第106話 出会い
その日の夜。
リウィルとダズたちの頑張りもあって、店の外観はほとんど元通りになっていた。
「思ったよりも早かったな」
「頑張りましたからね。……でも、そのおかげでとても疲れました。今日はこれで失礼させていただきます」
「ああ。ゆっくり休んでくれ」
大きな欠伸をして、リウィルは先に自室へと戻って行った。
美弦はすでに就寝しており、ダズやエミリーたちも頑張ってもらったお礼に風呂と部屋を無料で開放していたので皆それぞれの部屋で早めに休んでいる。
優志は遅めの夕食のかたわら、思いついた木片の使い道についてクリフに相談していた。
「ふぅむ……」
クリフの反応は渋かった。
渋い――というよりは、理解ができていないという感じだった。
それは無理もない。
「あのデカい木をカットして小さくするというのはわかる。それ自体は別段難しい行程じゃない――ただ、カットした木を一体どうする気なんだ?」
「木だけ気になるか?」
「?」
「……ゴメン。なんでもない」
キョトンとしたクリフの顔で察する。
この世界にはダジャレという文化はないようだ。
断じて、自分のダジャレが寒かったわけじゃなく、そもそもダジャレという文化がないのだから反応が薄くてもしょうがな――
「あっ! 『木』と『気』をかけたダジャレだったのか!」
――くはないようだ。
とりあえず、気持ちを切り替えて、
「コホン。……で、木の使い方なんだが」
優志はさらに詳しく説明を行う。
すると、
「ほぉ……」
クリフの顔色が変わった。
「君のいた世界の文化なのだから、俺は経験したことはない――だが、やってみたいとは思える。勝負形式なら盛り上がるだろうし、何より楽しそうだ」
「だろ? 頼めるか?」
「喜んで」
店の修繕が終わって間もないというのに、クリフは優志の次の依頼をあっさりと承諾。
交渉成立の形として固い握手を交わし、それぞれの寝室へ。
次の日。
営業開始時間の前、優志は単独でフォーブの街を訪れていた。
「こんにちは」
「へいよ~――て、回復屋の大将じゃねぇか」
やって来たのは冒険者を対象としたアイテム屋。
例のプランを実行するための道具を仕入れるためだった。
「冒険者でもないあんたがうちの店に来るなんて珍しいな。……もしかして、またダズたちとダンジョンへ潜るのか?」
「まさか。俺みたいなのはただ足を引っ張るだけですよ。余程のことがない限り、俺がダンジョンへ潜ることはありません」
「なら、なんでまたうちへ?」
「実は――」
優志は必要としているいくつかのアイテムがないかたずねた。
「それならあるぞ。全部で420ユラだが、あんたの店には肩こり解消のために世話になったから300ユラにまけとくぜ」
「ありがとうございます」
優志の店の常連客だったということもあり、格安で必要なアイテムの入手に成功。
「また何か面白いことをはじめようとしているのか?」
「それはしばらく経ってからのお楽しみですよ」
「なんだよ、もったいぶらせやがって!」
世間話を一通り終えて、優志は店を出た。
その直後、
ドン!
「わっ!」
「きゃっ!」
急いで店に戻ろうと慌てていたせいで、通りかかった女性にぶつかってしまった。
「あ、す、すいません、急いでいたもので」
「いえ……こちらもよそ見をしていました。申し訳ありません」
物腰の柔らかい女性――淡い紫色の長髪をしたとんでもない美人であった。
「あ、落としましたよ?」
「! ど、どうも」
ぶつかった衝撃で落としてしまった、購入したアイテムの入った紙袋を手渡された優志は軽くパニック。それほどまでに美しい女性だった。
「では、私はこれで失礼しますね」
「あ、は、はい」
女性がそういって立ち去るのを見て、優志はようやく自分が女性に見惚れていたと自覚をした。
「驚いたな……まさかあんな美人がいたなんて」
リウィルやエミリーも美人に分類して差し支えないが、先ほど出会った女性はまたベクトルの異なる美しさであった。なんというか、触れるのも躊躇われる美しさというか、まるで高価な宝石のような感じさえする。
「おっと、ボーっとしている場合じゃなかった」
街にある時計台が視界に入ったところで、そろそろ店が始まる時間になることを知った優志は足早に店へと向かう。
◇◇◇
フォーブの街の中央広場。
「なるほど……彼がミヤハラ・ユージですか」
先ほど、優志とぶつかった女性がベンチに座りながら優志との出会いを思い出していた。
「ガレッタ神官長だけでなく、あのベルギウス様も一目置くというくらいだからどのような人物かと期待をしていましたが……思いのほか普通の男性でしたね」
安堵の残念感が入り混じる複雑な心境。
異世界人である宮原優志の「査定」を依頼されている女性にとって、優志の外見は肩透かしを食らったという評価であった。
「あまり時間はありませんが、焦っても仕方がありません。もう少し時間をかけて彼に接触するとしましょう」
女性はニッと口角をつり上げると、静かに立ち上がって喧騒飛び交う街中へと姿を消したのだった。
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