました。たまにはいいと思いまして」




いつもの抹茶尽くしではなく、水羊羹と葛餅が目の前にある。実に美味そうである。




「葛餅はかなりいいものだな。美味い」




「うん、水羊羹もするっとしてて美味しい」




「うう、でもやっぱりお茶はにがぁい……。お菓子がいつもより甘いから、余計にがぁい」




皆ものめずらしいお菓子に舌鼓を打ちつつ、真理亜だけいつもどおり顔を(><)みたいにしながら、ゆっくりとした時間を過ごす。




「お姉さま、ごめんなさい」




「え?」




そんなほっこりした空気の中、真理亜が急に謝る。優希先輩も驚いている。




「お姉さまのいいつけを破って勝手に仕事をするなんて……、お姉さまの気遣いを駄目にしてしまうなんて、後輩失格ですよね……」




「お、俺も悪いとは思ってるんですよ、パイセン。でも、週をまたぐと作業が遅れるので仕方なくです」




「僕の場合は、茶道部の活動が土曜日ですから、全然悪くないです」




幸助は少し怪しいが、とりあえず全員が謝っていた。




「優希先輩、悪いのは俺です。俺がいろいろ独断で行動したり、おととい急に皆に任せてアルバイトえおしたので、今日にしわ寄せが来ただけです」




そんな3人を俺は無視できず、優希先輩の前で謝る。




「も~。翔君はさっき言ったでしょ。気持ちは分かるって。だから怒ってないよ。皆頭上げて」




優希先輩は、俺と真理亜の頭をぽんぽんしつつ、そう言う。




「じゃあ何で、俺達に休めって……」




「それは私がみんなの先輩だからだよ♪」




それ以上の言葉は必要なかった。そうだ、優希先輩は先輩なのだ。だから、後輩を心配するのは当たり前のことなのである。




先輩って大変なんだな。自分のことだけじゃなくて、ちゃんと後輩のことを見て、後輩が困っていたら、手を差し伸べて、困っていそうだったら、気づいて助けてあげて。




俺に至っては幸助からむしろ気を使われているくらいだからな。やはり優希先輩は、憧れるべき存在だと改めて感じるのであった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る