赤ずきんさま(3)
それは、悠然と寝室に足を踏み入れました。
白く、余りを長く伸ばしたハチマキのような眼帯。
白と黒を基調にした学校指定のジャージ。
その手には一本の木刀。
――猟師です。
パッと見、刃のような鋭さをまとった中性的な女子高生――にしか見えませんが、それは猟師でした。
赤ずきんの護衛として同行していた猟師が、遅れて現着したのです。
なぜ遅れたのか、それは単に赤ずきんがセグウェイで移動していたのに対して猟師は徒歩だったからです。
猟師は自然保護官の中でも害獣駆除に特化した専門家で、平たく言ってしまえばバリバリの武闘派です。
その戦闘力たるや、猟銃や罠などを用いず木刀一本で二メートル級のヒグマをもしばき倒すほど。もはや剣鬼でした。
オオカミの戦力を五とするなら、猟師は五三万です。
「………………」
眼帯が巻かれていない、残された左眼でオオカミをにらむ猟師。
それだけで真剣を突き刺すかのような迫力がありました。
「――ぜったいつよい(絶望)」
ぺそ、とオオカミは膝から崩れ落ちました。
「ああこれ確実に詰んだわグッバイ現世」といった、確かな諦観がにじみ出ていました。
「……このふざけた奴がどうしたって?」
「うむ。こいつが御祖母様を食ったそうだ」
遅れてきた猟師に、端的に状況を説明する赤ずきん。
「ふん……じゃあおとなしく首を出せ。一太刀で叩き折ってやる」
――人に仇なす獣死すべし。事態を理解した猟師は、
木刀で首の骨を折る――冷静に聞けば無茶が過ぎますが、猟師はそれをやってのけてしまう技量を持っていました。
命数もここで尽きると悟らざるを得なかったか、死を目前にしたオオカミは体の震えと涙が止まりませんでした。
そこに――
「おねぇちゃん……!?」
――もう一匹、オオカミが現れました。
小柄で、野性を感じさせない穏やかな光をたたえた瞳。
一挙手一投足からにじみ出る大人しさとかわいさはオオカミというより小型犬のそれ。
赤ずきんに勝るとも劣らない、かわいいいきもの。
寝室ではなく私室に隠れていた、妹オオカミです。
隣室からでも姉オオカミに向けられた強烈な殺意を感じ取ったか、不安に駆られてたまらず出てきてしまいました。
そのまま隠れ続けることもできたのに、そこで姉オオカミを見捨てることができないのが妹オオカミの優しさでした。
「ユアナ!? 来ちゃダメ! お姉ちゃんもろとも殺されちゃう……!」
「ひとりになるくらいなら、おねぇちゃんといっしょがいい……!」
涙ながらにそう答えた妹オオカミは、どこまでも姉思いでした。
「あーーーもーーーユアナすき!! お、お姉ちゃんは仕方ないとしてもどうかユアナだけは見逃してくだされ! 責はお姉ちゃんにあるゆえ!」
妹オオカミを抱きしめながら、涙でくしゃくしゃになった顔のまま懇願する姉オオカミ。
妹オオカミも涙目だけで赤ずきんと猟師に訴えました。
――さすがに猟師も人の子なので、殺りづらくなってしまいました。
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