明智光秀
大河内城の大手門突破から3日、三の丸門前まで進出した池田軍はその場で停止した。
現在は佐々衆のための陣地を構築中という建前で、恒興が停止させていた。
恒興の意図を汲んでいる成政はゆっくり陣地を構築しているものの、完成すれば攻勢に出ざるを得ない。
つまり肥田軍の城門突破が早すぎたのである。
恒興は陣地構築前にある人物が来てくれるのを祈っていた。
そして恒興の待っていた人物の到着を加藤政盛から報告される。
「殿、申し上げます。ただいま明智光秀様がお見えになられました」
「待ち人来たる、か。分かった、別の場所で会う。宗珊、人払いを頼むニャ」
恒興は明智光秀を待っていた。
そのために軍を停止させたのである。
そして光秀を本陣ではない別の陣に案内する様に命令を出す。
内密の話もあるので人払いも徹底させて。
「はっ。それで殿、某も同席してよろしいですかな?」
「・・・ニャーの事、信用してニャいの?」
「念のためで御座いますれば」
「ウチの家老に信用して頂けないとか、どんだけだニャー」
宗珊はどうやら以前の恒興の乱心の事を警戒しているらしい。
別に乱心した訳ではないのだが、既にその気は恒興には無い。
彼が織田家臣になった以上、手出しは難しいのである。
恒興が内密の話にしたがっているのも、その辺が関係してくる。
信用してくれない宗珊の事をボヤキながら、恒興は宗珊と共に光秀との会見に臨んだ。
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会見の場所には既に先客が待っていた。
件の明智光秀である。
恒興は向かい合う様に
「お待たせしましたニャー、明智殿。池田勝三郎恒興ですニャ」
「明智十兵衛光秀です。ご高名は予てより聞き及んでおります」
(ようやく会えたか。相変わらず澄ました様な優等生顔だニャ)
整った顔立ちに整った服装、乱れの無く隙の無い立ち居振る舞いに恒興は昔を思い出す。
その昔とは恒興の前世、『本能寺の変』の事だ。
(今のコイツに聞いても無駄ニャんだろうけど、本当に何で裏切った?あの時、信長様はお前の事を欠片も疑っていなかったニャ。総大将を信長様、軍大将を光秀で毛利のところに行く予定だった。だからあの時お前の下に附けられたんだ、信長様の親衛たるニャーと摂津軍は)
当時の恒興は犬山を返還して摂津に移動していた。
謀反を起こした荒木村重の後釜として、摂津池田家を引き継いだ形である。
そもそも池田家は平安末期の武将・源頼政の弟・泰政を祖とする摂津源氏で、恒興の池田家が美濃池田家か摂津池田家かは失伝したので判らなくなっている。
だがどちらであっても元を辿れば源泰政に行き着くので、池田家が摂津源氏なのは間違いない。
そういう事情もあり、『本能寺の変』の前に恒興はこの光秀の指揮下にいたのだ。
信長が自分の親衛である義弟の恒興を光秀の指揮下に附けたのは信頼という他ないのである。
「どうか致しましたか?」
「いえ、何でもありませんニャー」
(・・・っとイカンイカン、顔に出るところだったニャ)
恒興は気持ちを切り替える。
今、そんな事を考えても無意味だからだ。
「それで私にご用事と伺いましたが、何用でしょうか」
「ええ、実は北畠家との和議を取り纏めて頂きたいと思いましてニャ。明智殿にお願いしたいのですニャー」
恒興が光秀を呼んだ理由はただ一つ、この戦いの和議を仲介させるためである。
その依頼に光秀は怪訝な顔をする。
理由がよく解らないからだ。
和議を結ぶだけなら別に誰でもいい。
池田軍から然るべき武将を出して交渉すればいいし、又は寺の僧侶に仲介してもらってもいい。
つまり光秀である必要がないのだ。
なのに何故か恒興はわざわざ光秀を呼んで待っていた、光秀が困惑するのも当然だ。
「何故それを私に?」
「それは明智殿が公方様の取り次ぎ役だからですニャー」
この一言で光秀は理解した、恒興が何を考えているかを。
彼は義昭に将軍としての実績を積ませようとしているのだ。
今の義昭は還俗しただけの元僧侶である。
