第3話 下が有無彼双樹調ふ
第3章 シタがウナカレサウジュトナふ
1
文字通り門番をする必要はなかったのだが。
一泊二日の実家帰省から戻るなり、門柱付近にて。
棒立ちするスゲを発見して居たたまれなくなる。
黒尽くめだっているんだし。むしろ何のための黒尽くめなのか。彼らにも仕事を与えなければ。
「それなりに楽しい」スゲはくそまじめな顔でそう言うが。
「立ってるだけで?」
「邪魔になる」
銃声。
「法律のお話しましたでしょ」頭が痛い。
「上手くなりたいなら練習が一番だ」それは現役のあなたがそういうなら説得力はありまくりだけども。
銃声。
銃声。
「弾は? まさかとは思んますけれど」
「届く」
本気か。
イジンさんは本気で。ヨシダを引退させようと。
「キナイは」
「寝てる」スゲは馬鹿丁寧に返事をくれる。
そんなことわかっている。それがキナイのキナイたる仕事だ。
「どっちの意味?」それでもその馬鹿みたいな愚問を繰り返すサダさんもサダさんで。
「見ればわかる」
睡眠だったいいな。と思いつつ障子を開ける。
閉める。
確かにメンテしろとは頼んだが。
「帰ってたのか」キナイが気づいて顔を上げる。
「ああ、ええて。続けて続けて」
道理で黒尽くめの数が少ないわけだ。こんなところで油打って。
ヨシダに撃ってもらおうか。いい的がありますよ。
「のべつ幕なしやらへんでも」対象外メインテナンス。
「帰ったんだ」本日のメインテナンス対象。「お前がいないっつたら」
「そこでアピールしませんと。俺のほうが気持ちええよとか」
「お前じゃないと駄目だとかいって」
引継ぎだと説明したところで非難轟々だと思ったから黙っておいたのに。いないなら仕方ない。とかゆう思考は働かないのか。
ケータイ。事務から。
「ああ、まあ帰ってますけれど。そないな我が儘無視やわ。付け上がる。ええて。知らん知らん。文句?スト? 穏やかやありませんねえ。あーはい。ほんならね」
「なんかあったのか」キナイが気にしてくれる。
「サダさん好きな子ぉが大暴れやて。メンテに来た、お名前わかります?」
聞いても思い出せないくせに。
キナイも憶えていなかった。名乗らなかったのかもしれない。
「留守番したんだからな」キナイは約束を守れと言う。
「ああ、せやったね。行きましょか」
つい先日退院したとかで。
お友だちのシュウくんとやら。
無駄足になるのはわかっているが。無駄足だったと思わせなければ。
「いないんじゃないだろうな」キナイが訝しむ。
「いてますよ」
「いない気がする」
この天下の嘘八百サダさんの顔に出ていたとは思えないから。
鋭い。勘とかその辺り。もしくは居場所が察知できるとか。
「憶えてませんらしよ」
「お前らが消したんだろうが」
「俺の不手際やったのは認めますわ。すまへんね。せやけど消したんは」
本人。
「お前らが連れてかなかったらこんな」
「どっかの誰かはんが二つ返事でオーケィしてくれてましたら。まあ例え話ですけれどね」首。
摑みかかる。いい眼をしている。
惚れ惚れする。
「ヨシダさんと寝ました?」
「飯食っただけだ」
「ホンマに?」
「タオル忘れたってゆってたから」
「覗いた。へえ」
力が抜ける。
首。襟が皺になった。
「ええお身体でしょ。一番人気やさかいにね」
「お前の中でだろ」
「よーわかりましたな。そのとーり」
銃声。
「あの人な、もうちょいで引退せなあかんの。上からの命令でね。ナンバワンの抜けた商売がどないにがっらがら崩れるか。見ものやありません?」
「大丈夫なのか」
「心配してくれはりますの? うれしなぁ。せやったらキナイさんにもガンバってもらいませんとね」
銃声。銃声。
無駄弾だ。
「ずっとあんなんでしょか」撃ちまくり。
「いちお、暗くなったらやめてる」
折檻窟にて。
嬉々としたヨシダが銃口を向ける。
自動で両手を挙げた。「ただいま」イジンさんのとこから帰りましたよっと。
「なんやらゆうて」たのかイジンさんは。ヨシダの懸念事項。
「引越しですわ。お荷物まとめて」
「なんで?」
銃口。
下ろさせる。さすがのサダさんでも怖い。
