第1話 友人Fとの会話
「だからコインが目の前にあるとするだろ!」ーそう語調を強めて友人Fは夏川真冬に詰め寄る。いつもと変わらない大学でのランチタイムでの光景だ。Fとは大学での入学式たまたま隣同士座ったのを機によくつるんでいる。親友?そんな恥ずかしいことを言わないでくれ。たまたま隣に座り会話をし、それ以降たまたま一緒にいるだけで友人の類なとどは思いたくもないものだ。就職を控えた4年生の秋になってもこうして会っているのは、そうたまたまなのだ。
「おい、聞いてるのか。」Fが再び強い語調で迫ってきた。
「あぁ、コインの話だろ。それがどうしたんだよ。」
「どうしたって。。俺はな、お前にありがたーい言葉を授けようとしてるのに。。」
自分でありがたいと言うほど胡散臭いものはないなと思いながらもここで適当に流したらまたとやかく言われるなと夏川真冬は考え、渋々耳を傾けた。
「いいか、コインには裏と表が存在するだろ。なんで裏と表を区別できると思う?」
突然の問いに加えて当たり前のことを改めて聞かれたことに夏川真冬は一瞬戸惑った。
「なんでってそりゃ、それぞれ模様が違うだろ。例えば100円なら"100"と書かれたほうが表、、」
「はいはい、その通りだよ。裏表異なる絵柄が描かれているから俺たちは判別できるんだよな。因みに100円の表は桜が描かれたほうだけどな。あ、知ってるか?桜っていうのはな、、、」
また始まったよ。すぐに脱線して本当か嘘かもわからない雑学を延々と述べてくる、Fの悪い癖だ。出会った当初は新しい知識を得られることに喜びを感じていたのだが、いつからか鬱陶しい以外の感情が湧かなくなった。
「人生も同じなんだよな。"死"という裏を認知して初めて"生"を実感できるんだよ。」
その瞬間であった。今まで右から左に流していたFの言葉にぐっと引き寄せられたのは。感覚などではない。N極とS極がくっつくかの如く体が、全神経がFの方を向かなければいられなくなったのだ。と同時に、ずっと心の底に抑え込んでいたあるものが一気にそこから漏れ出したのは。
あぁ、そういえば死ぬんだった。夏川真冬は友達との約束を思い出したような、何気ない感じでふと死を再確認したのであった。
コインは投げられた kûkí @udonhakushaku
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