1-2(ディティクティブオフィス)

「あんたのせいでしょ!何言い出したかと思えば、私を巻き込んで!ちゃんと責任とりなさいよ!」

「その発想に至ったのはあんただろうが!何が責任とれだ!とれるもんならとってさっさと現実に戻りたいですねぇぇぇえ!」

「そんなの知らないわよ!そんな戻りたいって言うなら方法ぐらい自分で探しなさいよ!」

「ないから言ってるんだろうが!」

「…お母さんあそこに変な人いるよ…」

「ダメよ。無視しなさい」

「「あっ」」

そりゃ街中で罵声大会してれば変な人だと思われて当然だわな。あやはともかく、人の目につきやすい俺が1番辛い状況下にいる。

「…さっきも言った気がしなくもないけど、とりあえずお前のことはあとで物理的に処理するからな。覚えとけ」

「やれるもんならやってみなさいよ。その時までよぉーく覚えておくわ」

こいつの何が妬ましいって、そもそも物体としては存在していないので手の出しようがないということ。それをいい事に、容赦なく悪口を叩く。できる事なら本当に顔面からぶち抜いてやりたい。…まぁこんなところでわんさか言ってても先に進まないか…

「とりあえず、メインフロント的なところに行こう。おそらくそこにいけば必要最低限のことはできるだろ。そこでとりあえず一夜を過ごせそうなアルバイトを探す。おそらく異世界のバランス的にその辺の店にでも駈け込めば1日くらい雇わせてくれんだろ。んでもって明日、町の様子でもみつつ、本職を決めるか」

「あら随分詳しいわねって言おうと思ったけど、花火が1発打ち上がるくらいのラノベ本を目にしてしまった私は口が動かないのも当然ね。まぁあんまり期待してないけど、頼りにしてるわねー」

「それ遠回しに人任せにしようとしてるよな。この場にいないとは言え、やれることは徹底的にやっていただくんで」

「私はあなたの過去がどんなものかみに来ただけですぅ。ほら、こんなことをしてる合間にも今が過去になっていってるわよ。さぁ動いた動いた」

今更ながらだが、本当に俺と性格そっくりだな。この、とりあえず行動力だけは高い系女子なところが瓜二つだ。かといって性格以外は俺のお望み通りのものだから下手に怒れない。まぁプラマイゼロってことろだな…


しばらく歩いた後、メインフロントなるものについた。来てばっかりは街の外観などがよく見れてなかったが、本当に異世界を彷彿ほうふつとさせるものばっかりだ。電気、電柱などはもちろん無く、道の石畳や歩く人々の格好なども見てわかるよな変わった素材のものが多い。特に1番感動したのは、街を歩く人々の髪の色が皆異なることだ。一部のラノベを読んでいると、こんなの現実逃避にもほどがあるだろレベルの髪を持つ主人公が現れる。それに対し、異世界であれば暗黙の設定なるものが全てにおいて適応されない。この世界が人の手によって作られたと思うと余計に。この先どういう道を歩むかはわからんが、おそらく街歩く異性を見るだけで白飯2杯くらいいけてしまう気がする。もちろんそんなことをしようものなら、見えない何かによって消させる筋合いしかないが。ちなみに今いるこの玄関口のような場所、なぜここに辿り着いたかというと...

「玄関口...どうやらここっぽいわね...」

「あぁ、綺麗に見事な字で玄関口とあるな...」

そう、見たことも聞いたこともない言葉が平然と読めるのである。えっ、俺の学生時代にこんなの習ったっけ。手のひらに指でいろいろなぞってみるが、確かに思った通りの言葉が書ける。おそらくこの世界に来た時に取り込まれたものだろうが、そのせいで脳に負荷がかかったりなんかして頭がおかしくなったりしてないだろうか。

「…それじゃ入るぞ」

「…えぇ」

ギィイイと古めかしい音の後、中の光が差し込んでくる。ドアが開けきり、さぁ一歩を踏み出そうとしたその時。

「いらっしゃいませぇー!…あっ自主でしたら警察署が左角すぐにあるので、そこに」

「いや犯してねぇよ!いきなり何ごとかと思えば辛辣だな!俺のどこに前科の要素があるか20文字以内で説明してもら」

「あのー、今初めてここに来たんですが、フロント的なものはこの辺かしら」

「あぁ、フロントでしたらここを真っ直ぐに行ってすぐになります…ってあれ?」

「…俺のどこに前科の要素があるか20文字以内で」

「唐突にごめんね、ちょっととある事情で私の姿を出せないの」

「おぉ、聞きはしていましたが、実際にフライトバニッシュを取得している人は初めて見ました!あ、申し遅れました、私ドアマンやってますアルトです!」

「…なんで俺が空気みたいな存在になってるんだよ。てかフライトバニッシュってなんだよ。流れ的に俺が前科あったみたいな感じでシーンが終わるパターンになっちゃうんだけ」

「あら、ドアマンさんなのね。いやぁなんかわかんないんだけど隣の奴がうるさくてごめんねぇ。ほら、あなたからも謝りなさいよ」

「…いろいろ突っ込みたいところはあるが、とりあえず1つだけ聞こう。俺、前科あるように見えるか?」

「「 」」

「2人して黙るんじゃねぇ!え、異世界生活開始10分でこのざまとかショックでしかないんだけど!」

彼女はアルト。短髪で、入社1年目の後輩みたいな雰囲気。…確信したわけじゃあないが、おそらくこの世界の人々の名前はひと単語で、苗字などは存在しないのだろう。そして…

「サントル…?」

「えぇ、この街の名前ですよ」

サントル、位置付け的にははじまりの街といったところだろう。街の名前も横文字ということは、基本的に日本の要素があったりはしない感じだろうか。いきなり不慣れな字体をこの場で聞くと、少し寂しい。せめて日本に似た何かがあるといいのだが。

「何ボォーとしてるのよ。さっさと行くわよ」

「お、おう…」

まぁ今考えても仕方ないことか。どっかの誰かさんではないが、ないものは作ればいいし。

「ってか、まるで関わりがあったみたいなみたいな話し合いしてたな」

「…私だってここに来た以上、友達にぐらいは欲しいわよ。というか、こういうのは早めに作っとかないと。言ったでしょ?過去の積み重ねが全部今にあるって。あなたみたいな過去になりたくないからね」

「おおお俺だって友達の1人や2人はいたし!?」

「どうせネトモとかいう奴でしょ?」

「うっ...」

随分と痛いところをついてくるなぁおい。でも俺だってぼっちやりたくてしてるわけじゃない。たまたま、同じ学年に俺と同類がいなかっただけで...

そんなことをぶつぶつ考えていると、ザ・受付とでも言わんばかりの場所に着いた。別にコミュ障な訳ではないが、こう初めてまともに話すとなると、緊張なるものが表に出る。

「すみません、今日初めてここに来たのですが何からすればいいのかわからないので」

「…グゥゥウウウ、スピイイィィイイ…」

「おい」

俺の緊張を返せ。2人連続で融通が効かないとはこれいかに。にしてもフロントの人も女なのかどうやら女は専業主婦、男は働くなどといった文化ではないようだ。

「あのぉ、おねぇさん?勤務時間中ですよね?そんなことをしてると社会的に…」

死にますよ、なんて言おうとした時。

「バシィィィイイ!」

「ふ、ふぁ!?」

何かと思ったらハエ叩きを持った女が。その顔はまたかと言わんばかりの表情。

「…ったく、これで叩くのハエよりクスハの方が多いのだけれど。…ほら、人来てるわよ」

「…熟睡だったのは認めるけど、もう少し優しく叩いてくれないかなぁ…。あ、どのようなご用件でしょうか?」

「えぇっと、今日この街に来たばかりで、何していいかわからないんですが」

「そうでしたか。ようこそお越しくださいました。では手続きをしますので、役職カードをご提示願いませんか?」

「役職カード?」

名前からして職業を証明するカードのようなものか。

「あれ?お持ちでないですか?」

「んっと...まぁちょっと遠い外の国から来たので持ってないです...」

「遠い国...バンクスあたりですか?」

「いやぁその、日本というところなのですが...」

「にっぽん...聞いたことないですね...」

出ました異世界あるあるその壱、日本を知らない。そんなことだろうと思って恐る恐る言ったが、まぁそうなるわな...。

「...わかりました。新規でカードを発行するので、前の役を教えてください」

「役...というか学生をしていました」

「がくせい …さっぱりですね...。そのかくせいとらやらは何をするのですか…?」

「別に何かに覚醒するわけではないですが...。この世界で生きるための必要最低限の知識を、教える専門の人から教わる感じですかね?」

「…それはいわゆるニートということでいいでしょうか?」

いやなんで学生知らないのにニート知ってるんだよ。

「いいと思います」

「よくねぇよってか話がややこしくなるから文は黙っとけ!」

「あれ今どこからか女性の声が…」

「そ、空耳じゃぁないですかね...」

「…まぁどちらにせよこの街にはがくせいという職業がないので、新しく決めましょうか」

「剣士でお願いします」

無論、即答だ。異世界と言ったら剣士だろう。冒険中に女性騎士と出会い、その子が危ない目にあった時に俺が助ける。その子は俺に惚れ、一緒にラスボスを倒した暁には結ばれのキス...とまではいかないかもしれないが、とりあえず俺はかっこいいところみせて惚れたい。やっぱり過去を良くするならこれくらいのイベントはないと…

「えっっと、おそらくというかほぼほぼ確実にレベルが足りませんね」

「そうですかじゃぁ剣士でって今なんて?」

「レ、レベルが足りてませんと …」

「…へ?」

まるで全てが見通されてたかのような出落ち。

「…剣士というか、攻撃系だと魔法職、前衛職、聖剣職があるのですが、1番低い魔法職でもレベル55から、聖剣職になりたいのであればレベル150くらいは欲しいところですね...」

「...ぷっっ、、プゥウッッッッッ!!」

誰かさんの笑い声が俺の心にとどめを刺す。

「あれ?やっぱり女の子の声が…笑ってた?」

「...レベルを150までにする1番手っ取り早い方法ってないっすか…」

「そうですねぇ、地道にレベルを上げて転職をするのが1番かと...。レベル1の職だと、、、建築職、清掃職、商売職...あっ、ちょっとレベルが上がってしまいますが、探偵職が今だと1番レベルが上がりやすいですね!」

「探偵って...。俺にそんな機転を利かせる力があると思います?」

「あるとは言い切れない...というかちっとも…?…あぁあぁああ!わかりました!私が悪かったので、首に手をあてないでください!もちろん、一定の職業になるとそれに応じた能力があるので!」

探偵ねぇ…。小学校の頃の読み聞かせでシャーロックホームズを聞いた時以来、一回もその分野には触れていなかった。そんな俺に探偵…。正直めんどくさいことはしたくない。ただ他に手が無い以上、どう足掻あがくくこともできない。…致し方ないか...。

「…じゃぁ探偵職で...」

「ま、まぁそう気分を落とさずに!承知しました。ただ、探偵はレベル5からなので、仮で何かにつきましょうか」

もはやどうでも良くなってきたので、受付の人に適当に選んでもらうことに。

「…えー、それでは、とりあえず清掃職ということで。おそらく1週間もしないうちに達成すると思うので、そしたらまた来てください」

「…ありがとうございます...」

虚しい役職カードを受け取り、とりあえずその場を後にすることに。

「…ねぇ、潤の人生なんだから好きにすればいいとは思うけど、それでいいの?他の街にでも行ってみるとか、どこかの剣術の人のでも雇ってもらうとか...。できることは

色々あると思うの」

「…もちろんそれも手だが、確実性がないだろう。実際隣の街に俺に合った剣職がないかもしれない。雇われるにしても、変にこき使われたり、なんなら雇ってくれるかどうかもわからない。…なら今進める道に進むべきだと思うんだ」

「…それって、要するにめんどくさいだけでしょ」

「今俺はちょっとだけいい話してたんだ首突っ込むんじゃねぇ!」

「…まぁ悔いのない過去になるといいわね」

人の感情も知らずに偉そうに…。でも一応進めるところまで進むのは、日本での成功例も実感してきたわけだし、そう悪くないとは思う。とにかく俺は絶対聖剣職なるものになって、いいご時世送ってやる。そのためにも…

「清掃職の場所ここじゃない?」

「…よし。ぱっぱとかたずけてやるぜぇ!」

やってやる。いい未来のために!


「おるぁぁぁあああ!なぁぁにぼけぇぇっとしてんだぁ!そこだ!そこ拭いとけ!」

「ここちゃんと拭いたのか!やり直しだやり直し!」

…とりあえず、今後は清掃とかいう失敗職だけには進まないようにしよう…











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る