「おつらいのでしょ」
「サダが」
「俺は平気やさかいに。ヨシダさんの話してますのよ」
「聞いた?」
「なにを」
「俺の」
「なんやろ」
「やめたい」
「やめましょ」
「ええの?」
「やりたないんでしょ。イジンさんもええて」
抱きついて。くれるのはうれしいが。
銃をどこかに仕舞ってほしい。
「俺もメンテ係クビんなりましたわ」
「うそや」
「どないしましょ。食いブチが」
「一緒に来よる?」
「ヨシダさんさえよければどちらへでも」
「サダ」
「なんです?」
「俺な」
やめたい。
ヨシダを。
「ええよ。ええてゆいましたやん、さっき」
「違うん。ヨシダやのうて」
カグヤに。イジンさんはそう呼ぶ。
「なりたい」
「改名くらい俺に断りいれんでもどんぞご自由に」
首を振る。
ちがう。なにが。
違うと。
銃。大事そうに仕舞って。
手。ちょっとそこは。
「ある?」
「そらまあありますね」サダさんのだいじなもんが。
「これ」
まさか。
「やめたい」
「イジンさんはええ、て?」
「え。ゆうてくれたのと」
ちがう。
聞いてきたのはその話では。
なんの。
はなしを。
「あってものうてもそないに違いは」
「ほんなら」
手。だからそっちも。
「こっち」ないだろう。ないのだ。
まな板でしかるべき。
「それもねえ、デカければええとかそうゆう話でもないような」
思考をほかへ逸らさなくては。ほかへほかへ。
ほかってどこだ。
なんでそことここを握られたり触られたりして平気な顔で。
「真剣やさかいに」
「悩んでらしたの?」
「そのほうがサダも」
「なんで? 俺はヨシダさんやったら」
「無理せんで」
無理。って。
こちらだって真剣なのに。
左手に力が入る。左手が勝手に。
「狙いがようわかりませんけれども。イジンさんになにやら唆されたんやったら」
違うだろう。イジンさんに近づきたかったらむしろこのままのほうが。
近づく? どうしてその方法を採る。
「どちみち荊の道ですよ」
「サダに嫌われたないん」
「嫌いませんよぉ。なんでそないなこと?」
「サダかて」
イジンさん。ヨシダはそう呼ばない。
ベイジン。
だから通称がイジンさん。
「好きなんやろ?」
あれえ?
いつものヨシダさんの不可思議な思考回路が迷子になっていたとしても。それはあまりにあんまりな。
誰かに。スゲ?
「カグヤんなったら好きんなってくれる?」
スゲか?
あれがもう伝わってる?
そんなはず。折を見てヨシダに説明するふりをしてはぐらかそうと決めていたのに。
「帰り。遅かったね」
泊まったから。
「なんで?」
「泊まれゆわれまして」
「ええなあ。一遍も」
なんとなく。見えてきた?
スゲからあれが伝わってるという前提で。
あれをサダさんに預ける。サダさんだけに任せられないというよりは。ヨシダも参加したい。参加するためには。いまのままの性別では。
飛躍しすぎだ。迷子になって道がわからなくなって追い詰められて泣きたくなってちょっとずつ地面を掘って掘り続けてたら妙なところに出て。妙すぎる。
迎えにいかなければ。
上空から。こっちだよと手を振る。
「どっちでも構へん思いますよ」男だろうが女だろうが。
「せやけど」
当たった?
「やっぱ俺は。俺やのうて、その、な」
「そのまんまやあきませんの? 心の問題やと」
手。そろそろ離してもらえないものか。
握ってたり触ってるのは確かにサダさんだが。その上からヨシダが押さえつけてるからいけないわけでね。
「手っ取り早いところで服、変えてみるとか。振袖にします?」
「振袖?」
「ヨシダさんなら似合うでしょ」
切なそうな顔が嬉々としてきた。
紅い頬にどきどきする。
「一緒に見たってくれる?」
「ええよ。そらもう。せやけどね。そん前に」
両手。なんとか。
「一発出させて」
手。ヨシダがぱっと離す。
「すまん」
「お支度しててな。終わったらすぐ」
立ち去ってほしい。早く。
なんで観てる。ヨシダ。
「あのですね、まっことやりにくいんですけれど」
「サダが、厭やなかったら」
「さっき厭やゆうてませんでした?」
「サダなら」これは。
愛の告白?