これが血筋だけを頼りに将軍になりたいと言っても誰も務まるとは思わないだろう。
そこで恒興は織田家と北畠家の和議を仲介させ、先に実績を付ける事で義昭に将軍が務まるとアピールする目的なのだ。
そもそも各国の大名の争乱を仲裁する事こそが、将軍の仕事なのだから。
それが出来るから将軍が務まるという逆説的な手法である。
効果はそれだけには留まらない。
和議を実現させれば当然北畠家も義昭を担ぐ事になる。
義昭を公方として上に置いているからこそ両家の仲裁に入れる建前だからだ。
つまり北畠家は和議を受けた時点で、義昭を次期将軍と認めた事になるのである。
京極家に続き北畠家という名家も取り込む上策と言うべきだろう。
「信長様はそれでよろしいのでしょうか」
「もちろんですニャー、信長様は別に北畠家を滅ぼそうなどとは考えておられません。ただ
恒興はとても白々しい言い訳を光秀に嘯く。
しかしこれが織田家と北畠家が戦争をしている大義名分『長野家の相続争い』なのだ。
なので長野家の相続を認めてくれれば兵を退いてもいい、最初からそういう建前の戦争なのだ。
建前であって恒興は目的を果すまで退く気は無かった。
恒興がこの戦いにおいて目的としていたのは3つ。
・安濃津の確保
・長野家の家督奪取
・北畠家の弱体化
となる。
この大河内城の戦いで全部果たしているので、恒興は和議を結ぶ事を急いでいるのだ。
「そういう事ですニャ」
「成る程」
(・・・確かに道理なのだが、疑問はまだある)
だが光秀にはどうしても理解出来ないところがある。
何故それを光秀に言うのかである。
ハッキリ言うとこの話はもっと上の『細川藤孝』あたりに要請した方が確実なのだ。
それは光秀自身が義昭の家臣として大した地位には居なかった事が起因している。
光秀は義昭にとってさして大切な家臣ではないので、信長の移籍要請にも義昭は快諾しているという経緯がある。
それでも上役の細川藤孝は能力で人を見るので、光秀の事は買ってくれてはいる。
なので光秀が義昭に話を持っていくにしても必ず間に誰かを挟む事になる。
この場合はそのまま上役だった細川藤孝だ。
それも疑問ではあるものの、もう一つ疑問がある。
この織田家と北畠家の和議を務め果たせば、かなりの功績になる。
何故功績を稼げる様な話を初対面の光秀にわざわざ要請してくれるのかという事だ。
光秀が悩む素振りを微かに見せると、恒興は見越した様に言葉を続ける。
「鷺山殿ですよ。ニャーは義姉上から明智殿の事を頼まれているのですニャ」
「!?」
実は信長の正室である帰蝶から恒興に直接要請が出されていたのだ。
従兄弟である明智光秀が功績を稼げる様に協力して欲しいと。
「こればかりは素直に受けて頂きたいですニャー。明智殿はいきなり1万石で取り立てられたのでしょう。さっさと功績を立てて周りからの文句を消さないと居辛いだろうという義姉上のご配慮なのですニャー」
「しかしそれでは」
「この話はニャーと義姉上、あとニャーの母上と小見の方しか知りませんニャー。信長様も知りません。当然でしょう、信長様が新参の明智殿に目を掛けすぎれば家中に不和の種を撒く事になりますから」
この話は恒興が帰蝶から直接受けたものともう一つ、帰蝶の母親である小見の方からも恒興の母親である養徳院を通して密やかに要請が出されているのだ。
斎藤義龍が謀反を起こした後、小見の方は娘婿の信長を頼り尾張に来た。
とは言え見知らぬ土地ではあるので、恒興の母親である養徳院が彼女の世話を焼いていた。
そして二人は仲良くなった訳で、結果として小見の方の依頼まで恒興の所に飛んで来るようになった。
これが恒興が光秀との会見を、人払いまでして誰にも聞かせたくない理由でもあった。
武士の戦に帰蝶や小見の方の干渉があったと風聞されるのは、彼女らの立場を危うくするからだ。
はっきり言うと越権行為に当たる。
宗珊も分かっているはずなので口外はしないだろう。
(どうしてこうもニャーの周りの女性陣はニャーに対して
答えは単純明快で恒興の立場が色んな者にとって都合がいいからなのだ。
