第134話 友の危機
取り乱すグレイスを落ち着かせようと奮闘する優志たちであったが、ボロウ絡みで余程ショックな出来事があったのか、グレイスはまともに声が出せる状況ではなかった。
優志たちが対応に困っていると、
「落ち着け」
静かに、そして渋い声色で告げたのは風呂上がりのアドンだった。
「心を落ち着かせて、何があったか順を追って説明していくんだ。回復屋の旦那ならきっと力になってくれる。もちろん、俺も君の力になるぞ」
まさに大人の男の対応。
自分を殺してくれと懇願していた頃とはまるで雰囲気が異なる。恐らく、バブルの魔鉱石の効果で懸念材料だった体臭が解消されたことで自信が生まれたのだろう。今の立ち姿はダンジョンで凶悪なモンスターと対峙する勇ましい、いつものアドンだ。
「え、ええ、ごめんなさい」
アドンの頼もしい態度に、グレイスは落ち着きを取り戻した。
「……今のはポイント高いよな?」
「……はい。結構いい線いっていると思います」
ヘタレぶりが消え去り、男らしさを前面に押し出した今のアドンならばグレイスを振り向かせることができるかもしれない。
――と、ふたりの関係性を変えるチャンスではあるが、優志としてもグレイスの動揺の原因を知りたいと思った。
なぜなら、ボロウの名前が出たからだ。
昨夜、エルズベリー家当主の安否を気にしており、情報がもたらされないことに憤りを覚えていたボロウ。今日はその件でベルギウスのところへ行っているはずだが。
「ボロウの身に何かあったのか?」
「ああ……大怪我を負っている」
「なっ!」
「あなたの力が必要なの――回復屋さん」
ボロウを助けることについては手を貸す。ただ、問題は、
「どうしてボロウは大怪我を負ったんだ?」
「それは移動しながら話すわ」
「わかった。で、ボロウは今どこに?」
「今、彼は治療を受けるため、フォーブの街の町長の家にいるの」
フォーブの町長の家にいるというボロウ。
とにかく、怪我の治療をするため、優志は業務中であったが、一時離脱して、グレイスが乗って来たという馬に乗り、フォーブの街を目指すことにした。
その道中、優志はグレイスからさらに詳しい情報を聞き出す。
「ボロウはベルギウス様のところへ行くと言っていたけど」
「ええ。御当主様の件でベルギウス様のもとを訪れたはずなんだけど……なぜか傷だらけになって私たちが待機していたフォーブの街へ戻って来たの」
「一体、誰がボロウをそんな目に?」
「それがわからないの。ボロウは気絶してしまって目を覚まさないし……このままずっと起きないなんてことは――」
「あるわけないよ。俺のスキルがある限り、ね」
グレイスを安心させるため、スキルの使用を解禁すると約束する優志。例え頼まれなくてもボロウを助けるためなら喜んで力を貸すつもりだったが。
しばらくすると、町長の家へと到着。
それに気づいた町長が家から飛び出してきて、すぐに優志を招き入れる。すると、全身傷だらけで倒れているボロウの姿があった。
激しい戦闘を物語るように、その体は傷がないところを探す方が難しいと思えるくらいであった。先日、別宅で魔人と戦った時もひどい傷を負っていたが、それと比較しても劣らないほどのダメージだった。
「ボロウ!」
優志はボロウの変わり果てた姿を目の当たりにして動揺し、走り寄る。
そして、すぐさま持参した回復水を与えた。
「ごはっ!」
それまで寝ているようだったボロウに意識が戻った。回復水を与えたことで、体の傷もたちどころに消えていく。
「本当に凄いスキルだな」
感心したように呟く町長。グレイスも、優志の能力に「凄い……」とだけ声を漏らす。
「大丈夫か、ボロウ」
「あ、ああ……面目ねぇ。またおまえに助けられちまったな」
ボロウは優志に助けられたと知ると、照れ臭そうに言った。とりあえず、一命はとりとめたようで一安心だが、優志はそれだけではとても納得ができない。
「一体何があったんだ、ボロウ。ベルギウス様のところへ行ったんだろう?」
ボロウの大怪我の原因に、ベルギウスが絡んでいる可能性があるからだ。
「…………」
優志に詰め寄られたボロウはしばし無言であったが、あきらめたかのように大きく息を吐いてから、
「回復屋……俺と一緒に来てくれ」
優志へそう告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます