「ようこそおいで下さいました。第二王女のミーシャ・セピアと申します。寝所の中からで……申し訳ありません。わたくしはこの国の神子でもあります。」


 銀色の髪にヴァイオレット色の綺麗な瞳を持つ、儚げな美少女が微笑みながら頭を下げる。

 兄であるジルが太陽なら、妹のミーシャ姫は月だろうか?

 静かにそこにるミーシャ姫は、月の妖精のように美しくも儚げである。


「ミーシャ!寝ていないと駄目だろう?」

 ジルは私をそっとミーシャ姫のベッドに下ろし、妹を寝かせようとする。

「大丈夫です。大切なお方を……私が横になったままお迎えする訳にはいきません。」

 心配そうな眼差しを向けるジルフォードに、ミーシャ姫は強い瞳を返しながら首を横に振った。


 ……まだ幼いのに強い子だ。

 王女として、神子としての誇りを大切にしている。


「初めまして、ミーシャ様。私は気にしませんから横になって下さい」

「いえ、そんな失礼なことは……」

「お願い。……ね?横になったままでも話はできるのだから、ミーシャ様の楽な状態でお話をたくさん聞かせて下さい」

 ニコリと笑うと、ミーシャ姫は何故か頬を赤らめた。


「…分かりました。」

 赤くなった頬に自らの手を添えたミーシャ姫は、ジルの手を借りながらベットに横になってくれた。


 ……良かった。

 今にも倒れてしまいそうなほどに青白い顔しているから、気が気じゃなかった。

 やっぱり体調が悪いんだ……。

 ジルはミーシャ姫が今年保つかどうかと言っていた。

 その意味を私は実感していた。


「ミーガルド様……いえ、唯様。申し訳ありませんが、側へ来て頂けますか?」


『唯様』とミーシャ姫は言った。


 私は自分の名前をまだ誰にも教えてはいない。

 ゴクリと唾を飲み込みながら、ミーシャ姫の枕元に移動する。


「どうして……私の名を?」

 眉間にシワを寄せた私が首を傾げると、ミーシャ姫は静かに微笑んだ。

「神が教えてくれました。異世界の女性をこの世界に召喚したよ、と」


 ……おい、神。

 そこからどうして私は【聖】になったのだ!!


 何となく上の方を睨み付けていると、ミーシャ姫が小さな眉を寄せ申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「神が……唯様へ謝罪をして欲しいとおっしゃっていました。『こちらの手違いにより、この世界の概念となって存在をしていた聖獣と、君の心と身体が繋がって混じり合い【聖獣】となってしまった。すまない』と……」

「……別に、悪いのはミーシャ様ではありませんから、そんな顔はしないで下さい。」

 私は大きく首を横に振った。


 責めるべきは私をココに喚んだ神である。ミーシャ姫ではない。

 彼女は神の意志を伝える為の存在である。

 そう。悪いのはなのだ。


「後は……『お詫びと言ったらなんだけど、【癒し】や【万能】の力とか、他にもたくさんの能力をあげるから許してね?あ、もうこの世界の【聖獣】になったんだから、二度と元の世界には帰れないと思っていてね。テヘペロ。』と……」


 テヘペロ!?

 ……軽いな神!!


 ていうか……謝罪の意志が全く感じられない。

『元の世界に帰れない』とか簡単に言われたし……。

 何だそれ。勝手に召喚したくせに……!!

 能力をあげるから許せ?……許せる訳がないよね!?

 絶対に一発は殴らないと気が済まない。

 気が済むまでしばき倒したい!!!!!


「ミーガルド様!?」

「ゆ、……唯様!!」


 怒りで一瞬、我を忘れた私はジルとミーシャ姫二人の慌てた声で我に返った。

「え……っ?」


 ……あれあれー?

 二人が小さくなったような気がするー?

 しかも、さっきは遠かったはずの天井が近い……?

 いつの間に私はこんなに大きくなったんだろう……?


 って、ちがーう!!

 私……飛んでるんだ。

 ……え?嘘……!どうやって……!?


 パタパタパタパタ。

 羽ばたく様な音が背後から聞こる。

 そちらを振り返れば……そこには……。


 羽が生えていました。

 首の後ろの辺りに小さな羽があり、それがパタパタと一生懸命に動いているのだ。


 ……うん。(察し)

 この時、私は漸く自分がただの猫ではないことに気付いたのだった。完。



 ……にはならないな。

 どうしたら降りられるんだろう?

 今までの人生で、飛んだことがないから分からない。当たり前だけどね。


 ああ……。あれもそれもこれも全部神のせいだ……。

 遠くを見つめながら、神への罵倒を始めようとした時。


「ミーガルド様、失礼します。」

 ジルが軽く跳躍して、私を捕まえてくれた。

 流石、王子様だ!スマートに格好良いことをしてくれる。

 そのまま私をミーシャ姫の寝ているベットの上に下ろしてくれた。


「ジル、ありがとう!」

 ニコッと笑いながらお礼を言うと、ジルは真っ赤な顔を隠すように片手で頬を押さえた。


 ど、どうしたの?急に。

 ……ああ!ジルはきっと猫好きなのだ。

 自分で言うのもなんだけど、今の私の姿はとても愛らしいのだ。

 猫好きなら我慢できずに、モフモフしちゃうね!

 ふふっ。後でお礼にモフモフと肉球をプニプニさせてあげよう。


 さて……と。

 飛ぶだなんて予想外のことがあったから、少し頭が冷えた。

 あのふざけた神は、【癒し】と【万能】。その他にもたくさんの能力をくれたと言っていた。

 これは、俗にいうというものだろうか?

 私は聖獣らしいし、公に能力を隠す必要もないからその点は問題はないだろう。

 一番の問題は、私がそれを使いこなせるかどうかなのだ。

 せっかくの役立つ能力なら、宝の持ち腐れにはしたくない……。


 ふと思い立った私は、ベットに横になっているミーシャ姫を見た。

 心配そうにこちらを見ていたミーシャ姫と目が合ったので、安心させる為にニコリと笑う。


 彼女の身体を蝕むもの……。

 それは体内に溜まった穢れを溜め込んでしまう

 それをどうにかできれば……。


 私は自らの瞳に意識を集中させながら、ミーシャ姫の頭の方から順番にを探し始めた。

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