まず恒興は信長の義弟で乳兄弟でもあり、物心つく前から一緒に居た気安い存在である事。
このため公私共に意見を通しやすく、また信長も恒興に対しては遠慮なく無茶振りが出来る仲である。
それでいて恒興は織田家一門ではないので、恒興の行動は織田家の総意とはならない。
つまり池田恒興とは主君織田信長にとって実の兄弟以上に近しくありながら、織田家からは距離が取れている別家の当主なのだ。
恒興に何か要請してくる人々はこれを利用しているのである。
今回の件で言うと、帰蝶や小見の方が明智光秀を優遇してもらおうとしても信長では限度というものがある。
信長がまだ功績のない新参の光秀を重視してしまうと、当然古参の織田家臣は面白くない。
そうなると家中に不和が起こり、謀反に繋がることもある。
これで滅亡した大名もいるのだから。
だが恒興が個人的に光秀に手を貸す事は誰も文句が言えないのだ。
前述の通り、恒興は織田一門ではないので光秀の優遇が信長の方針とはならず、あくまで池田家の判断となる。
これを織田家臣が批判しても恒興に「池田家のやり方に何か文句でも?」と返されるだけだ。
そしてこんな相談を女性である帰蝶や小見の方が身内以外に出来る訳がない。
だがこういう場合、恒興は身内に入るという大変便利な立場である。
また母親の養徳院の存在も大きい。
彼女は織田家の女性陣とは大体関係を持っている程に顔が広いので、恒興への色んな依頼を仲介している。(勝手に)
恒興にこなす能力が無いのなら彼女もそんな無茶振りはしないのだろうが、生憎と恒興にはその能力が備わっているため無茶振りされる。
日の本中を探してもこんな立場の人間はそうそういない。
「・・・分かりました。この事は借りと受け止めておきます」
「北畠家老の鳥屋尾満栄を捕らえておりますニャ。好きに使ってください」
「ええ、では早速取り掛からせて貰います」
光秀は立ち上がると一礼して去っていく。
捕らえてある鳥屋尾の所に行くのだろう。
宗珊は外にいる侍に光秀の案内を命じると、恒興に話しかける。
「終わりましたな、伊勢攻略も」
「ああ、やっと帰れるニャー。そして新しい戦いが始まる。・・・それで近江の方はどうニャ」
「金森の者達が順調に。掛かりますかな」
「もう少し時間を掛けてもいいだろうニャ。上洛開始までもうしばらく時間が掛かるし」
恒興の言う通り、まだ上洛開始には一つだけ障害が残っている。
斎藤龍興の稲葉山城である。
障害とは言うものの、最早死に体にされているのではあるが。
なので恒興の視線は既に近江国に注がれていた。
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恒興達の陣にほど近い寺に光秀は案内されて来た。
この寺に北畠家老の鳥屋尾満栄が幽閉されているからである。
寺の周りは池田家の兵士で囲まれているが、寺の内部には兵がいなかった。
それは寺内不干渉の不文律が昔からあり、中に見張りを入れる事は基本出来ないのである。
また、囲んでいるとは言っても人数が少なく、とても万全とは言えない。
では鳥屋尾は逃げられるのではと思うが、寺の名誉にかけて逃がす訳にはいかないのだ。
また鳥屋尾も自分が逃げれば寺がその責任を負わされ最悪焼かれるので逃げられない。
それでもと逃げればこの寺は焼かれないために反北畠となり、その波紋は大きな影響を及ぼすだろう。
だから恒興は自分達で見張ればいいものをわざわざ寺に預けたのだ。
逃がさなければ良し、逃げたなら周辺の寺衆を取り込む策として。
おそらく鳥屋尾も恒興の策略に気付いている、だから主君の元に駆け出したい衝動を必死に抑えている。
座って静かに本を読む鳥屋尾満栄を見て、光秀はそんな風に感じた。
「鳥屋尾殿ですね?」
「どなたか?」
「失礼、私は明智十兵衛光秀。現公方・足利義昭様の使者で御座います」
「
『
故に『公』は国家そのものを表す言葉にもなる。
公方の呼び名は古代からあるが、それが征夷大将軍を表す様になったのは鎌倉時代である。
鎌倉6代目将軍・
