俺と先輩の生徒会活動記録
ポンポヤージュ66
第1話 生徒会役員就任挨拶
「おい翔、寝てないでちゃんと案を考えろ」
「翔先輩、お疲れですか?」
「桂川君、いつでも会長変わってもいいのよ?」
俺こと桂川翔(かつらがわしょう)は生徒会長である。ここ星野高校に通う2年生。
俺を急かしてくるのは、俺と同じく生徒会役員である3人。
初めに俺になれなれしく話しかけてきたのは、俺と同学年でクラスメイトで友人である森孝之(もりたかゆき)。小さい頃から付き合いのある幼馴染でもある。大柄で見た目が体育会系なのだが、役職は会計。
2人目に俺に敬語で丁寧に接してきたのは、堀田幸助(ほったこうすけ)。1年生で後輩。見た目は女子だが、16歳の男である。学校中、いや、日本中探しても、幸助ほど男子生徒の制服が似合わないやつはいない。髪もロングとまではいかないが肩にかかるほど長く、中学生のときに出会ったとき俺は性別を間違えた。役職は書記。
最後に俺にニヤニヤしながら文句をつけてきたのは、山田真理亜(やまだまりあ)。生徒会メンバーの紅一点で学年は2年生。抜群のスタイルと、大きなツリ目が目立つ大人っぽい美少女だが、長い髪をツインテールにしているのと、大きくて高い声は子供っぽい。
祖母に欧米系の血が入っているため、少し薄い金髪と、わずかに青色の瞳が目立つが、中身はほぼ日本人である。役職は副会長。
この4人が今年度の生徒会メンバーである。
「悪い悪い。ちょっと寝不足でな」
「まったく……。いい顔して寝やがって。うらやましい夢でも見てたのか?」
「悪くなかったな」
孝之とは付き合いが本当に長い。気の置けない仲だ。
「お茶を準備しました。目が覚めますよ」
「お、幸助ありがとな」
気の利く後輩幸助。俺を慕ってくれている可愛いやつだ。見た目含めて。
「ああ、お茶は和むな」
幸助は俺によくお茶とお菓子をくれる。この暖かいお茶が逆にのどの渇きにはいい。
あえて暖かいものを飲んで涼を得る。ジジイかと思われるが、いいものはいいのだからしょうがない。
「真理亜先輩もどうぞ」
「あらありがとう……、ずず……、はぁ……、苦い……。って違うわ! 今日はこのメンバーが集まって最初にやることがあるんでしょ!」
真理亜がお茶で落ち着きながら叫ぶ。実にやかましい。彼女は去年も今年もクラスが違い直接の付き合いはないが、昨年も生徒会副会長を勤めていて、今年は会長になることにかなりこだわりがあったのか、俺の会長当選から妙に突っかかってくる。
「ああ、最初の議題は、新生徒会メンバーの就任挨拶だな」
この学校では、生徒会メンバーが新しくなり、初めに活動する日に、全校生徒の前で意気込みを語るというシステムがある。
選挙のときに話した個人的なものではなく、学校全体をどうしたいのかを、生徒会メンバーで決めて発表する。それが公約になり、生徒会メンバーの基本方針ということになる。
何に重きを置くのか。これが最初に生徒会が決めなければならないことだ。
生徒会は、予算管理、行事提案、学校における問題解決、ボランティアなどいろいろなものを企画し、考案するが、結局は教師のフォローが入って、学校は運営されていく。
その中で、生徒会が主になってやりたいことを皆の前で話し、賛同を得る。これが最初のことである。
これでとちると、会長の信頼などにも関わり、生徒会活動に非常に影響が出る。
最初の仕事でありながら、とても大事な仕事である。
まぁ慣例みたいなもんだから、中身を完璧に守るというわけでもない。どちらかといえば、お披露目と挨拶が主である。
「別に私はいいのよ。桂川君が会長不信任をくらって、本当にふさわしい人が会長になるのもいいと思ってるもの」
真理亜は俺を見ながら、ドヤ顔で語りかけてくる。
「え? でも真理亜先輩は負けたから副会長なんじゃないですか?」
「…………」
だが、幸助の圧倒的な正論に対して、二の句が告げなくなる。
