第16話 敗北

「ああぁ……ッ!」


 雪丸が叫ぶと同時に目覚めると、そこは四代城の月島家の屋敷の一室のようだった。


「若様……! 御目覚めになられましたか」


 部屋には豪真、そして二人の下女がいた。雪丸は上体をとっさに起こそうとする。


 しかし、腹に激痛が走り「ぐっ……」と声を上げその体を中途半端な状態で止めてしまう。


「ご無理はされぬよう」


 豪真に咎められてしまう。二人の下女が雪丸の元に駆け寄り、体を支える。自身の体を見ると包帯で傷口がきつく縛られ布団の上で寝かせられていたようだった。


 雪丸はゆっくりと再び体を寝かせると、天井を見つめながらこれまでの記憶を呼び起こした。


「……戦況は。一体どうなった」


「……我々の負けです。近重城を落とす前に根来からの援軍がたどり着き、全面交戦となり我々はその場から敗走する事になりました。当然秀隆の首は取れておりません」


「……お前以外の俺の部隊の者達はどうなってしまった」


「それは……」と、なかなか口を開かない豪真に雪丸は「言ってくれ」と促す。


「……全滅です」


 その言葉に雪丸は眉をひそめながらも目を見開く。


「近重城に現れた秀隆はこれまでに見ないほど脅威的な強さでした……単騎で前に出て、向かう兵を次々に倒していったのです。結局、我々の敗因は秀隆個人の強さを見誤っていた事、それともうひとつはやはり国主の不在ゆえ、士気を保つ事が出来なかった事でしょうか」


 そこからしばらく誰もピクリとも動かぬ状況が続いたが、再び雪丸が口を開いた。


「俺が生き残れたのは、隊員の犠牲があったからだ。守るべき者達に守られて、自分だけが生き残るとは……皮肉なものだな」


 雪丸はふと思い出し、自身の胸元に手をやった。そこには雫から貰った翡翠のお守りがあった。約束したというのに。自身が守護神である事を証明すると。雫の故郷を取り戻してやると。


「これで……このザマで、俺がこの国の守護神だと言えるのか……?」


 雪丸は翡翠をぎゅっと強く握り、そしてこれまでの人生を振り返り始めた。


 月島家の長男として生まれ、ずっと自身が守護神になるものだと信じてこれまでやってきた。


 だが、その具体的な根拠は一体何だったのだろうか。言ってしまえば、他の者と比べ髪の色が白かったからというだけだ。そういえば別の地区でも全身の色素が抜けたような男がいるとの話を聞いた事がある。その者は足が不自由で、剣技など関係ない生活を送っているのだとか。


 そうだ、常識的に考えれば、そんな髪色が明るいだけで特別な能力があるなんて根拠になどなるワケがなかったのだ。雪丸はただ周りに持ち上げられ勘違いをしていただけだったのだ。


「し、しかし……秀隆は、強さを隠していたのです。まさかあれほどの技量を持つなどと、誰も予想など出来ないことでした」


 豪真がそんな、雪丸を慰めるような言葉を掛けてきた時、雪丸はとある人物の姿を思い浮かべた。あの雪丸の足元で無様に倒れていた男の姿を。


「いや……誰も、ではない。奴は違った。リオンだけは秀隆の強さを分かっていた……」


 リオンは雪丸では勝てないと断言し、その上で、自分が修行をすれば、勝てると言っていた。


 雪丸はリオンを認めたくない一心で感情的に蔑視していた。だが杏の言う通りリオンは驚異的な速度で剣術を磨き上げていた。もしあのままの強くなっていっていたならば、その先には。


「リオン……お前ならば、本当に奴に勝てるというのか……」


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