「本気にしますよ。ちょーしええことで有名やさかいに」
いまのでヨシダも催しただけか。もしくは。
あんまり考えたくないが。イジンさんといちゃいちゃしてきたのがバレたか。
ヨシダはイジンさんといちゃいちゃしたくて。眼の前に、そのイジンさんといちゃいちゃしてきた都合のいい、しかもヨシダに惚れてるサダさんがいれば。
利用しない手は。
ハリガタの共有程度の存在ですかサダさんは。涙も出ない。
「舐めてええ?」
「どーぞ」
イジンさんは舐めてないけど。せっかくヨシダがやってくれるんなら。さぞ上手になったんだろうとか期待してたら。
やっぱり。むしろこの拙さが受けるのかもしれない。現にめろめろな阿呆がここにいるわけだし。
あーあー。飲まなくても。まずいぞ。
それにしてもサダさん。
早いですね。
「すまんね。ヨシダさん。ちょおそこ立って」
駄目だ。なしでするな。
わかってる。わかってないだろ。
「そいえばヨシダさん。ふたーつ挿ります?」
「やったことあらへんけど」
「まあええわ。俺の一本しかないしな」
ヨシダの細腰を持ち上げる。メンテでないのは。
やったことあっただろうか。どうでもいいか。せっかくヨシダがここにいるのに。
いいか。これはメンテじゃない。メンテじゃないんだ。
メンテじゃないなら。
なんだ?
愛の告白まがいがあったのでだいぶ頭がおめでたいことになっているが。
メンテのときはメンテのことしか考えてないが、これがメンテじゃないとなると。なにを考えていいのかわからなくなってくる。
ヨシダのこと。それじゃメンテと同じ。
こんなに。ヨシダが可愛かったなんて。引く手数多も頷ける。手放したくない。別れを告げたその口で次の約束を取り付けたくなる。
キナイの心配は。本当にヤバイかもしれない。これだけの戦力を失って。やっていけるのだろうか。代わり?
考えられない。ヨシダ以外は。
「カグヤ、てゆうて」呼べという。
サダさんにとってはヨシダなのに。ヨシダが可愛い顔でそんなこと言ったら。
呼ばないわけには。
「カグヤ」
ああ可愛い。振袖のヨシダを想像して鼻血が出そうになる。
でもそんなヨシダに一番似合うのは。着物を肌蹴た格好だったりする。そう。ちょうどいまみたいな。
結局お疲れで。振袖を見に行くのは明日になった。
サダさんのせいじゃない。と思う。たぶん。
2
メンテはキナイに任せて引越し準備を。と思い立ったとこに。
銃声。
はいつものことなので無視するとして。
嬌声。
はキナイのメンテなので無視するとしても。
罵声。
「取立てやろか」
むしろこっちか。黒尽くめが不穏な顔で指をさす。
えっと。なんてゆったかな。
サダさん。それはこっちの名前。
「メンテやめたって」商売道具が突っ立っている。
「ホンマ」
視界の隅っこにスゲが。
またお前か。いちいち災いと厄を運んできやがって。
「なんでですか」青年は食い下がる。
「命令には逆らえへんよ」
「命令って」
「関係ないな。はよう戻り」
スゲを睨む。
効果なし。
「俺は」
「サダさんが好き? ほお、そらうれしいなあ。せやけどそうやって引退お別れメンテ係に想いの丈ぶつけてくるん、お前で六人目やで」
もっといたかもしれない。数えてない。面倒で。
「好きなんです。俺は」
肩。摑まれても。
「好きやったらどんどん稼いでね。ナンバワンになるんやろ」
「なれたら苦労しません」
「なる努力もせんで、苦労? なんやの。ちゃんちゃら可笑しいわ。お話にならへん」
「駄目なんです。知ってるんです俺。俺たちがどんなに頑張ったって敵わない。すっごいのがいるってことくらい」
「どこで聞いた?」てゆうか誰に。
「ここにいるんですよね? 誰ですか。顔を」
そうゆうありもしないデマを垂れ流してるのは。誰だ。スゲか。
サダさんも飛び道具身に付けようかな。吹き矢とか。
「見てどないするん? 諦める?」
「サダさんのお気に入りなんですよね?」
「まあせやね。ナンバワンやし」
「ナンバワンだからお気に入りなんですよね?」
「答える必要あるか?」
銃声も嬌声も已んだ。
ヨシダは来ないでほしい。キナイが顔を見せてくれれば。
「帰りぃ」後ろ。
腰に纏わり付く。商売道具。
「離しぃや。いまんなら怒らへんさかいに」
「お願いです。たまにでいいんです。俺のメンテ」
「やかましなあ。鬱陶し。怒るえ?」
離れない。蹴ると喜びそうだから、はて。
どうしたものか。
殺すか。
「見せもんやないで」
メンテの終わった少年が空っぽのツラで突っ立っていたのを。追い払う。
そいつの顔が記憶にない。名前もよぎらない。新入りか。
欠伸をしながらキナイが顔を。やっと来た。
「ええとこに。これ」どうにかせえや。
「あんたがいいみたいなんだけど」
「ええのええの。駄々っ子はきつーくゆうて聞かせんとな」
キナイが引っ張ってもびくともしない。スゲなんかいつの間にやらいない。
銃声復活。
師匠ヅラしやがって。
ヨシダの足止めになるから、まあ今回は。
「あんなあ、メンテ係はこっちの」キナイに押し付けた。
「檀那さま」
知らない声音。高い。
ゆったりテンポで誰なのかはわかったが。ヨシダ。その、
手に持ってるものは。こちらに向けてるものは。
銃口。
「ゆうこときかへんとぶち抜きますえ? 中身入ってはりますやろか」
檀那さま。て、それは。
サダさんの。
名字の一部。
「ええやろ。ウチの檀那さまやさかいに」
「それは、まあ」
悪くはない。とか流されては。
「ないわ。ないない。ヨシダさん」
「カグヤて呼んでな。もしくは」
奥さま。
てゆうか、それも。
サダさんの名字の一部で。
「おんなじ名字になりたいわ」無自覚だろう。こんな、
キナイもいる前で。
使い捨ての商売道具を腰にくっつけたままで。
「あとでもっかいゆうてくれません?」脳に書き込むから。「仕切りなおしゆうことで」
「誰ですか」キナイがマジ顔で言う。
誰だろう。サダさんにも目下よくわからない。
「あんたが知る必要はあらしません。さいなら」
銃声。
銃声。
銃声。なにも。
本当に撃たなくても。
「邪魔くさかったんやもん」可愛ければ許されるとかそうゆう。ことは。
ヨシダに限っては。ある。ので厭なのだが。
「いてる?」消されてる気配に尋ねる。
「終わったか」何を隠そうスゲでしかないのだが。
「終わったもなんも。片付けといて」
「サダがやればいい」
「持ってきたの誰や。ゴミは持って帰る。遠足んときの鉄の掟やろ」
サダさんは返り血を浴びて血まみれ。手も顔も。床もべったり。
二丁は持たせすぎでしょう。イジンさん。
服を替えなければ。
シャツを脱いだところで、
ヨシダがきゃあ、とか言って立ち去る。何ごっこですか。
「びっくらこいたやろ」
キナイを我に返させる。
眼に生気が戻る。ようやく。
「へーき?」
「誰。さっきの」キナイが言う。
「俺に訊かんといて」
冗談が言えるので案外。
「見たの初めてか」眼の前で、
人が殺される。
「フツーに生きてたら見ない」
「もうフツーやありませんのよ。両脚、胸までずっぽり。息も絶え絶えなりますわ」
「お前は」人。
殺したこと。
「どやったかな。憶えてへんわ」
大量にいてて。
「シュウは」
「俺が殺ったようなもんやな」
「シュウじゃないってことか」残されたあの肉体は。
「名前、違うてますのを違う人てゆわはるんならね」
さすがに全裸になるのは気が引けたので、残りは脱衣場で。
まずい。
口にも血が。まずくて仕方ない。
ヨシダが目指しているものがわかった気がして。
そんなことしなくても。ヨシダはヨシダのままで。
いいのに。
振袖が相当気に入ったようで、身体改造云々については何も言わなくなったが。どうでもよくなったから言わないのだろうか。出来るならそちらも。と考えていないだろうか。