幸助は可愛らしい顔に反して、意外と毒がある。包み隠さずに話しているだけで悪意はない……はずである。
「別に挨拶って言ってもなんでもいいんじゃね? 俺去年の生徒会長が何言ったか覚えてないぜ?」
「何でよ! 去年のお姉さまのすばらしいお言葉を忘れたの?」
孝之の言葉に真理亜が反論する。お姉さまというのは、昨年2期連続、つまり1年間生徒会長を勤めた九十九優希(つくもゆうき)先輩のことである。
学年は俺達の1つ上。学校でも有名な女子生徒である。
「覚えてない。大体お姉さまって……。そういう百合百合しいのは、女子校でやってくれ。俺はバイはお断りだ」
「そんな関係じゃないわ!」
「騒がしいよ。もうすぐ挨拶なのにそんなに余裕でいいのかな?」
真理亜が大騒ぎをしている生徒会室に女子生徒が入ってきた。噂の優希先輩である。
女子としてはやや大きい身長と、抜群にスタイルがいいと言える真理亜をあざ笑うかのように包容力のある大人びたスタイル。
だが、顔は童顔で非常におっとりした美少女で、真理亜と比べると可愛い系である。だが常に落ち着いていてしっかりしている全校生徒でから憧れの眼差しを受けるカリスマである。
「お、お姉さま! これは違うんです! 私は皆が腑抜けてるから、活を入れてただけなんです。信じてください」
真理亜が焦る。優希先輩が生徒会室に入ってきた時点では、俺と幸助はお茶を飲んでいて、真理亜が孝之に怒鳴っている状態。確かに1番騒がしいのは真理亜である。
「落ち着いて。真理亜ちゃんのことを怒ってるわけじゃないわ。それに、短い付き合いじゃないんだから、そんなに心配しなくてもあなたのことは信じているわ」
「お……お姉さま……」
女神のような笑顔で微笑まれた上、頭を優しく撫でられた真理亜はうっとりしていた。うらやましい。
「あ、九十九先輩、おはようございます、今日も大きいですね」
孝之が挨拶をしながら、優希先輩の胸元を見る。
「ちょっと! 先輩に変なことを言わないでよ!」
「別に変なことは言ってないだろう? 女の人のおっぱいが大きいというのは褒め言葉だ。胸のない女に価値は無い。胸がないなら別に女である必要が無いじゃないか。幸助がいい例だろ」
孝之はやや体育会系のむさくるしさはあるが、器量も成績も悪くない。だが、この巨乳第一主義が相手かまわず不評なのである。
「孝之先輩、僕は男の子です……」
「お前に胸があれば、妥協するんだがな……」
「幸助に胸があったら大変なことになるだろ」
俺含めて。
「あ。あはは……。相変わらずだね」
優希先輩は孝之のことを知っているし、優しいので苦笑いで済ましてくれるが、普通の女子は失笑か真顔である。俺はよく孝之の近くにいるので、それを見るのが怖い。
「心配しなくても、副会長も十分あるから俺は女として見てるぞ」
「そんな心配はしてなーい! 後役職で呼ぶなー!」
副会長。副を気にしているのである。
「副会長先輩は副会長であることを気にしてるんですね」
「ええ、そのとおりよ。あなたは分かってくれてるわね……。たまに毒はあるけど、本当に男の子とは思えないほど可愛らしくて……素敵……」
「うれしくないです……」
「お姉さまの横にいても、霞まないし……、違和感もないわ」
そう言われて、いつの間にか自分が優希先輩と真理亜の間にいたことに気づき、俺の後ろに来る。
「そんなことよりも、もう時間なんだけど……」
「あー! どうするのよどうするのよ? このまま就任演説が失敗して、桂川君が不信を受けるのはいいけど、生徒会そのものの不信を受けたら、後期に私が生徒会長になる計画にも黄色信号が点るわ!」
真理亜がものすごく焦る。俺を悪く言うのを忘れていないところは冷静にも見えるが。
「どーすんだ?」
「翔先輩……」
孝之と幸助も心配そうに俺を見てくる。
「まぁ、なんとかなるだろ。さっさと体育館に行くぞ」
「「「「えー?」」」