つまり公方号とは元々皇族将軍を表す呼び名であった。
そこから室町将軍に公方号が許され、関東を治めるためにも鎌倉公方が誕生したのである。
「公方号とは征夷大将軍位にある者の呼び名ではありませんよ。足利家に連なっているだけでも名乗る事は可能です。でなければ古河公方だの堀越公方だの小弓公方だのがいる訳がありません」
この公方号を名乗る者達は全て鎌倉公方の成れの果てである。
正式には伊豆の堀越公方が鎌倉公方なのだが関東に入ることなく、北条家初代早雲(伊勢宗瑞)により消滅させられる。
元鎌倉公方家であった古河公方は幕府と敵対したため自称となる、現在は北条家3代目氏康により傀儡にされている。
そしてその古河公方家の分家である小弓公方は完全に自称、『第一次国府台合戦』において北条家2代目氏綱により消滅させられる。
「ふん、確かにな。それでその明智殿が囚われの私に何の用だ」
「貴殿を解放します。私と共にこの戦いの和議を仲介して頂きたい」
「和議、と言われてもな。戦況がどうなっているのかすら判らんのだが」
「大河内城は既に大手門が陥落しました」
「馬鹿な、早すぎる!」
満栄は驚く、自分がこの寺に幽閉されてから、未だに一週間も経ってはいない。
なのにもう大河内城の大手門が落ちたという。
あの幕府の大軍に攻め寄せられても落なかった大手門が。
「ご自身の目で確かめれば良いかと。どうせそこを通って北畠本陣に行くのですから」
「ううむ・・・」
(大河内城の大手門がこんなに早く落ちるとは。何処ぞの痴れ者が織田に怖じて門を開けたか?いや、それ以前に何故いきなり大河内城なのだ?木造城は、田丸城はどうなったのだ?)
満栄は事が露見する前に捕らえられたため、木造具政と田丸直昌の寝返りを知らなかった。
だがそんな予感だけはあった。
織田家による経済封鎖以降、事ある毎に意見が合わなくなっていたのだ。
最初は財政逼迫で焦っているのだと思っていたが、織田家の内応を受けていたとしたら全てに合点がいく。
(やはり彼等は寝返っていたのか。でなければ早過ぎる大河内城攻めに説明がつかん。・・・いずれにしてもこれは北畠家存亡の危機、目の前に居る男を利用してでも主家存続を図らねば)
木造具政と田丸直昌が寝返ったのだとすれば、これだけで北畠家の領地は半減している。
いや、多気は山国で石高が低いので三分の二を失っただろう。
そして最終防衛拠点である大河内城は早くも大手門が落ちた。
満栄が主家存亡の危機と考えるのも無理はない。
(だが都合が良過ぎる。私が拒否出来ない様に整え過ぎている。まるで最初から計画されていたように)
ふと、満栄は気付く。
これはおかしいくらいに理路整然とし過ぎているのである。
和議を仲介する義昭は織田家の庇護下にいるので、この和議は織田家の意志と見るべきだ。
ここまで快進撃している織田家が急に引き返す理由が解らず満栄は考え込む。
「疑っておいでですか?」
「当然だろう」
「まあ、和議に関わる貴殿には直ぐに分かることなので説明いたします。貴殿の言う通り公方様は将軍職に就いてはおりませんが、就く御意志はお持ちです。されども三好の逆賊共は己の罪を隠したいあまり、自分達に都合の良い将軍を擁立しようとしています。ですので公方様が将軍位にお就きになるためには・・・」
「京の都を抑える、諸大名の支持を取り付ける、だろうな。随分と一方的な見方だが」
満栄の言う通り、義昭が将軍職に就くには必ず京の都を抑える必要がある。
というよりは朝廷そのものを抑えなければならない、征夷大将軍位は天皇から発給されるものだからだ。
そして京の都周辺を磐石に出来るくらいの支持者も必要となる。
身も蓋も無い話だが、朝廷や公家は自分達の生活と安全を守ってくれる存在を欲しているのだ。
それでいて自分達を安売りしないので、少し面倒な所はある。
これが信長が義昭を担がなければ上洛出来ない理由でもある。
信長単独で上洛したとしても大して相手にされない、いくら献金しても場当たり的な低い官位を貰うのが精々である。
これはもう生まれた家で決まる差別と言っていい。
