木曜日(1)

 目覚ましが鳴る前に起きた。寝直す気にもならず、そのまま支度を始める。

 ユミカはもう、夢の中でも僕の前には姿を現さないかもしれない。彼女の意識が夢の世界に引きこもってしまえば、現実世界の肉体はずっと眠ったままでいることになる。そうなると、僕がやらなければならない、あるいは僕にできそうなことといえば、直接ユミカを起こしに行くことしか思いつかなかった。彼女の体に異変が起きているとすれば、その真相を知っているのは僕しかいない。それに、元はといえば、ユミカを夢の世界に招いた僕のせいなのだから。

 でも、ユミカは気が変わって学校に来るかもしれないし、そもそもどこにいるのかも分からない。一度学校に行き情報を得る必要があるだろう。電話で聞いたところで僕なんかに教えてくれるとは思えない。


 学校へは少し早めに到着した。そわそわする気持ちを隠すように、文庫本を読むふりをして時間を潰した。もっとも、僕の様子を怪しむ者など誰もいないだろうが。

 ユミカは姿を現さないまま、担任が入ってきてホームルームが始まった。その中で、ユミカが体調を崩し入院していることが告げられた。病院名は出てこなかったので直接聞くしかなさそうだ。果たして、僕に教えてくれるだろうか。

 ホームルームの後、担任を追って廊下に出ると、すでに何人かの女子生徒が彼を囲み、ユミカの入院先を聞いているところだった。北部市民病院、と担任は言った。父が入院したときにお見舞いに行ったことがあり、その病院の場所なら知っていた。


 こっそり学校を抜け出して、北部市民病院へと向かう。学校をさぼったのは初めてで、後ろめたい気持ちがないわけではなかった。それでも、ユミカを救えるのは自分しかいないのだと自らを奮い立たせ、顔を上げる。

 勘違いでも構わない。好きな女を助けるために、できることをやろう。――そう、僕はユミカが好きなのだ。彼女の意地悪な顔が見たい。彼女の声が聞きたい。彼女と共に生きたい。だから。

 寄りの駅からバスに乗ると、制服姿の僕を気にする人もいたが、注意されたりすることはなかった。もっとも、僕は止められても振り切って行く覚悟だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る