神様は人を殺さない

南多 鏡

エピローグ

世界裁定

 この世界は、優しさに満ち溢れています。

 この世界は……この世界――は、優しさに満ち溢れているのです。

 創造と破壊を司る大神、が、見守っているのだから。

 昔、この世界には激しい争いがありました。今はもう存在しない、書物でしか語られない兵器により、世界は焼き尽くされました。終わらぬ争いに、人々の心は徐々に腐り果てていきました。だからこそ、この世界に声が響いたのでしょう。


――争いをやめなさい、人の子らよ。もう、いいのです。誰かを傷付け、奪い合わなくてもいいのですよ。


 最初に響いたのは女性らしき声。


――貴様ら人間は、争いすぎた。


 続いて響くは男性らしき声。


 誰もが悟ったのです。これは神様の声なのだと。

 そして、皆空を見て涙を流しました。

 ある人は、ようやく戦いが終わるのだと喜びながら。

 ある人は、あまりにも神々しいその声に。

 人々は、争いに疲れていたのです。


――今日この時より、我々が裁きを下しましょう。貴方達は価値観を共有できないのですから。

――貴様らに善悪の判断は早すぎた。裁きを下すには、幼過ぎる。

――だからもう、良いのです。

――生きるだけで良い。貴様らはもう、考えなくて良い。

――貴方達の行いの判断は……善悪の裁きは我々が下します。

――罪には罰を。

――償いには赦しを。

――全て我々に、委ねなさい。


 争いに疲れていた人々は、その言葉を受け入れました。

 もう、人々は何も考えたくなかったのです。

 神という絶対的な存在に傅き、物事の善悪を決めず、生きることにしたのです。

 それがどういうことかを、どういった世界になるかを、全く考えようともせずに。

 そうして、人々は手を取り合い、これからの平和に希望を抱いたのでした。

 神様が裁きを下す、完璧な善悪しか存在しない世界というものに。

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