優希先輩を除く3人の驚きの声を背に、俺は生徒会室を出て体育館に向かった。
「はい、それでは今年度の前期の生徒会就任演説を行っていただきましょう」
俺達が壇上の横で控えている間、校長先生の話があり、そのまま校長先生が俺達の出番を促す。
「それで? 何か案があるのかしら?」
真理亜が腕を組んで俺に聞いてくる。
「別に何もねぇよ。俺が適当に話すから最初に自己紹介だけして順番に出て行ってくれ」
「おうよ」
「わかりました」
「ちょっと、そんなので大丈夫なの……?」
「別にいいだろ。俺が大体しゃべるんだから、最悪失敗に終わっても真理亜にはそこまで迷惑にならない」
「それはいいけれど……」
「頑張ってね、翔君」
「任せてください。優希先輩は見守っていてください」
優希先輩からの励ましは何よりの勇気になる。駄洒落じゃないよ。
『生徒会役員入場!』
「1年A組! 生徒会書記、堀田幸助! 何度も言ってますが男です!」
「2年B組! 生徒会会計、森孝之! 大きいことはいいことだ!」
「……2年A組。生徒会副会長、山田真理亜。去年に続いてよろしくおねがいします」
「そして俺が2年B組、今年度の前期生徒会長、桂川翔です。まずは、俺に会長を任せてくれてありがとうございます」
俺は特にしゃべることは決めていない。だから普段から思っていることを話す。
「俺は生徒全員が充実した学生生活を送れるように尽力したい。何か1つでも良いから誰にも負けないものを作ろうってよく言われるけど、全員がそれをできれば苦労は無い。1番良いのは、全部で1番かそれと同じくらいのことができることだ。それができないなら、一芸を磨けばいい。それもできないなら、器用貧乏でいい。大体のことをそつなくこなせればなんとかなる。全部つまみ食いでもいいから、たくさん経験をしてみればいい。それすらもできないなら、赤点だけ取らないように頑張ってみればいい。それはテストに限ったことじゃない。人よりちょっとできなくても、落第点さえとらなきゃなんとか生きてける。それを全員が目指せるように、いろいろやってみようと思うから、皆も力を貸して欲しいと思ってる。長い話は疲れるから、以上! 半年という短い期間ですが、よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします(ます)←ちょっと真理亜が遅れた」」」
最後はアドリブだったが、うまく皆合わせてくれたようだ。
パチパチパチパチ。
見渡す限り、笑顔だったり無表情だったり、そもそも聞いてなさそうな人もいたが、とりあえず皆が拍手をしてくれているようだから、まぁ成功だろう。
「よし、ばっちりだったな」
「ああ、さすがだな」
「先輩かっこよかったです」
「私はちょっと恥をかいたわ……、明らかにタイミングが遅れたもの……」
「副会長先輩案外鈍いですよね」
「しかも割りとちゃんとしたことを桂川君は言ってるから、文句も言えないし……。私の心配は何だったの?」
「心配してくれてたのか?」
「してなーい!」
両手を頭の上にあげて子供みたいに怒る。見た目がクール美人系なだけに、残念である。
「お疲れ様。翔君はなんだかんだで大丈夫だったね。短くまとまってて良かったと思うわ。私はあんなふうにできないから……」
「別に先輩の話は面白いから長くても良いですよ。俺の話は面白くないですから、短く済ませたほうがいいと思いまして。校長先生の話が長く続いた後に面白くも無い話が続いたら疲れますよ。俺も疲れますし」
「うんうん。ちゃんとしててえらいえらい。そういう建前が無いところがきっとみんなの心に響いたんだね」
「あんなの私は納得して無いから! 私のほうがちゃんとしたことを言ったのに!」
真理亜と優希先輩が言っているのは、俺の生徒会役員選挙のときのコメントのことである。
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