第108話 共同作業
「それで、今は何を作っているんですか?」
不穏な街の様子にしかめっ面をしていた優志を気にしてか、リウィルはガラッと話題を変えた。
「あ、ああ、この木を利用してできる簡単な運動があるんだ」
「運動ですか?」
「俺のいた世界じゃ、その運動はこういった公共浴場ではよく見かけるものでね。こいつのいいところは老若男女が楽しめるってとこだ。運動っていうと、どうしても男女で力の差が出やすいんだが、こいつに関してはその心配は無用だな」
「つまり誰でも楽しめる、と?」
「そういうこと」
ちょうど、食堂の一部に空いているスペースがあるので、そこへこいつを設置すれば風呂やサウナの順番待ちにもってこいの娯楽となり得る。
「ただ、作るとなるとひと苦労だな。その運動に使う道具も必要になるし」
「クリフさんへ依頼しないんですか?」
「うーん……」
リウィルの問いに、優志は首を傾げた。
というのも、風呂よりも説明が難しいため、クリフたちに作ってもらうのは余計に手間取ってしまうだろうし、正直なところ、うまく説明できる自信がなかった。
「まあ、たまには俺ひとりで作ってみてもいいかな」
「ユージさん……」
「そんな顔をするなって。こう見えても図画工作の授業は――ああ……いや、物作りは苦手ってわけじゃないんだ」
「…………」
専門職であるクリフへ依頼しないことを不思議に感じているのだと思って答えた優志であったが、どうもリウィルの求める答えではなかったようだ。
「ユージさん」
「な、何?」
「今あなたはひとりでやると言いましたね?」
「あ、ああ」
妙に迫力が込められたリウィルの視線と言葉。
何も後ろめたいことがないはずなのに、優志は追い詰められた気分になる。
リウィルは機嫌を損ねているようだが、優志にはまったく心当たりがなかった。
「はあ……」
ついにはため息まで出る始末。
「あのですね、ユージさん」
「は、はい」
「今、あなたの目の前には誰がいますか?」
「リウィルさんです」
「そうです。私がいます。私がいるじゃないですか!」
胸をドンと叩くリウィルの姿を見て、優志はようやく気がついた。
「もしかして……手伝ってくれるのか?」
「私はもっとユージさんのお役に立ちたいんです」
「今までだって十分に役に立ってくれているさ。君がいなければ、この店はここまで繁盛しなかったろうし」
「そんな……このお店は、ユージさんのスキルがあってこそじゃないですか」
「それだけじゃないよ。俺の回復スキルだけならここまで続かなかったはずさ」
優志はそれを痛感している。
リウィルがいてくれたから優志は頑張れたのだ。
「この世界に来た時……とてもじゃないけど暮らしてはいけないと思っていた」
「そうなんですか? 私としては、どんな事態に遭遇しても、そつなくこなして解決しているように見えましたけど」
「そうかな? 結構いっぱいっぱいだったんだけど」
帰れないものは仕方がないから、なんとかこの世界で生き抜くために必死だった優志。
今になって振り返ってみれば、本当にいろんな出来事があった。
「思えば、瀕死になっているダズさんを救ったのが始まりでしたね」
「あの時は焦ったよ。最初は死んでいるかと思ったし」
笑い合うふたり。
そうだった。
思えば、回復水でダズを救ったことが、この店を始めるきっかけになった。
そして、いろんなことがあった。
事故物件扱いだったここを探索し、美弦と出会った。
仲間を探していたエミリー。
廃村で暮らしていたロザリア。
画家になる夢を叶えるため旅立ったライアン。
この異世界での数々の出会い――そのすべてが、糧になっていると改めて実感する。
「本当に、いろんなことがあったな」
「なんだか急に湿っぽくなっちゃいましたね」
「そうだな。……そんなことを言っていたら、眠くなってきちゃったよ」
「今日はここまでにしましょう。明日からは私も手伝いますから」
「わかった。頼むよ、リウィル」
「お任せください!」
リウィルと共に異世界生活を振り返った優志は自室へと戻ってすぐさまベッドへ。
こんな日がいつまでも続いていけばいいな――そう思いながら、優志は静かに目を閉じるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます