人魚色の恋
胡蝶蘭
青い鱗
その恋はたった一つのドレスから始まった。
高校3年の夏、どの部活も引退がかかった試合目前にして焦りを感じていた頃。
冬休み前に引退を控えている美術部は最後の文化祭準備に追われていた。
どの部活もクラスも出し物がある中で美術部は展示品として“ドレス”を作る事になっていた。
とは言っても美術部がデザインしたドレスを手芸部と共同で形にするのだった。
美術部は3人と少人数で廃部寸前。
3年の高橋京子と同級生の花里マリ、2年の町田の3人しかいない。
「デザイン画出来た?」
マリが京子のスケッチブックを覗き込むとスケッチブックは真っ白だった。
「全然…ドレスなんて描いたこと無いもん。」
「だよねぇ。」
そんな放課後の美術室だった。
顧問の真野尚こと真野先生が美術室に入ってくる。
「お疲れ様ー。悪いんだけど準備室掃除手伝える人いない?」
美術室の奥にある薄暗く狭い部屋で美術部すらも入らない部屋だ。
普段掃除をしておらずむしろ美術部が出来てから掃除したのかすらもわからないのだ。
「あー…私無理です。」
「…私も、用事あるので。」
マリと町田はさらっと避難回避した。
それを聞いた京子は真野を見た。
「あの、私暇なので手伝いますよ。」
「おー、頼むわ高橋。」
「はい。」
京子に礼を言った後マリを軽く睨みつけた真野は美術室から出て行った。
「うーわ。贔屓だ。ていうか24歳の癖に俳優顔でチヤホヤされて絶対調子乗ってる。」
「そうなの?」
「ま、真野ラブな京子はわかんないかあ。」
「ええ、ラブじゃな、ていうかやめてよ!」
「2人で頑張って!」
1人で盛り上がったマリは片付けを終えた町田を引っ張って帰って言った。
1人取り残された京子はマリの話に笑い、
先に美術室の掃除を始めた。
「埃っぽい…」
薄暗い部屋は埃っぽかったが思いのほか汚く無く、
ダンボールに作品が詰まって積み重なっていた。
量も余りなかったので一つずつ美術室に運んでいると京子は一つのダンボールから青い布が出ているのに気がついた。
ダンボールを出してみるとスパンコールみたいなキラキラしたものがいくつも連なって青いドレスについていた。
「綺麗…」
広げるとマーメード風のドレスで下の裾は半透明な水色の布が人魚のヒレのように広がっていた。
「これも展示品だったのかな…」
「そうだよ。」
「わあっ。」
独り言が返ってきて思わず振り向くとドアにもたれかかった真野が京子を見ていた。
「これ、凄い綺麗ですね。」
「そうか?ただのガラクタだよ。」
「そうですかね。私もこういう綺麗なドレス着たいですよ。」
ドレスを自分の体に合わせて見た京子は真野に見せると真野は視線を逸らした。
「お前は着れない。」
「え?」
「なんでもない、片付けるぞ。」
聞こえたが思わず聞き返すと何でもないと真野はほかのダンボールを美術室に出した。
京子はダンボールにドレスを戻してふと見るとダンボールにマジックペンで“3期生”と書かれていた。
「3期生?」
京子はしばらく青いドレスが頭から離れなかった。
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