だから義昭を担ぎ樹立した政権で存在感を増す必要があるのだ。
でなければ木曽義仲の様に簡単に捨てられるだろう。
「その通りですが構わないでしょう。貴殿もそう主張する事になります」
(そういう事か。この和議を受け入れれば北畠家は義昭を担ぐ事になる。ならば義昭には本物の公方になってもらわねば名家北畠家の立つ瀬も無くなる。という事は北畠家も織田家の武力上洛に付き合わされる事になるのか。そうか、だから織田家の奴らは兵を退きたがって義昭を出してきたのか。北畠織田両方の戦力を温存し、その上で自分達の欲しい物だけをかっ攫っていくつもりなのだ)
満栄は織田家の、恒興の意図に気付く。
始まりから終わりまで全て計画済みであったのだと。
だがそれだけに逃げ道すら無い事も気付いてしまう。
(ダメだ、完全に敗けた。拒否が出来ん。拒否した場合は逆賊認定が待っている。織田が大義名分を得るには十分だ、多気を焼き尽くす大義名分には)
足利義昭はこの時還俗しただけの元僧侶程度ではあるものの、立派な次期将軍候補として名乗りを挙げている。
既に名家京極家を従え織田家と同盟関係の松平家と一応朝倉家、そして傘下の神戸家、関家、長野家、木造家、田丸家など多数の大名の支持を取り付けている。
・・・殆ど織田家ではあるが。
つまり次期将軍候補と世間に目されるくらいまで名を高めてきているので、その逆賊認定は有効になるのである。
となれば信長が殲滅戦をやっても非難は少なくなる。
それがイヤなら実力で反抗するのみとなるが、現状で最終防衛線の大河内城が落城しかかっている。
そして義昭が信長に命令を下せば北畠家の4倍強の織田軍が襲い掛かる、いや更に増員してくるだろう。
義昭は上洛を優先させたいだろうが、北畠家が和議を拒否した場合は必ず潰す命令を出す。
何故ならこれ以上ない程、義昭の面子を潰す行為だからだ。
(かくなる上は御屋形様の元に戻り、北畠存続のため全力を尽くすしかない)
満栄は覚悟を決めた。
主君の元に戻り説得する、そしてなるべく譲歩を引き出して和議を結ぶ。
しばらくは雌伏の時となるだろうが、いつか日の目を見るために主家を存続させる。
そう思い満栄は明智光秀と共に大河内城の北畠本陣へ向かった。
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北畠本陣に行った光秀は北畠具教を説得した。
元より和議を待っていたのは具教も同じであり、更に家老の鳥屋尾満栄の説得もあり話し合いはスムーズに進んだ。
これで和議交渉が始まる事になる。
和議成立まではまだ条件の調整が残っており、もう少し時間が掛かる。
その事を光秀は軍団長である恒興と滝川一益に報告に戻っていた。
「北畠具教は和議を承諾しました。条件詰めはこれから公方様と信長様の意見を交えて交渉することになります。とりあえず和議成立という事で北畠側は大河内城を一旦織田家に渡します。後に返還されますが」
「最終防衛線の城を手放すとは。よく飲んだもんだ、具教も」
「それだけ和議に本気という訳ですニャー」
北畠具教は和議締結の証として大河内城を明け渡すとした。
和議締結の証なのであって、和議締結後は返還される事になる。
具教としては現状で大河内城は落城し掛かっているので、さして惜しくないのだろう。
それよりは和議を受け入れる姿勢を内外に示す方が重要なのだ。
どうせ後で返ってくる、もし返さなかったら織田家が猛烈に非難される上に義昭の面目潰しになる。
「こちらからは池田殿の中濃軍団を撤退させる約束となっています」
「了解致しましたニャ。では滝川殿、後をよろしくですニャー」
「おう、気を付けてな」
(やっと、やっと終わった。少しゆっくりしたいニャー、津島の茶会にでも出席するかニャ)
光秀から説明を受ける一益に別れを告げて、恒興は部隊の撤収準備に掛かる。
出陣してからまだ一ヶ月程だが、長い間戦をしていた様に恒興は感じていた。
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