第135話 疑惑

※ 1話飛ばしていました。すいません。



「一緒に? ベルギウス様のところへか?」

「そうだ」


 神妙な面持ちでボロウは告げた。

 

「……その前に、何があったのか詳しく話してくれ」

「もちろんだ」


 ボロウは優志が持ってきた回復水の残りを飲み干し、完全回復を果たしてから経緯の説明を始めた。


「昨夜、おまえに言った通り、俺はベルギウス様のもとを訪れた。……だが、あいにくと不在だったんだ」

「まあ、忙しい方だからね」


 ちょくちょく店に顔を出してはトラブルを持ち込む――というのが優志の抱くベルギウスの印象だが、次期国王とまで言われている人物がそんな暇なわけがなく、実際はかなりキツキツのスケジュールで動いているのだろうというのは察していた。


「それは俺も予想していた。アポなしだったしな。ただ、正規の手続きを踏んで会おうとなったらいつになるか……」

「その言い方だと、ベルギウス様に会うため強硬策に打って出た、とか?」

「……正解だ」


 言いにくそうに、ボロウが肯定する。

 後ろではグレイスが腕を組みながら「またそんな無茶を」と大きくため息を吐いていた。どうやら初犯ではないようだ。


「失礼に値するのは承知だし、罰を受ける覚悟もある。そうでもしなければ、ロブ様の情報を得られないと判断した結果の行動だ」

「で、実際にベルギウス様には会えたのか?」

「残念ながら……しかし、最優先で会うという約束を取り付けることはできた。ベルギウス様は明日の昼過ぎ、城の近くにある魔鉱石を研究している塔で成果の視察をするそうだが、その時に時間を作ってくれるそうだ」


 ボロウの暴走は徒労に終わることなく、それなりの結果をもたらしたようだった。


「……でも、それならどうしてあんな大怪我を?」

「問題はその後だ。俺はベルギウス様に会う約束を取り付け、フォーブの街に待機している他の仲間たちへ報告に向かうつもりだった。――その道中、何者かに襲われた」

「何者かって……敵が誰かわからなかったのか?」


 魔人にこそ後れをとったが、ボロウの実力は相当なものであると優志は感じていた。エルズベリーの右腕という今のポジションが、それを雄弁に物語っている。

 ただ、そんなボロウをもってしても勝てない相手が魔人以外にいるというのか。


「いくら不意をつかれたからといって、ボロウをあそこまでボロボロに追い込むようなヤツがいるとは思えないわ」


 異を唱えたのは同僚であるグレイスだった。

 この場にいる誰よりもボロウの実力を知る彼女だからこそ言えるのだろう。


「帰り道に突然の襲撃……か」

「ここだけの話しにしておいてもらいたいが……正直なところ、俺はベルギウス様を怪しんでいる」


 ボロウの言葉に、優志、グレイス、そして町長が同時に目を丸くした。


「おいおいエルズベリーの。滅多なことを口にするものじゃないぞ」

「そ、そうよ。確かに流れ的に疑いの目が向けられるかもしれないけど……相手はあのベルギウス様よ?」


 町長とグレイスは否定的な言葉を並べる。

 一方、優志はその会話に入り込めないでいた。


 ベルギウスを悪党だとは思わない。


 だが、魔人絡みでのベルギウスには疑わしい――とまではいかないが、やはり少し気になる点はあった。


 人間の言葉を話し、戦闘に協力をするバルザの存在がちらついている。

 バルザが完全に人間側についたとしたなら、魔人の力を手にしたとしてベルギウスの評価はうなぎ登りとなるだろう。そうなれば、次期国王はほぼベルギウスに決まったようなもの――周囲はそう見るに違いない。


 ところが、今回のように、元々人間だった者が魔人に変化するという事例は初めてのことらしく、バルザのようにうまくいくとは限らない。もしかしたら、バルザも記憶を失っているだけで元は普通の人間である可能性もある。


「…………」

「回復屋――おまえは俺と同意見のようだな」


 優志が何も語らないのを見て、ボロウはそう言う。


「……まだなんとも言えないというのが正直なところかな」

「ちょ、ちょっと、あなたまでベルギウス様を疑うの? あなたはこれまで、ベルギウス様と何度も仕事をしているはず。だったら、あの御方がボロウを襲うように誰かをけしかけたなんて思えないでしょう?」

「俺だって、疑うわけじゃないよ。――ただ、完全に潔白であると証明するには判断材料が少ないなって思っただけだ」

「そうは言っても……」


 町長とグレイスは顔を見合わせる。

 どちらもやはり優志とボロウの考えに賛同しかねていた。


「しょうがねぇよ。とりあえず、言ってみないことにはな――来てくれるか?」

「明日か……わかった」


 優志はボロウからの申し出を了承した。


「助かるよ。ありがとう」


 深々と頭を下げたボロウ。

 優志としても、仕事の良きパートナーであるベルギウスをこのままの状態にしておくわけにはいかなった。


 白か黒か。


 明確な答えは出ないかもしれない。

 それでも、何かしらの進展はあるだろう。


 勝負は翌日。

 ボロウたちと別れて店に戻る優志の足取りは重かった。

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