第109話 王都での再会
次の日の朝。
ついつい熱が入り、明け方近くまで作業をしていた優志とリウィル。
ただ、リウィルの手伝いもあって当初の予定よりだいぶ早く完成に近づいた。
その運動で使うアイテムの方も順調な仕上がりだ。
「だいぶ様になってきたな」
「私は現物を知らないので何とも言えませんが……この長方形の台とそのふたつの道具で一体何をするんですか?」
異世界人のリウィルにはそれらの道具で何を行うのか見当もつかないようだったが、
「ああっ!!」
自室から出てきた美弦が叫んだ。
「これもしかして――卓球台ですか!?」
指さすのは優志とリウィルが徹夜で仕上げた台。
そう――これは、
「御名答。ちなみに、ラケットもあるぞ」
「ラバーなんてよく手に入りましたね!」
「特殊処理が必要な魔鉱石を扱う際に使う専用の手袋を見てピンと来たのさ。まあ、実際の卓球ラケットと同等の性能が出るかどうかはやってみなくちゃわからないけどね
「凄い完成度ですね……」
「残りは台の真ん中につけるネット部分だけだ。そこは魔鉱石を持ったモンスター捕獲用の網を加工して作った代物を張る予定だよ」
興奮気味の優志と美弦。
それに疎外感を覚えるリウィルがビシッと手を挙げて、
「あの、ユージさん!」
「どうした?」
「昨夜の話しではもうひとつ披露したいものがあるとのことでしたが!」
実は、優志が新しく導入しようとしていたのは卓球だけではなかった。
それはこの店ができた初期の頃からあった構想で、以前、国王のための風呂を造るために王都へ出向いた際、とある店を訪ねて注文をしていたものだった。
「以前から王都にある店で注文していた物がようやく完成したそうだ」
「ああ……昨日、王都から手紙が届いていたようでしたが、そのお店からの完成報告だったんですね。でも、どうしてまた王都なんですか? ここからならフォーブの街で発注した方が受け取りへ行くのに近いと思うのですが」
「フォーブにはそいつを扱っている店がなくてね。土地柄あまり売れないっていうのがあるのかもしれないけど」
「フォーブにはない店?」
「ないわけじゃないけどジャンルが違うって言ったらいいのかな? まあ、ともかく、そういうわけなんで、俺はこれから王都へ行ってくる。開店前までには戻って来るから」
「わかりました」
卓球台ともうひとつの隠し玉。
それを受け取るため、優志は王都へと発った。
◇◇◇
活気溢れる王都の一角。
喧騒をかき分けて進んだ先――少し入り組んだ路地の中に、その店はあった。
店の前に掲げられた木製の看板には綺麗な服で着飾った女性が描かれている――ここは衣料品店であった。
「いらっしゃ――おおっ! 待っていましたよ!」
店主は眼鏡をかけた二十代半ばの若い男性で、名前はロバーツ。
この店の商品は、すべての彼の手によって作り出されたものだという。
まだオープンして1年と経っていない新参者だが、その高いセンスは口コミで噂となり、最近になって客足が増えつつあるそうだ。
そんな噂を店の常連客から聞きつけた優志は、国王の風呂造りを進めていくかたわらでこちらとも接触をしていた。
理由はただひとつ。
店の客が着るための服を作ってもらうためだ。
その試作品が完成したということで、今日はその出来を確かめに来たのだ。
「こいつが例の試作品です」
「おお!」
手に取った瞬間、優志は自らが提案した内容に沿った服であるとわかった。
現代日本に暮らしていた人間ならば一目でわかるそれは、
「完璧だ。完璧な浴衣だよ!」
温泉地では当たり前のファッション――浴衣であった。
「しかし、変わった構造の服ですね。再現するのに大変苦労しましたよ」
「それでもここまで完璧に仕上げられたのはさすがだな」
優志の拙い絵では細部まで再現させるのが困難であったが、その困難さが逆にロバーツの開拓精神に火をつけた。
「異世界の服飾文化……実に興味深いですね」
ライアンと同じように、己の腕一本でここまで店を盛り立ててきただけあって、そのバイタリティは凄まじいものがあった。
「他にも何かあったらいつでも声をかけてください。僕の腕で出来ることなら協力は惜しみませんよ」
「それは頼もしいな」
優志は代金を支払うと、店をあとにした。
その直後、
「あら」
誰かに声をかけられて振り返る。そこにいたのは、
「あ、あなたは昨日の……」
「どうも」
小さくお辞儀をしたのは、昨日、フォーブの街で出会った淡い紫色の髪の女性であった。
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