確かめる。どうやって。
訊けばいい。なんて。
集団自殺の報告。シャワー浴びてるときくらいゆっくりさせてくれ。
名前を聞かずとも。簡単に想像がつく。サダさんに嫌われたら生きている意味がない。あんな嘘八百なメンテ係でも生存の理由になっていたのか。
莫迦莫迦しい。嫌われたから死ぬ?莫迦だよ。
最初からお前らなんか。
好いてない。どうなろうが知ったこっちゃない。
取立てのついでに拾ってこないと。補充分。所詮はカネ蔓。その程度。
カネだカネ。子育てにはとかくカネが要る。
ヨシダは髪を伸ばし始めた。短いほうが好きだった。言わないが。イジンさんならこう言うだろう。
カグヤはカグヤだ。
3
ヨシダが引退したので一番人気がいなくなった。スライドして順繰り、二位がナンバワンの座に輝くわけだが。二位から八位くらいまでごっそり死んだので。
例のサダさん俺をメンテして事件の余波で。九位だか十位だかのがめざましい出世で。キナイと同じ屋敷に住むことになった。
名前がなかったので与えておいた。クロウ。
キナイも本当はキヌアイと書く。クロウはクラフと書く。まあどうでもいいことだ。呼ぶ分には大差ない。
「引退なんすよね」クロウが言う。引退の主語は、
かつて人気ナンバワンのヨシダではない。
「年齢からゆえばな」どこぞの元メインテナンス係。
「客に愛想尽かされない限りっつーことすか」
「無理に嫌われんでもええよ。ほっかに人気もんが現れれば」
キナイによるメンテを拒んでいるとか。
それについても元メインテナンス係として一言申さなければならないらしい。
「年下に掘られるんがあかんの?」
「なんであいつなんすか」
「俺が選んだったさかいに」
「サダさんに見初められたってことすか」
またこの展開か。なんでお前らは揃いも揃って。
「サダさんもこっからいなくなるんすよね」
「たまーに顔見せるえ」
「一位のままいられたら、そんときにお願いがあるんすけど」
「一位ゆうよりカネ稼げ。最近レベル落ってるえ」
「いくらっすか。具体的に聞いといたほうが頑張れる気がするんで」
「アホやろ。天井決めたらそっから上行かれへん」
「行きます」その言い知れぬ威圧感は春売り向きじゃないのだが。
さっさと諦めてお庭番に仲間入りすればいいのに。面倒な。
席を立ったときに。視線誘導。
スゲでもいたか。
と思ってそちらに視線を遣ったら。口に接触。
「俺があすこ座りますから」
「まーガンバり」つけ上がるなおぼこが。
敵うわけがない。でもこれで憎しみやら怨みやらは全部。
キナイに向く。
ごくろーさん。
当のキナイは、庭で布団を干していた。なんとゆう暢気千万な。
「椅子危ないえ」
「なら押さえろよ」意味を取り違えている。
なんでちょうど椅子に乗ってるんだ。
「湿っぽい」
「やっと晴れたさかいにな」
「そうじゃなくて」
サダさん?どこが。
「さっさと行け。毎日なんだかんだで来てるじゃねえか」
クロウが木陰にいる。覗き見。
していることがわかってキナイに話しかける。
「なんやら様になってきたなぁ、て」檀那様業が。
「どーせからかいに来てんだろ」
「メンテ係のメンテてどないしましょかね」
視線。
そうそう。闘争心を燃やせ。
「あ」と視線誘導。
どっかのおぼこと同じ方法。クロウは上だった。クロウのほうが背が高いから。キナイは背が低いがいまは。
椅子に乗っているから。下。何か落ちていると思わせて。
あれ?引っ掛からない。
「危ねえなあ。押さえてろっつったろ」キナイが飛び降りる。
たかが布団干すくらいで椅子なんか使わないでほしい。
「跡継ぎが生まれたんだって?」
それはまた。
次の話。
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