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人気の無い王城の中庭を私は一人で歩いていた。
中庭は夜でもライトアップされているので、こうして出歩いていても関係者であればおかしくはない。
ただし……それがまだ十二歳のミーシャ姫に適応されるかと聞かれたら……
答えは否だろう。
くっ……。自分で立てた作戦だったが……こんな所に穴があったなんて……!
ま、まあ……たまにはミーシャ姫だって夜に一人で散歩したくなるよね!?(無理矢理)
日本人的な感覚で考えてはいけなかったが……もう遅い!
ともあれ、引っ掛かってくれる事を祈る。
こうして、人間の足で二足歩行するのは、とても久し振りだ。
あまりに久し振りで歩き方を忘れてしまっていたのは余談である。
猫型聖獣から変身が出来るのが分かっていれば、もっと早く――――
……私は果たして、こうして変身していただろうか?
答えは確実にイエス。
しかし……元の姿に戻れない現実を目の当たりにして、おかしくなっていた可能性が高い。
『どうしてなの?……どうして……!』と泣き叫んでいる自分が簡単に想像出来る。
私は決して強い人間ではない。普通の……ごく普通の人間だ。
だからこそ今の状況が信じられない……。
今でこそ万能な力はあるが、どこにでもいる平凡な日本人だった。
と、いう事でルーチェが変身の事を教えてくれたのは、私が今の現実に馴染んできたからこそだと思う。未だに現実逃避したままではきっと有り得なかった。
だからといって嬉しいか?と聞かれても私は否定するだろう。
幾ら平凡であっても自分は自分だ。
だが、私はこの状況を受け入れて楽しむ選択をした。
「ふんふ~ん♪」
思わず鼻歌交じりにスキップまでしてしまったが……これはアウトだ。
ん”ん”っ。
軽く咳払いをしてまた静かに歩き出した。
因みに、ルーカとルーチェは隠れている。
あくまでも私一人がユーリの残留思念の向き合う為だ。
――――作戦開始から三十分。
やっぱりこんな分かり易い方法には引っ掛からなかったか……。
立ち止まり、溜息を吐きながら本を開くと……
「姫様。こんばんは」
不意に後ろから声を掛けられた。
「え……?」
驚きながら振り返ると、一人の侍女が微笑んでいた。
「あなたは……?」
「不敬でしたら申し訳ございません。こんな時間に姫様がお一人だったものですから、ついお声を掛けてしまいましたわ……」
気遣わしげな視線を向けて来る侍女。
……掛かった。
私は内心でほくそ笑んだ。
何故分かったか? その理由は簡単だ。
万能の力を集中させるだけで、この侍女の背後が真っ黒に染まって見えたからだ。
所謂、オーラである。
こんなにも禍々しい黒色を持っているのは、ユーリの残留思念だけだろう。
要警戒は紫色止まりなので、更に色の濃い黒色なんて悪でしかない。
しかも今回は来るのが分かって仕掛けているのだから、見破る事なんて簡単なのだ。それだけの心構えや用意はしてある。
「眠れなくて……散歩をしていたの」
「そうでしたか……。姫様にとってはお庭と一緒の場所でも、こんな時間に……せめてユーリア様と一緒でないと危ないですよ?」
どの口が言うのか……。
私は口元が歪まない様に気を付けることで精一杯だ。
それにしても……ミーシャ姫付きのユーリアさんの事まで知っているとは。
コイツはどこまで王城の中に入り込んでいるのだろうか?
ゾワッと背筋に悪寒が走った。
「ごめんなさい。この本を読んでいたら眠れなくなってしまったの……」
「……そ……れは?」
私が本を掲げると、侍女がうっすら笑みを顔に貼り付けたまま固まった。
「王城の図書館でたまたま見つけたのだけど……四代目の神子様について書かれている本だったわ」
「四代目の神子の……?」
「……ええ。今まで何も情報が残されていなかった神子様にこんな事があったなんて……考えただけでも胸が苦しくなってしまったの」
「…………」
「四代目神子様はとても可哀想な人だったわ……」
「……」
侍女が私を睨み付ける様にスッと瞳を細めながら唇を噛み締めた。
私はそれに気付きながらも更に言葉を重ねた。
――――煽る為に。
「ねえ、あなたは……好きな方の為に身を引こうと思ったのに、結果的に傷付けられて、その上で好きな方に裏切られたらどう思う?」
「……っ」
「私だったら……」
「……黙れ」
「怖い顔をして、どうしたの……?」
「黙れ!黙れ、黙れ、黙れー!!」
侍女は顔を俯かせると、狂った様に頭を左右に振り続けた。
「お前が……言うな」
そうして顔を上げた時。
「神子のお前が言うな……!何も知らない小娘の分際で!苦労も何も知らない貴族のお前なんかに……!!!」
侍女の眉や瞳は釣り上がって血走り、鬼の様な形相をしている。
最早……侍女だった時の顔は留めていない。
これがユーリの残留思念の本当の顔なのだろう。
こんな……こんなになるまで……。
ズキンと胸が痛んだが、私はその痛みに気付かなかった事にする。
これは私が取るべき責任だ。
怒りと絶望で我を失ってこんなモノを後生に残してしまった
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